世界遺産と日本/世界の町並み w/IT

世界遺産と日本/世界の個性的な町並みをITを交えた筆致で紹介します。

200年近くも前に地球の大きさ計測プロジェクトの中心となる天文台のあるタルトゥ(エストニア)

2010-11-07 08:00:00 | 世界遺産
 これまでハンザ都市のいくつかを紹介してきましたが、ハンザ同盟の各都市はすべて良港を持っていました。当時の流通の主役は船が担っていて、その基地となるのが天然の良港だったからです。一方、その船が航行するのに欠かせないものがコンパスと海図ではないでしょうか。実は、ハンザ同盟の隆盛期には地球の大きさが正確には判っていなかったのです。従って、当時の地図は、正確さを欠いていたことになります。19世紀初頭になって、地球の大きさを正確に把握しようと測量を行ったのが、シュトルーヴェです。300に近い測量点のうち34箇所が世界遺産に登録されていますが、今回はその中からエストニアのタルトゥを紹介します。

 シュトルーヴェは、北極海に面したノルウェーのハンメルフェストから黒海に近いウクライナのスタラ・ネクラシウカまで2,800km、緯度にして25度に及ぶ地点間を40年間もかかって三角測量でつないでいったそうです。測量点の北端と南端には測量事業の完成を祝した記念碑が建てられています。このときの測量の精度は、わが国の国土地理院の地図作成の基礎データとして取り入れられるほどで、2002年にGPSによる地図作成まで続いていたそうです。登録されている地点は10ヶ国に及び世界遺産で最も多くの国にまたがるもので、総延長距離も万里の長城に次ぐものではないでしょうか。ただ、現在は10ヶ国に跨る測量地点ですが、シュトルーヴェの頃にはロシアとスェーデンで、大部分はロシア領土でした。

 さて今回紹介する観測点の一つのタルトゥはバルト三国の中で北の端のエストニア第2の都市になります。首都タリンの南180kmくらいに位置していて、バスで2~3時間の距離になります。タリンは旧市街が世界遺産に登録されていることもあり日本人にも馴染みがありますが、タルトゥを訪れる日本人はあまりいないようです。シュトルーヴェの測量地点となったのは200年ほど前に建てられた旧天文台で、当時の所長がシュトルーヴェであり、この天文台が測量の中心的役割を果たしたようです。黄色の建物の上にドームではなく、円筒形の望楼のようなものを乗せ青空をバックにエストニア国旗を翻した風景は天文台というより要塞のような感じがしました。


 タリンほど有名ではないタルトゥですが、エストニア国民にとって文化的な拠りどころになっているそうで、日本で言えば京都のような存在のようです。シュトルーヴェも卒業したタルトゥ大学はエストニア最古の大学ですが、実はこの大学は数奇な運命をたどっていて、エストニア人がこの大学で学べるのは20世紀になってからのことだったようです。17世紀の設立がスウェーデン、そして19世紀初頭には土地貴族のドイツ人の大学として、19世紀後半からはロシア語の教育を強制され大学名まで変えられてしまったようです。

 第二次大戦中に破壊されてしまった市街地の整備も進み、美しい町並みが見られ、ラエコヤ広場や大学の付近など緑も多くて気持のいい場所が続きます。ラエコヤ広場には変わった建物も残っています。18世紀に建てられたバークレイの家で、現在は美術館となっていますが、建物がピサの斜塔同様に傾いています。広場に面した入り口は正立しているので、両端の窓とは並行ではなく、なんとも不思議な光景です。広場に妻部分を見せている建物ですが、棟方向にはかなりの奥行きがあり、傾き具合が一定ではないために、側面の壁が波打っていたようです。

 
 市内には聖ヨハネ大聖堂や市庁舎など美しい建物が緑の中に数多くあり、旧天文台があるトーメの丘には廃墟になった大聖堂の壁や旧天文台との間には天使の橋と呼ばれる陸橋があります。大聖堂の廃墟は、アーチ部分がまるでローマの水道橋のようで、かなりの存在感があります。石やレンガで作られた建物は破壊するのにも大きなエネルギーが必要なためか廃墟として残り、タリンの郊外にもピリタ修道院が廃墟となって壁のみが立っていました。

 シュロルーベの測地は、測量地点の大部分がロシアであったことから考えても、たぶんに国家戦略的な色彩が濃いものであったであろうと言われています。シーボルトの伊能図持ち出し事件にも現れているように、地図は一国にとって重要な位置を占めていたわけです。現在の測地はGPS衛星を利用して数m以下の誤差で計数できるようになっています。当初高かったGPS端末も、携帯電話にまで組み込まれるほど安価になりましたが、衛星のほうは相変わらずアメリカの軍事衛星です。現在は、通常制度の電波はただで使わせていますが、いつ何時「使わせるのは止めた」と言われても文句は言えません。国産の天頂衛星も1機が打ち上げられましたが、残りは打ち上げ計画もはっきりしないようです。それに、3機すべてが打ち上げられたとしても、アメリカのGPS衛星を補完する役割で、国産衛星のみで測地できるわけではありません。こんなことで国家戦略上いいのでしょうか。


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