ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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インフレと株価

2013年08月03日 | 2013年からの資産運用
  前回は「さわかみファンド」を紹介しました。さわかみファンドは日経平均よりはだいぶよい成績を残していますが、実はリスクフリーの国債に比べると、わずかによいだけだ、と数字を示しました。どうやらリスクを取ってこのファンドに投資するほどのことはなのいかもしれません。

  一方このファンドを作った澤上氏はたくさんの本を書いています。タイトルでいいますと、「やっぱりインフレがやってくる」11年11月出版、「やっぱり株はあがるぞ」12年8月出版、「本物の株価上昇の波が来たぞ」13年3月出版などなど、本屋に行けばびっくりするほど並んでいます。それはこの1-2年のことではありません。ファンドを開始したころからずっと同じ様な内容で書いているのです。15年間同じことを叫び続けて、06・07年に続いてやっとその時が来たかもしれないのはご同慶に堪えないのですが、私の疑問は

①インフレが来たら株価は上昇するのでしょうか?

②株価上昇率は、インフレ率以上なのでしょうか?


  ここまでのアベチャン相場では、インフレなど気配もないのに株は上昇し、そろそろ上昇がおさまった辺りからインフレの気配が少しだけでてきています。みなさんの幸せのことだけ考えてチョー勝手なことを言えば、インフレなしの株価上昇の状態がいちばんいいように思えます(笑)。

過去に日本が、と言っても戦後ですが、本格的インフレになったのはたった2回。それも2度のオイルショック時です。そしてその時、株は暴落しています。

  株の暴落は、石油の値上がりで日本の製造業のコストが上昇し、競争力を失い利益が低下するからという理由もあるでしょう。またインフレが非常に激しかったので、消費者の購買力を奪うということもあるかもしれません。
 
  それと同時に、金利も著しく上昇しています。10年物国債金利は73年の時も80年の時も前年のレベルから2%ほど一気に上昇しました。

  インフレには、金利の上昇がオマケについてきます。そうした金利上昇は、株の暴落と並行します。その原理は、

金利上昇=割引率上昇⇒株価下落

  説明します。株価は企業業績の先取りであることはどなたも認めるところでしょう。理論的には会社が生み出すであろう将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いたもの、と定義されます。バフェットじいさんが使っている割引現値(DC在価F)の株価評価理論です。割引く際に使われる割引率は、リスクフリーと言われる国債金利プラスアルファで、国債金利にかなり連動します。金利の上昇は割引率を高くするので、それで割って出す理論株価を引き下げるのです。

  ちょっと難しくなりましたが、そのあたりのことは私の著書にも説明が加えてありますので、詳しくお知りになりたい方は参照してみてください。要するに金利上昇は株価に下落圧力をかける、ということです。それはこのところのFRBの出口議論に対する株価の反応と同じです。

FRB量的緩和の縮小 ⇒ 金利上昇 ⇒ 株価下落  という流れです。

 「じゃ、経済成長が実現して金利が上昇すると株価は必ず下がるの?」

  いいえ、必ずしもそうじゃありません。これが難しいところです。高度成長期の日本や成長率の高い新興国を見ると、金利が高いにもかかわらず、株価も高い。高金利による悪影響以上に利益の成長が高いと見込まれたら株価は上昇します。

  でも今の日本のように成長余力が小さいと、金利上昇が株価にネガティブに効いて来る可能性はかなり高いのです。

  ここまでをおさらいします。

「インフレが来るぞ、それ株だ!」

という、よく言われる議論を信じて株式投資をされている方には、待望のインフレ到来かもしれません。しかしインフレには金利上昇のオマケがついてきます。すると株価は必ずしも高くなるとは限りません。

成長率の比較的マイルドな先進国になればなるほどその傾向は強まります。そして特に財政状況の悪い国では、

インフレ⇒金利急上昇⇒財政破綻懸念⇒株価下落

という傾向が見られることを忘れてはいけません。
コメント (2)
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