メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

シェルブールの雨傘

2018-09-21 14:34:11 | 映画
シェルブールの雨傘(Les Parapuluies de Cherbourg、1963仏、91分)
監督・脚本:ジャック・ドゥミ、音楽:ミシェル・ルグラン
カトリーヌ・ドヌーヴ(ジュヌヴィエーヴ)、ニーノ・カステルヌオーヴォ(ギイ)、マルク・ミシェル(ローラン)、エレン・ファルナー(マドレーヌ)
 
何度か見ているが、今回は何十年ぶりだろうか。実は、この映画で音楽を担当している、そして誰もが知っているこのメロディーをつくり出したミシェル・ルグランが、偉大なジャズ・ピアニスでもあったということを最近まで知らなかった、ということがあり、それで放送されたことを機会に録画して見たというわけである。
 
この人のジャズ・ピアニストぶりをはじめて知ったのは2014年、ナタリー・デセイがオペラで歌うことからは引退するということで、記念のコンサートがヴェルサイユであり、そこで共演したのがルグランだった。今年、来日して公演をやったようである。
 
冒頭、タイトルとクレジットが並ぶ背景、真上からのカメラの下、様々な色の傘が、様々な方向からあらわれ動いていく見事なショットから始まる。そしていきなり台詞でなく歌で始まり、それが続いていく。そう、これはミュージカルといっても台詞はまったくなしで、すべてが歌という異例のものであった。なれてくると、そんなに言葉は多くなく、早口でもないので、このドラマの進行に自然に慣れてくる。
以前少しやっていたフランス語だが、ここではあまり難しい単語を使っていないので、わかるところもかなりある。
 
今回注意して聴いていると、あのラブソングの流麗なメロディー以外で、たとえば主人公の娘と傘屋をやっている母親が議論・口論する場面など、オペラでいえばレシタティーヴォだが、ここの音楽が全くのジャズ、それもコンボのジャズである。ああ、そうなんだ、とやっと気がついた。
 
そして映画は、ジャック・ドゥミの傑作である。話、映像、カメラ、それら全体の演出、たとえば美術だが、キャストそれぞれの場面場面での衣装の色はシンプルに、象徴的に、対照的にわかりやすく決められており、それは壁紙にもいえる。フランスの街だとアメリカなどに比べ、建物、部屋、通路など小さいから、そういう仕掛けは効果がある。
 
話は、港町の貧しくはないが裕福で余裕があるとは言えない家の、両親がいない男と、父を亡くした娘が恋をするが、母に反対されているうちに、男には兵役になり出征(おそらくアルジェリア)、そのすぐ後に娘は妊娠していることがわかる。母はつぶれそうになった店のこともあり、娘を見初めてくれ事情も理解してくれた金持ちと結婚することをすすめ、手紙も途絶えがちになった男を断念して娘は結婚する。
そして、負傷して除隊した男が帰ってきて、事情を知り、、、さてというわけである。
 
音楽でストーリーにめりはりをつけていることあり、話の進行はテンポよく進み、1時間半で一気に見せる。
さてこの話、どこかに原型があったのでは、と思ったのだが、おそらく「マリウス」(マルセル・パニョル)だろうか。「マリウス」はちゃんとしたものを見てはいなくて、そのことを書いたものを読んだことがあったのか、TVでその話があったのか、かなり昔ののことで覚えていないのだが、マルセイユの話だったと思う。
 
カトリーヌ・ドヌーヴはこれで有名になり、その後はだれもが知る大女優だが、ここでは開花する前という感じである。でもその素質は見抜かれていたということだろうか。その他は適役で、男女とも顔がきれいで嫌味がないのはミュ―ジカルにはいい。
 
さてこの作品、この前に見たのは随分前だというのに、印象強くよく覚えているのはラストシーンのせいである。
除隊後、いわゆる兵隊くずれというか、荒れていた男ギイは亡くなった両親のかわりに世話をしてくれた叔母の死に目にあい、叔母を世話してくれたマドレーヌと結婚し、叔母の遺産をもとにガソリンスタンドを始める。子供もできて迎えた雪の降るクりスマス、偶然ジュヌヴィエーヴが子供を乗せた車で給油に来る。顔を見合わせる二人、少ない言葉でお互いすべてを察する。はらはらして見ているこっちに対し、画面の二人の大人のおもいやりがじんとくる。
 
嘗て見たときはこの場面で、こういう映画でどちらかというと男が不幸に見えるケースがありそうなのに、ここでは反対のようにみえるのが印象的だった。それはともかく、悲恋に終わる映画と紹介されることが多いが、はてそうだろうかと思った。
 
このラストシーンの本当の最後数秒でジャック・ドゥミは見せてくれる。
給油を終わった女が車をスタート、画面の左に去ると同時に、右からプレゼントを買いに行った妻と子が帰ってきて男に駆け寄り三人で喜び合う。そこで引いたカメラの映像で映画は終わる。見事である。
 
ジャック・ドゥミのメッセージ、「悲しいことはおるけれど、みんな生きて幸せになれ」


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