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EVの未来

2017年10月25日 | エッセイ

  エコカーの切り札として、家庭でも充電できるタイプのプラグインEVが脚光を浴びています。明日から始まる東京モーターショーでも注目はEVのようです。

  環境汚染のひどい中国は、ガソリンを使わない電気自動車への切り替えを目指すと宣言し、そのことで世界の注目を集めています。販売台数が世界一多い中国ですから、世界の自動車メーカーが右へナラエせざるを得ません。日本のメーカー、アメリカのメーカー、欧州のメーカーも巨大市場中国の動きを追うことになります。年間販売台数は中国2,800万台、アメリカ1,800万台、日本500万台で、中国が世界の3分の1を売っていますので、「中国中国と草木もなびく」状態です。ちなみに日経オンラインにあったEV車の販売に関するニュースを引用します。

「IEA国際エネルギー機関がEVの国際的な普及団体などと組み、世界のEVとプラグインハイブリッド車(PHV)の台数を集計した。16年の累計台数は前年比6割増えて過去最高を更新。世界の中でも中国は65万台と倍増し、米国の56万台を追い抜いた。中国の世界シェアは前年の25%から32%に上昇した。」

  EVは電気モーターのみ、プラグインハイブリッド車とは、エンジンとモーターの両方の動力で動くのは普通のハイブリッドと同じですが、電池への充電はプラグをコンセントに差し込むだけでもできるというタイプの車です。普通のハイブリッド車の充電は、エンジンの動力やブレーキを利用します。

  その中国が電気モーターだけのEV化に本格的に舵を切るというニュースが流れました。ブルームバーグの9月10日記事を引用します。

「中国政府は、化石燃料車の販売終了時期について期限を設ける方針だ。自動車メーカーに電気自動車(EV)開発の取り組みを加速させるよう促すことが狙い。工業情報省の辛国斌次官は9日、天津の自動車フォーラムで、化石燃料車の生産・販売の終了に向けたスケジュールの作成に政府が他の規制当局と取り組んでいることを明らかにした。これが環境や中国自動車産業の成長に大きな影響を与えるとの見方を示した。」

  それに先立ちフランスではマクロン大統領が2040年にガソリン車とディーゼル車の販売を禁止すると宣言し、イギリスもそれに続きました。世界はEV化へ大きく舵を切っています。

  EVのもう一つの注目点は、ガソリン車に比べて技術的に簡素なため、既存の世界的大メーカーの存立基盤を揺るがす存在になりうるという点です。エンジンに代わってモーターが駆動を担うと、自動車そのものが電子部品の集合体になり、相当な低価格化が進行する可能性があります。部品のモジュールを調達して簡単に組み立てられるようになるのです。

  具体的には部品点数ではガソリン車の3万点が2万点程度に、つまり3分の1も削減できるという事が挙げられています。この影響は完成車メーカーだけでなく、自動車産業を支えている巨大なピラミッドを形成している部品メーカーにも言えることで、完成車メーカーはEVシフトで生き残る可能性があったとしても、エンジン回りを作っている部品メーカーの多くは行き場を失う可能性すらあります。EVはエンジン回りとそれに続く駆動部品が圧倒的に少ないためです。

  自動車産業はこれまで大メーカーの寡占化が進み、今後もさらなる寡占化が進むとみられていましたが、EVへの傾斜によって全くわからなくなりました。アメリカではデトロイトからシリコンバレーへと自動車会社の拠点が移動するのではないかと言われるほどです。

  シリコンバレーの自動車メーカーの代表格であるテスラモーターは、台湾を中心とする海外からモーターをはじめとする電子部品を調達し、組み立てだけを行っているメーカーです。ちなみにテスラとは人の名前ですが、発明の巨人トーマス・エジソンの直流電気の供給に対抗し、交流電気の供給法を開発。世界の交流電気普及の基礎を作った人です。巨大自動車メーカーに挑むイーロン・マスクらしいネーミングです。

  では実際にEVはCO2の排出をどの程度削減できるのでしょうか。というのは電気自動車とは言え、充電するには電力が必要で、火力発電やLNGの発電に頼る充電ではCO2を排出してしまうからです。その計算をきちんとしている資料は見当たらないので、マツダのディーゼルエンジン開発者人見氏の次の言葉を、ダイヤモンドオンラインから引用します。マツダはディーゼルエンジンを進化させれば、EVに匹敵するCO2の削減を実現できると頑張っているメーカーです。

「人見氏は、それだけに「地球の課題認識」としてエンジン車の実用燃費改善ターゲットをEVに置き、『SKYACTIVエンジン車で実用燃費を10%程度改善すれば、平均的発電方法で共有された電気を使うEVにCO2で追いつく。火力発電で最もCO2発生量の少ないLNG発電で供給された電力で動くEVにも、30%改善で追いつく』と、最近のEV転換の過熱化に対してWELL-TO-WHEEL(燃料採掘から車両走行まで)の観点から「EVはまやかしで、要らない」とまで言い切る。」

   井戸から車輪までの総エネルギーを換算すると、たとえEVでも10-30%のセーブにすぎないと言っているのです。

  先週のブログで私は国際陶磁器フェスティバルの行われている岐阜までドライブしたと申し上げました。理由はドアツードアの移動時間が新幹線とレンタカーでもさほど変わらず、交通費はなんと二人で5万8千円が1万8千円と4万円もセーブできるからです。つまり差額で宿泊代が出てしまうのです。

  実際の交通費ですが、高速代が往復で1万6千円。ガソリン代は、走行距離はちょうど700kmでしたが、リッター当たり28km走ったため、25リッター。うちの近くのスタンドで125円でしたからたったの3,125円。実際には見込みを下回る1万5千円程度で済んでしまいました。

  リッターあたり28kmって、ホント?

と思われるかもしれませんが、もちろんホントです。うちの車はホンダのシャトルというワゴン型ハイブリッド車で、1,500CCです。

  であれば、燃費代のセーブは3割どころではありません。四輪駆動だった前の車に比べると、半値・八掛け・2割引き。なんと7割減という驚異のセーブです。

  何故一気にEVにしなかったかって?

  充電設備のありかをいちいち気にしなくてはならないEVは、運転していてもきがきじゃないのでドライブはとても無理だからです。

  EVが本当にCO2の削減に役立つのは、化石燃料を使わない自然エネルギーによる発電が大半を占めるようになってからでしょう。

  以上、林の勝手な「EVの未来」についてでした。


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10 コメント

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なんだかんださん、Puffinさん、 (林 敬一)
2017-11-01 18:04:27
なんだかんださんの

「US TREAS BD STRIPPED PRIN PMTとUS TREAS SEC STRIPPED INT PMTに同償還日でも若干の金利差があり、後者の方が0.12ほど良いのですが・・・」
というご質問に、Puffinさんから回答のコメントが寄せられました。

Puffinさんの回答には米国債をアメリカの証券会社で買う場合と、日本の証券会社で買う場合の経験談など、有用な情報が含まれています。

Puffinさん、いつも有用な情報をコメントにいただき、ありがとうございます。

そこで、この情報は読者のみなさんにもお知らせすべきと思い、本文にお二人のやり取りをそのまま転載させていただきます。

なんだかんださんも、有用な情報へのきっかけをつくっていただき、ありがとうございました。
返信する
追記 (なんだかんだ)
2017-10-31 20:51:20
以前、このコメント欄でUSD20万以上であればマレーシアHSBCでも米国債が購入できると教えて頂きましたが、2カ月ほど前に現地窓口で確認した際には「取り扱いは現段階ではなし」とのことでした。リンギットの5年定期預金で3.9でしたので、少し置きました。リンギのリスクをどう考えるかですが、人口ピラミッドがきれいな三角形の国、マレーシアでの生活費に少しのリンギをもってもよいので・・・・。少なくとも日本円でおいておくより安心な感じ。
すみません、つまらない追記でした!
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本当にありがとうございました❗ (なんだかんだ)
2017-10-31 13:31:39
puffinさん
ご丁寧なお返事を本当にありがとうございました❗そういう事だったのですね、やはり投稿して良かったです。キーワード検索で調べてみたのですが、いまいち分からずで・・・「担当者に問い合わせ」して、果たして私の語学力で解決したか?怪しい限りです。助かりました!Strippesですので、税処理はどのみち一括、思い切って全額アメリカで購入しようかな!
また色々とご教示下さい。
返信する
なんだかんださんへ (Puffin)
2017-10-31 00:52:21
私も、今は米国証券会社にて毎月1万ドルずつ米国債を購入しています。

例示された債券のうち、前者はPrincipal(元本部分)で、後者はInterest(利金部分)で、別物です。

私もどちらを買うべきか迷って、米国証券会社に問い合わせしました。電話に出た方によると、債券に関しては専門部署が違うので、調べて後日連絡する、と言われましたが、直ぐ翌日にお返事いただきました。

米国債券市場での取引は、日本の証券会社の場合の、証券会社との相対取引による一本値ではなく、株式同様に売買希望者間での駆け引きで一日の市場内取引の間でも大きく変動するため、同じ償還日のPrincipal同士やInterest同士でも、どのタイミングで買いを入れるかで当然金額も異なる結果となるそうです。ですから、PrincipalとInterestでも、当然何時何分に約定するかで買値は違ってきます。

私は、Interestの場合、年に2回ずつ利金が償還されるので税金や複利計算の関係で金額が違うのかと思って問いただしたところ、償還はInterestの場合でも定められた償還日に一括して支払われるので償還価額は同じ1,000USD単位になるそうです。

因みに、日本の一本値のように証券会社が最終利回りを計算してくれるシステムは無いので、自分が約定した価額を基に、自分で最終利回りを計算する必要があります。Exelをお使いでしたら、標準で関数が組み込まれているので、一瞬で計算してくれます。

計算してみて吃驚。例えば、2040年2月15日償還の米国債Principalの場合、大引けの終値で約3.8%の利回り。翌日の日本でのその価格に手数料を乗せた相対の一本値価額では約2.7%でした。正確な数字は、自宅にある取引記録ノートに記録してあるのですが、現在、休暇で沖縄旅行中の為、手元にありません。
日本での一本値の上乗せ(儲けとしての手数料や為替変動リスクを加味して損の出ない金額を産出している、との事)は、以前何とか聞き出したM証券の場合、仕入れた米国債の仕入れ値に加えて約3%取っている、と言っていました。

為替の仲値からのスプレッドや、米国への送金手数料、米国での売買手数料などが乗っかりますが、それでもなおまとまった金額を買うのならば、米国市場での取引の方が圧倒的に有利だと思いました。

ご参考になれば幸いです。
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ちょっと質問ですが・・・ (なんだかんだ)
2017-10-30 15:53:49
林さん、皆さん、
いつも欠かさずフォローしています。私もこれから米国債を購入していく派ですが、先日口座のあるアメリカの証券会社を見ていましたら、
US TREAS BD STRIPPED PRIN PMTとUS TREAS SEC STRIPPED INT PMTに同償還日でも若干の金利差があり、後者の方が0.12ほど良いのですが、これはいつも林さんが仰っている「流動性差」なのでしょうか?またこの程度の差なのであれば気にせずに購入できますか?もし宜しければ教えて頂きたいです。なにしろ長く待ち望んだ米国債デビューです❗
やはりアメリカの証券会社のほうが安いみたいです。日本とアメリカと半々でと思っていましたが、う~~ん悩ましい・・??
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老後の不安さんへ (林 敬一)
2017-10-30 15:14:25
「米国債を買いたいのですが」というタイトルがコメントの一覧には2つあるのですが、私にはコメント自体を見つけることができません。

どうなっているのか、しばらく様子をみていたのですが、いまだに判明しません。

よかったらまたコメント欄に投稿いただけますか。

よろしくです。
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弥七さんへ (林 敬一)
2017-10-30 15:09:55
弥七さんもホンダでしたか。
ステップワゴンの搭載量はすごいものがありますね。
2人で生活できそうなくらいですね(笑)。
でも2日で1,400kmとは驚異的!
私の2日間国内最高記録は今回の岐阜。
もっとも遠距離まで行ったのは、三陸高田と中尊寺、ただし5日間です。

私は90年代にホンダに乗っていらい、久しぶりのホンダ復帰です。
ただ私のは自動追尾・自動ブレーキは付いていません。
ゴルフの帰りは睡魔との戦いなので、付けるべきなのかもしれませんが、逆に睡魔を呼び込みそうなので、やめました。
コーヒー・激辛ガム・せんべいをボリボリ噛むことで対処しています(笑)。

ただし、アクセルを踏まなくてもよいクルーズコントロールは必須です。
ゴルフの後は足が疲れているため、つってしまうのが心配なのです。
そのためよくやるのはハダシでの運転です(笑)。
足裏の刺激で眠気も覚めるし、つるのも防げます。
今度はアクセルとブレーキのペダルにイボイボを付けようかと(笑)。
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目白のおっちょこちょいさんへ (林 敬一)
2017-10-30 15:07:23
>最近10年もの米国債が2.3%程度になってきたので、少し買いました。MMFに溜まったままでしたが、そろそろ買っていきます。

金利の上昇は大きくないものの、じわりときている感じですね。

そろそろ買うことに賛成です。

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素敵な車を買いましたね (弥七)
2017-10-27 20:30:54
林先生ご無沙汰しています。
ホンダのシャトルはいい車ですね。小柄なのに大量の荷物が乗ります。後部座席を倒せばほぼフラットで、仮眠どころか車中泊もできそうです。先生の車にはアダプティブクルーズコントロールがついていますよね。高速でアクセル・ブレーキを踏まず、ハンドル操作だけで走行できます。これがあるとないとでは長距離ドライブの疲れが全然違います。先生のゴルフのスコアに良い影響が出たのでは?
私のステップワゴンにもアダプティブクルーズコントロールがついています。私一人の運転による一泊2日の旅行で1400kmほど運転したことがあります。もうこれのない車で長距離ドライブはできません。次はアイサイトのような歩行者対象の緊急ブレーキ付きの車を買いたいです。
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Unknown (目白のおっちょこちょい)
2017-10-27 13:10:06
中国のEV戦略は目を見張るものがありますね。
・日本やドイツのエンジンには敵わない→EVへ。
・EVなら環境汚染も緩和できる。
との一石二鳥で、中国環境保護部と産業界とも握手できるようで国内向けにも良いみたいですね。太陽光発電も世界シェア45%と量で押していけますから、日本は益々苦しい立場になりそうです。

原発にこだわる日本政府の姿勢もどうかと思います。

それはともかく、最近10年もの米国債が2.3%程度になってきたので、少し買いました。MMFに溜まったままでしたが、そろそろ買っていきます。
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