世界遺産と日本/世界の町並み w/IT

世界遺産と日本/世界の個性的な町並みをITを交えた筆致で紹介します。

漆芸の町に、のこぎり状の家並みが続いている黒江

2006-10-15 14:00:18 | 日本の町並み
 ハゼからとる木蝋で栄えた町は内子でしたが、このハゼはうるし科の木で、漆塗りの樹液を採るうるしとは似た樹木です。小文字で始まるchainaは陶器や磁器を差しますが、小文字のjapanは、このうるしで塗られた漆器を差します。japanといわれるくらいですから、漆器のふるさとは日本全国に分布していますが、その中で、漆器四大産地の一つで、お盆の漆器生産高では日本一の黒江を紹介します。

 黒江は、和歌山市の南に隣接する海南市の一部で、JR紀勢線の黒江駅と海難駅との間の西側一帯の町並みです。この町並みは一風変わった家の並び方をしていて、通りに面した家の区画が直線ではなくのこぎり状になっています。手前の家の正面に沿って進むと、次の家の側面に突き当たるという風で、道との間に三角形の小庭があるといった方がいいかもしれません。三角形の場所には草花が置かれていて、独特の風景を作り出しています。その原因には諸説ありますが、地形の関係で通りが直交しなかったため、土地の区画が平行四辺形となり、長方形の家を建てると三角形の土地が残ってしまった、という説が有力です。

 黒江に漆芸が発展したのは、近くに原料の漆や器の芯になる良質の木材が採れること、海に近くて空気が綺麗で漆塗りの大敵のホコリが少ないことが理由だそうで、そのルーツは根来塗(ねごろぬり)で、室町時代から受け継がれたもののようです。黒江の漆芸が発展した理由の一つに、分業化による生産性の向上があり、安くて品質のよい製品を量産できたことによるようです。

 漆という塗料は不思議な特徴を持っていて、硬化するためには湿度が必要で、水と酵素の働きで硬い皮膜を作るのだそうです。はやく固めようと高温にすると、酵素が破壊されて硬化しなくなるとのこと。皮膜の強度は、ペンキなどと比べても格段に丈夫で、酸や、アルカリに対しても丈夫です。遺跡などから芯になった木の部分は朽ちてしまって、漆の塗膜の部分だけが、蝉の抜け殻のような状態で出土することもあるそうです。漆塗りの椀などは、塗りがはげやすく、扱いの難しい器のようなイメージを受けることがありますが、漆が弱いためではなく、芯になる木に施した下地つくりが悪いと、漆の膜面が木肌から剥離しやすいのだそうです。

 漆芸の一つに、蒔絵という技法がありますが、漆の上に蒔いた金粉の上から再度漆を塗った後に、研ぎ出しといって木炭で漆の塗り面を研いで金粉が表面に出てくるようにします。金粉の直径は0.01mm程度の小さなものまであるので、この研ぎ出しには、ミクロンオーダの精度が必要になります。LSIの製造ではミクロンオーダの精度は、今日では当たり前で、さらに1桁高い精度が必要になってきています。ただ、LSIの製造では高度にシステム化された精密機械がこの精度の工作を可能にしていますが、漆の研ぎ出しでは人間の勘がこの精度を生み出しているのですね。