因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

東京デスロック『その人を知らず』

2008-12-27 | 舞台

*三好十郎作 多田淳之介演出 公式サイトはこちら こまばアゴラ劇場 1月5日まで
 考えてみると自分は今回が初めての東京デスロックの公演で、なのにそれが「東京公演休止最終東京公演」とは。よくよく出遅れる質(たち)であるが、何とも。

 キリスト教徒である片倉友吉(夏目慎也)は、聖書の教え「殺すなかれ」を守り抜こうと徴兵を拒否したために憲兵隊に連行される。残された家族も非国民と呼ばれ、さまざまな迫害を受ける。しかし戦後、今度は反戦の英雄として迎えられる。

 2009年1月1日0時付で、三好十郎作品の著作権保護期間を終了し、公共化される。何と12月31日は午後11時に開演し、上演中に著作権が切れるというちょっとしたわくわくもの。東京デスロックの東京最終公演であると同時に、三好十郎著作公共化記念特別公演なのであった。
 題名の「その人を知らず」は、新約聖書で十二使徒のひとりペテロが、「あなたもイエスの仲間だろう」と問われて「そんな人のことは知らない」と3度否認した場面による。師であるイエスを見捨て、信仰があることを隠して我が身を守ろうとしたペテロは自分を恥じて激しく泣く。友吉は「知らない」と言わなかった人である。戦争中と戦後で周囲の人々は生き方や考え方をがらりと変えたが、彼は生き方がぶれなかった。しかし彼に対して尊敬や崇拝ではない、苛立ちや軽い憎悪のような気持ちを感じてしまう自分がいるのだった。

 初日は休憩を挟んでたっぷり3時間の上演となった。友吉と彼を信仰に導いた牧師とその妹以外は、出演俳優は複数の役柄を演じる。衣裳や扮装は変らず、男性の役を女優が演じたりもするが、あまり混乱しない。具体的なモノをほとんど排した象徴的な演出が効果的に思われた箇所もあるが、劇中にJポップを流したり、マイクが降りて来たりなど、意味や意図が掴めない点もあって、3時間の観劇はいろいろな面で鍛えられた。本作がいわゆる新劇系の劇団のきっちりリアリズムの手法で作られていたら、それはそれで辛いところがあるだろう。

 この舞台をどう捉えるか、それをどう表現するかは難しく、観劇からずっと迷いが続いている。戯曲への敬意と心意気はじゅうぶんに伝わってきたが、前述のように受け止めきれない部分も多い。自分の宿題もどうやら年越しになりそうである。

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