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増えない銀行貸出

2013年08月19日 | ニュース・コメント
  8月16日付の日経新聞に「日銀緩和 融資 波及鈍く」という記事がでていました。日銀がこれほどの異次元緩和をしても、銀行は貸出を増やすまでに緩和は波及していない、という記事です。

  私はクロちゃんの異次元緩和を「日銀という公器を使った賭けだ」 と批判してきました。

  ちょっとそれをおさらいします。みなさんには数字をお示しし「アメリカのFRBのQE3にも匹敵する日本国債の買い上げは無謀だ」と申し上げました。FRBの債券買いが毎月85兆円(住宅債券が多い)に対し、日銀は毎月70兆円です。経済規模はアメリカの3分の1なのに、ほとんど同じ様な量の資金を市場に供給しています。

  しかし日銀が異次元緩和で資金供給をしても市中にそのオカネは出回らず、ひたすら日銀の当座預金に「ブタ積み」になっていることを再三指摘しました。

  今回の「融資 波及鈍く」とはその裏付けの一つです。記事から数字を拾いますと、

銀行が受け入れている預金に対する融資の比率(預貸率といいます)は

・大手銀行 64%   (08年―09年ころは75%程度)
・地方銀行 73%   (  同      75%程度)
・信用金庫 49.6%  (  同      55%程度)


  この4・5年で預貸率を一番減らしているのは大手銀行で10ポイントほど、信金が5ポイントほどでそれに続きます。下落傾向は4月以降もさしたる変化はしていません。特に融資比率の低い信金は余った資金で国債を買っています。日銀は信金の運用手段を奪う爆食をしてどうするというのでしょうか。大手銀行は私がこれまで指摘してきたように、長期国債は危なっかしいので売却し、ほとんど金利はつきませんが短期の政府証券などを買っています。


  預貸率のお話しで注意すべき点は、絶対量では融資も増えていることです。記事によれば「足元では預金は4%のペースで増え、融資は3%のペースで増えている」ので、融資は増えても預貸率は減ってしまう。ということなのです。クロちゃんは日銀の資金供給の何倍ものオカネが世の中に出回るハズということでスタートしてのですが、全くそうなっていません。

  異次元緩和の一番の目的はデフレの克服です。クロちゃんは就任時も現在も、日銀による国債の爆食が、どうデフレの克服につながるのかの説明はしていません。

  みなさんもよくご存知のように、FRBの超緩和策は世界の金融市場に少なからぬインパクトを与えています。それは資金供給が投資につながるメカニズムがアメリカでは働くからです。つまり資金ニーズがあるところに供給をするからです。しかも投資を通じてそれが世界に波及効果をもたらします。ですので、FRBが「ちょっとスピードを緩めるかも」と言っただけで金融市場が大きく反応したのです。

  日本には民間に資金ニーズがあまりありません。ニーズがあるのは借金まみれの中央政府・地方政府だけです。そこで私はこの異常な賭けに警告を鳴らしているのです。デフレの克服どころか一気にハイパーインフレにならないことを祈ります。


コメント (2)
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