因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団唐ゼミ ☆第30回特別公演『唐版 風の又三郎』

2020-11-17 | 舞台
*唐十郎作 中野敦之演出 公式サイトはこちら   新宿中央公園 水の広場 特設劇場(1
 ようやく初めての唐ゼミのテント公演観劇となった。いいお日和で、JR新宿駅西口から都庁に向かって歩いていると、上着が要らないほどの陽気である。新宿中央公園には明るい解放感があり、澄み切った青空のもとに建つテントは一見不似合いのようだが、その素朴な手作り感はこれから芝居を観る高揚感を掻き立ててくれる。唐組と同じく、従来の客席数を半分にして、換気を十分に行う態勢での上演は、テント入場前に靴の消毒も行う徹底ぶり。

 本作観劇はこれが3回めになる。初回は2005年の近畿大学バージョン(松本修演出)、2度めは昨年2月のシアタコクーン版(金守珍演出)だ。最初はわけもわからず舞台の熱気に酔い、次は主演の窪田正孝に骨抜きにされ、「唐組のテントで上演されるなら、そのときが勝負だ」と意気込んだのであるが、先に唐ゼミの観劇が叶うことになった。

 汗臭く泥臭いテント芝居には、安保由夫作曲の劇中歌が似合う。手作り感満載の大道具小道具の一つひとつが呼吸するかのようで、前述の自衛隊機も、大変な仕掛けなのだが、むしろ「小作り」なところがいっそう熱さを醸し出し、テントの熱気を最高潮に盛り上げる。

 2回の休憩を挟んで3時間を超える上演は確かに長い。汗ばむほどの小春日和だったが、日が傾くとテント内は次第に足元から冷え込み、身体的にも辛い。しかしエリカが白い衣裳を纏ってポーズをとり、「ごらん、これが生き返り、六号室をぬけてきた変装の町の又三郎さ」と高らかに宣言し、起き上がった織部が「もしかしたら、あなたは風の又三郎さんじゃありませんか?」、「君はだあれ?」、「読者です」と、ふたりが出会ったときのやりとりが再び発せられ、テント奥の壁が開いた向うに自衛隊機が現れた瞬間の劇的高揚感はことばにできない。これを聴くために、これを観るためにここまでの3時間があったのだ。

 カーテンコールでは演出の中野敦之が「憧れの作品の上演が叶った」と感極まる一幕もあり、コロナ禍のために、こちらの想像が及ばないほどの苦悩と配慮の末、公演が実現したことの喜びに、胸が熱くなった。

 考えてみると、昼間にテント芝居を観るのはこれが初めてであった。明るいうちから入るテントの暗がりには少し違和感があるが、すっかり日の暮れた新宿の空は広く、駅までの道のりは、観劇の高揚感を抱いたまま帰路に着かせてくれる。好きな場所がまたひとつ増えた。
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