今年の秋の展覧会は、勝手ながらイマイチめぼしいものがないように思えます。この数年は春も秋もかなりの観客数を動員できるような展覧会が続いたので、ちょっと一息というところでしょうか。
そうした中で、めずらしく遠征をして芸術の秋を楽しんできました。国際陶磁器フェスティバル美濃という3年に一度のトリエンナーレ形式で開かれるフェスティバルで、その名の通り岐阜県の陶磁器産地である美濃地方の各地で同時開催されています。我々は2日間で5会場、多治見市と土岐市を中心に各会場を見学しました。フェスティバルの関係者の方から4人分の「セラミックバレー・ぐるっとパス」をいただき、夫婦2組で行ってきました。といっても1組は名古屋に住む友人夫妻です。
美濃地方は日本の瀬戸物の代名詞である瀬戸があるくらいですから、現在でも日本では圧倒的な生産量を誇る地方です。ブランドとして確立している名前は志野・織部・瀬戸などがありますが、昔からの瀬戸物に加えて、セラミック製品の大メーカーも軒を連ねています。会場を巡るために車を走らせていると、ウォッシュレット工場とか、ガイシの工場などがあり、陶磁器のすべてがこの地方にあるのではないかと思うほどでした。
国際陶磁器フェスティバルのメイン会場は2002年に開場したセラミックパークMINOとい名の素晴らしい会場で、美術館・イベントホール・国際会議場などを備える複合施設です。フェスティバルのメインイベントは現代陶芸の国際コンテストです。世界60か国から2,400点の応募があり、多くの賞が用意されていますが、総合プロデューサーはなんとサッカーの中田英寿氏です、びっくり。審査員は各国の陶芸の専門家に加えて中田英寿やアーティストの奈良美智の名前があり、この二人はお気に入り作品を選び、それぞれ中田英寿選・奈良美智選の札がかかっていました。ちなみにお二人のお気に入り作品は私から見てもなかなかの出来栄えでした。
現代陶芸の作品がどのようなものかを文章で説明するのは難しいので、興味のある方は是非フェスティバルのサイトをご覧ください。現代陶芸というと一般的傾向としてかなり奇をてらったりグロテスクなものがあったりするのですが、今回見た作品にはそうしたものはほとんどなく、むしろアートとしての現代陶芸作品らしさが正面に出ていて目を楽しませてくれました。おもしろいものでは逆にこれは本当に陶磁器で作られているのかという、素材を疑うようなものも多くありました。
例えばどうみても薄い小さな紙を重ね合わせたような素材で作っていたり、レースの糸で作ったのかと思うようなもの、また薄くて裏が透けような繊細なものなどに驚かされました。一体どうやって作るのか、どれくらい時間がかかるのか、見当がつかないほどの緻密な作りの作品は、是非制作過程を見てみたいと思いました。
作品は以下のサイトで写真を見ることができますが、写真では規模感がわからないのが残念です。一般的には写真で感じられるおおきさより、かなり大きな作品が多い印象を持ちました。例えば奈良美智の選んだ作品を見ていただくと、さほど大きなものに見えないきれいなペアの花器なのですが、実は一つの直径が6-70㎝あまりあって、二つが並ぶと相当なボリュームです。しかも底辺が小さいため、地震でもあったら倒壊しそうな危うさを感じさせる作品でした。
http://www.icfmino.com/icc/index.php
今回の出品作品のなかから私の好みの作品を2つ上げますと、
銀賞;6つの小品からなる 「LAND SCAPE」 柳井友一
それぞれ白い砂漠の砂丘に、風が作ったようなきれいな造形です
入賞;花器 「透光磁練込ーhiwalaniー」 佐藤美佳
口の広い花器で、タイトル通り光を透過しそうな薄さで、淡い赤がとても印象的です。
偶然両方とも日本人の作品ですが、実際には日本人の作品は半分程度で、あとは本当に世界各地から応募してきた作品でした。女性の名前がとても多いことも特徴的だったと思います。
我々夫婦は多治見市の山奥にあるひなびた温泉宿に宿泊したのですが、そこにはフェスティバルの名誉総裁でオープニングセレモニーに参加された眞子さまが宿泊されていて、写真が飾ってありました。宿はけっして豪華な宿ではなく、小さな谷あいの秘境にあるような旅館でしたが、とても居心地の良いところでした。
おまけです。先週末、池田学展を日本橋高島屋で見ました。平日にもかかわらず、待ち時間なんと1時間。池田学をご存知の方は少ないと思うのですが、何故か大変な人気でした。彼の絵を最初に見たのは10数年前ですが、本当に驚いたのは09年の上野の森美術館で見た高橋コレクションの「興亡史」という絵です。高橋コレクションは個人の方の現代アートのコレクションとしては超一流で、私の好きな現代アートの作家の作品、それもこれぞという作家の代表的作品を集めたコレクションです。
その中に極細ペンで書いた大きな超細密画で、城郭を巡る興亡史を描いた池田学の作品がありました。それを見て以来、彼の展覧会は極力見に行っているのですが、なんといっても1作に時間がかかるため作品数が少なく、見る機会もほとんどないのです。それが今回は「興亡史」や芸大の卒業制作を含むこれまでの主な作品がほとんど展示されていて、すべてを見るのに2時間もかかり、ぐったりと疲れました。
展覧会が自分にとって満足できるものだったか否かは、見終わった時の疲れ具合によると私は思っています。昨年の伊藤若冲展は2時間待ちもさることながら、見終わった時の疲れ具合はいままでの記録を更新しました。今回の池田学展もかなり疲れを感じましたので、充実度は満点。
そしてセラミックパークの国際陶磁器コンテストの150点あまりの作品も、かなり疲れたので充実度は満点でした。
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