「坑夫」 夏目漱石 著 (岩波文庫 2014年2月改版)
こういう小説があることは知っていたが、読む機会も、あらすじなどを知る機会もなかった。
1908年に新聞連載されたそうで、「虞美人草」と「三四郎」の間の作品である。
東京のおそらく多少教養のある家庭に育った学生が、あるきっかけで挫折というか家を衝動的にでてしまい、ふらふら歩いているうちにポン引きにあって、当時なかなかやりたがる人はいないが稼げる仕事だったらしい坑夫になることになって、他に引っ張り込まれた二人と一緒に、おそらく足尾銅山まで連れて行かれ、本人からすればとんでもない環境に四苦八苦しながら、試しにと坑内に連れて行かれ、とんでもない目に合うが、なんとか出てきて、その間に会った人の意見もききながら、少し働いて、帰っていくまで、の話である。
主人公はまだ幼さが残るとはいえ青白きインテリであるが、主人公/作者の描写は、社会の底辺の人たち、社会構造に対する認識に加え、そういうことをある程度批判的に見ている自分というものを、レビューの対象としていて、このあたりはさすがである。
ただその先どうか、というと、それはどうしようもなく、中途半端な終わり方といえなくもない。実験小説なのかどうか。
それでも、この次に書かれた「三四郎」を読んで、何かはがゆい感じがしたが、「坑夫」がその前にあってのことであれば、少し納得がいく。
漱石の主要作品の多くは読んでいるけれど、これについては、岩波文庫で改版が出ていくつかの読書欄で「意外とシュールだ」とか話題にならなかったら、読んでなかったかもしれない。結果としてはよかった。