メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ビル・カニンガム&ニューヨーク

2014-06-05 18:21:35 | 映画

ビル・カニンガム&ニューヨーク (Bill Cunningham New York、2010米仏、84分) 

監督:リチャード・プレス

 

ニューヨークのストリートや人の集まるところを自転車で駆けめぐり、自分の好奇心とセンスで写真を撮り続け、ニューヨーク・タイムズに掲載し続けているビル・カニンガム(1929- )の日常といってもほとんどはその仕事を追い続けたドキュメンタリー映画である。

 

この歳(撮影当時80)でなんという身の軽さ、耳だけ少し遠いようだが、ニューヨークのセレブからファッション業界、そして街を歩くおしゃれな人たちとのコミュニケーション能力とその間にぱっぱと撮っていく技術は抜群である。その連続と、自転車で駆け抜けていくニューヨークの街の風景が魅力的で、見事。

 

どっちかというと、自分の思った通り普通よりは奇抜で変わったもの、オリジナリティーがあるものが彼の好みのようで、それに関するおしゃべりは、見る側に強く訴えるものがある。

 

カメラはニコン、フィルムはもうこの時期であればフジしかない。

 

この映画が日本に紹介されたとき、かなり話題になったと記憶しているが、一見の価値がある。好きなことを最優先した潔い人生。

 


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夏目漱石「坑夫」

2014-06-02 10:53:47 | 本と雑誌

「坑夫」 夏目漱石 著 (岩波文庫 2014年2月改版)

 

こういう小説があることは知っていたが、読む機会も、あらすじなどを知る機会もなかった。

1908年に新聞連載されたそうで、「虞美人草」と「三四郎」の間の作品である。

 

東京のおそらく多少教養のある家庭に育った学生が、あるきっかけで挫折というか家を衝動的にでてしまい、ふらふら歩いているうちにポン引きにあって、当時なかなかやりたがる人はいないが稼げる仕事だったらしい坑夫になることになって、他に引っ張り込まれた二人と一緒に、おそらく足尾銅山まで連れて行かれ、本人からすればとんでもない環境に四苦八苦しながら、試しにと坑内に連れて行かれ、とんでもない目に合うが、なんとか出てきて、その間に会った人の意見もききながら、少し働いて、帰っていくまで、の話である。

 

主人公はまだ幼さが残るとはいえ青白きインテリであるが、主人公/作者の描写は、社会の底辺の人たち、社会構造に対する認識に加え、そういうことをある程度批判的に見ている自分というものを、レビューの対象としていて、このあたりはさすがである。

 

ただその先どうか、というと、それはどうしようもなく、中途半端な終わり方といえなくもない。実験小説なのかどうか。

 

それでも、この次に書かれた「三四郎」を読んで、何かはがゆい感じがしたが、「坑夫」がその前にあってのことであれば、少し納得がいく。

 

漱石の主要作品の多くは読んでいるけれど、これについては、岩波文庫で改版が出ていくつかの読書欄で「意外とシュールだ」とか話題にならなかったら、読んでなかったかもしれない。結果としてはよかった。


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