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長谷川町子美術館と新しい長谷川町子記念館

2021年03月20日 | エッセイ

  私が住む世田谷区用賀の隣駅、桜新町はサザエさんの街です。地下鉄の駅を降りて商店街に出るとすぐにサザエさん一家の銅像があり、見たとたんにとても心が和みます。漫画家長谷川町子さんが作った美術館があり、駅から美術館までの商店街は「サザエさん通り」と呼ばれ、サザエさん、ワカメちゃん、タラちゃんなど家族の銅像がいくつも置かれています。駅前通りは八重桜の並木があって、もうすぐ満開の桜を見る人々でいっぱいになるでしょう。

   今日は家内が運動不足解消のため散歩に行きたいと言うので、まだ咲いていない桜のつぼみを見ながら、昨年新たに作られた長谷川町子記念館まで歩いていきました。用賀のうちからは30分ほどの道のりですが、国道246号線やその旧道を歩かず、さらに古い大山道(おおやまみち)などの裏道を歩いて行きました。大山道について世田谷区のHPを引用しますと、「大山道は、江戸の赤坂を起点として、青山、渋谷、三軒茶屋、用賀を経て、二子の渡しで多摩川を渡り、溝口、長津田、厚木、そして伊勢原(大山)へと至り、さらには秦野、松田を経て、矢倉沢関所に続く脇街道です。」とあります。

 

  大山は丹沢山系の山で、東京からは中高生の遠足のメッカです。江戸時代には山岳信仰で有名な山で、富士山と並び参詣者が多く、毎年20万人も参詣したと言われています。街道沿いには今でも古い石作りの道標がたくさん残っていますし、居酒屋では大山地鶏のヤキトリや大山豆腐が人気のローカル・メニューです。そして桜新町は隣の用賀や深沢と並び東京では珍しく碁盤の目状に整備された静かな住宅街が広がっています。

  その日はランチも桜新町の小さなイートインのお店でいただきました。名前はドイツ語で「ファインシュメッカ―さいとう」。意味は「グルメの店さいとう」です。ドイツ風の自家製ハムソーセージを販売しているお店です。我々がたのんだのはランチプレートで、ソーセージ2種類とザワークラウト、ハムにピクルス、そして丸いドイツ風パンがついていました。昼どきをちょっと外れていたためか空いていて、オーナーシェフとの会話がはずみました。会話のきっかけは、私が小さなパンにナイフを入れたとたんシェフが、「お客さん、ドイツにいましたね?」と話しかけてきたのです。「ナイフの入れ方がドイツ式だ」というのでびっくり。そんなことを言われたことはありませんでした。

「はい、駐在員でフランクフルトにいました」。

「日本人で小さなパンをそうやって切る人はいませんよ。普通はみなさん直接かじるか手でちぎります。水平に半分に切ったパンの間にハムやサラダを挟むんですよね」。

  たったそれだけの所作から私がドイツで暮らした経験を持っていることを指摘するとは驚きです。彼はキリンビールに就職し、会社からデュッセルドルフに派遣されていたそうです。その後ドイツのソーセージ類が好きになり、ついに製法を勉強して独立したとのこと。

 

  70年代当時一人暮らしだった私は田舎町のドイツ語学校に通い、あてがわれた宿舎のドイツ人家庭でドイツ式のパンの切り方を自然に身につけていたんでしょう。そのことを今回初めて気づかされました。学校はフランクフルトからミュンヘンに至るロマンチック街道のハイライトともいえる中世の街ローテンブルグの中にありました。そこにいたことを話すと彼は自分がローテンブルグを訪ねた印象を話しはじめ、あんな中世そのままの街が残っているなんて、奇跡としか思えないと言っていました。たしかにあの町は直径わずか1㎞もない城壁に囲まれた城塞都市で、昔の街並みがそのまま保存された稀有な街です。お互いにドイツの話で意気投合し、1時間を超える楽しいランチと会話ができました。

 

   さて本題です。長谷川町子美術館は以前からあり、町子と姉の鞠子の収集した美術品が展示されています。絵画を中心に陶磁器など800点余りの美術品が入れ替わり展示されます。特に絵画の趣味は私と似ていて、私の好きな藤田嗣治や岡鹿之助、そして加山又造などを所有しています。私はもちろんただ「見てるだけー」です(笑)。

  ところが美術館はその名に反して長谷川町子やサザエさんにちなんだ展示物はごくわずかしかありませんでした。名前に釣られてきた方は、きっとがっかりしたことでしょう。そこで昨年、長谷川町子の生誕100年を記念して、漫画家長谷川町子の作家活動を展示する記念館が新たに作られたのです、今回は主にそちらを見に行きました。

  記念館の場所は美術館と道をへだててすぐ隣。敷地も内部も美術館より少し広いと思います。私自身は漫画や劇画をほとんど見ない人ですが、サザエさんやイジワルばあさんなどは新聞やテレビで目にしていました。作家としての彼女の才能はとても素晴らしいと思います。わずか四コマの漫画に家族の悲喜こもごもを盛り込む技は見事というほかありません。私の子供時代である昭和の日常生活は漫画サザエさんにすべて盛り込まれ、記念館にはサザエさんに出てくる茶の間がそのまま再現されています。昔懐かしいちゃぶ台、食器棚、火鉢、柱時計からなべかまにいたるまで忠実に再現されていて、自分の子供時代を見ているようでした。

  一方展示は彼女の漫画家としてのデビュー前から始まり、デビューして売れっ子になるまでの経緯がわかるようにできていて、原画などもたくさん展示されています。なかでも4コマ漫画サザエさんの第一作の切り抜きもあり、見どころ満載です。サザエさんの連載が初めて取り上げられた福岡のフクニチ新聞からはじまり、全国紙朝日新聞に至るまでの歴史もたどってくれます。4コマ漫画としてなんと6,500回にものぼる作品がうまれたとのこと。驚く以外ありません。

 

  併設のカフェや図書館風の部屋では、これまでの出版物を自由に手に取って読むことができるので、好きな方にはたまらない記念館だと思います。特に大ファンでもない我々夫婦もカフェでの休憩時間を含め2時間近くのんびりと過ごし、自分の子供時代とサザエさんの世界を楽しむことができました。

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