メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ギリシア人の物語Ⅱ 民主政の成熟と崩壊(塩野七生)

2017-03-08 14:32:15 | 本と雑誌
ギリシア人の物語Ⅱ 民主政の成熟と崩壊  塩野七生 著 2017年2月 新潮社
ローマ人についての大作につぐギリシア人についての2作目、3巻まであるようだ。
 
1年前の第一巻 民主政はじまりでは、ギリシアで始まった民主政というべきものの原則と政治の仕組み、その成立とペルシア戦役を通じて発展していったアテネの形態、その海軍力それも領地制圧というより安定した公益とそのなかでの主導権確立維持という巧みな経営、が描かれていた。
 
この巻では、紀元前461年から同404年アテネの事実上の滅亡までが書かれている。このくらい昔の話であれば、ローマと比べても資料は乏しいのであるが、それでも傑出した人間を中心に読みたいところである。それまずアテネのペリクレスによって興味ある進行になる。アテネ中心のデロス同盟(これは海上交易、海軍力中心)、スパルタ中心のペロポネソス同盟(これは陸上、そしてスパルタという外へは公式には討って出ない陸軍力がもと)の間の覇権争いが続くのだが、実は正面からぶつかったことは長い間にほとんどなく、無駄な血は流さないという知恵はこんな昔にあった、ということを教えられる。
 
それと、いまだペルシアは大きな力を持っていて、先の戦役の経験からやはり無駄な戦いはせず、ギリシア地方の様々な勢力との均衡を保ちながら、勢力を維持している。
 
ペリクレス以後はリーダーに多少こまるのだが、それでも青年政治家アルキピアデス登場で、また物語としては材料に事欠かない。それに、この人の登場の前から、有名な悲劇・喜劇の作家、ソクラテスなどが出てきて、かれらの作品(もちろんソクラテスはプラトンによるわけだが)ばかりでなく、政治の争いのなかで彼らがどういう位置にあり、何をしていたかもわかって面白い。ソクラテスもアテネ政治の一員でもあったし、歩兵として出征もしたそうだ。
 
基本に民主政があって、その上に寡頭制的なリーダーがうまく乗っかっている時はいいのだが、何かの原因でほころびが出てくると、衆愚制、ポピュリズムが見られてくる。これは現代でも、またこれからも永遠に解が出ない問題だろう。
 
なお、この人たちで面白いのは、前巻のペルシア戦役英雄のテミストクレスがアテネでの陶片追放ののち、宿敵ペルシアのダリウス王後のクセルクセス王のもとに逃げ(好敵手として認めあっていたらしい)、その知恵袋となったように、今回もアルキピアデスがアテネを追われた後なんと宿敵スパルタに入り、またそれを利用して再度アテネをあやつるというような、強烈なリーダーシップを持つものがあわせて自己に対するリアリストの側面を持っていることである。
 
またこの間、アテネ政治の要人の一人であったが、途中解任され冷や飯を食ったおかげで誕生したのが歴史家ツキディデスというのも、まさに歴史の皮肉だろう。

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