メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

田畑あきら子の絵

2006-11-22 23:14:35 | 美術

「田畑あきら子と難波田史男」と題した展覧会が新潟県立近代美術館(長岡市)で開催されている(2006年10月31日~12月17日)。 「田畑」は「たはた」と読む。
 
田畑あきら子(1940-1969)を知ったのは、多くの人と同様に洲之内徹「気まぐれ美術館」(新潮文庫)でだが、10年近く前に読んだときにはあまり気にとめなかった。口絵(カラー)と文中(モノクロ)に絵は出ているものの、あまりインパクトを感じない抽象画だったせいかも知れない。
 
しかし最近再読してみて、彼女の絵に対する姿勢に共感を覚え、ネットで検索してみた。ちょっと無名になると検索結果が極端に少ないのは他の画家と共通の傾向だが、それでも、今秋新潟で展示会があるらしいことだとか、Amazonでまだ彼女の詩画集(1997年 新潟日報事業社)が購入できることを知り、まず本を早速注文入手、手にとって驚いた。 
 
おそらく短い生涯の作品ほとんどがここあるのに加え、絵に即したりして書いた詩、詩の直前の日記など。
この描きながらその瞬間瞬間のキャンバスと自分とに対峙しながら、その緊張から逃げずに、また描いていった、その結果は、やはり実物を見たくなるのであった。 
 
贅沢だが休みをとり新幹線で日帰りで長岡まで行ってきた。
企画展の開催前で、見ている人はほとんどなく、それはじっくり見ることが出来た。 

ただ、最初企画展に近い形だったのが、常設展の中でということに諸事情でなったらしく、彼女の作品はわずか17点である。それでも、油彩、線画、コラージュなど、やはりごく近くから見ればそれだけのことはある。
 
たとえば「気まぐれ美術館」の口絵にある油だが、これはそこそこ大きいものだが、上の方に出てくる黒い線は彼女にしてはシャープだけれど近づいてみると上の白を引っかいて下の黒を出したように見え、下の方の柔らかい線は確かに筆で描いたもので、洲之内徹が書いているように緩やかで速度が遅いようだ。またこれが、彼が引用しているように彼女の詩にある

コレガワタシノ オボロ線 デアッテ
オボロニ変身スルコト ト 絵ヲ
創ラナケレバナラナイコトノ関係
ガ スナワチ 現実ガ現実ヲ見失ウ
コトナノデショウ 、、、

の「オボロ線」なのかなと思ってみたりする。
 
それと、アシール・ゴーキー(1904-1948)から影響を受けたといわれるところも少し理解は出来た。
実はアシール・ゴーキーという人は、彼女に興味を持つまで絵は知らなかった。
幸いにもワシントン・ナショナル・ギャラリー
http://www.nga.gov/cgi-bin/psearch?Request=S&imageset=1&Person=12850 
などでみることが出来る。

また科学、宇宙という彼女からよく出てくる想念を思わせる線、人間の筋肉の線が次から次へと出てきて、変化しつながる、そういういくつかの絵にはエロチックなところもある。

一人の画家として、完成度、まとまり、量など、もう少し生きていたらというのは失礼だが、やはりあまりに若い時期に病は急であった。
 
それにしても今回の前に開かれたまとまった展覧会は、10年前1996年11月同じ新潟県立近代美術館においてである。
こうして久しぶりであれば、もう少し油彩、デッサンを集めて欲しかった。この美術館所蔵のデッサンだけでももっとあるときいているのだが。
 
いずれ首都圏でもっとまとまった展覧会を企画して欲しいものである。全国のファンも来やすいだろう。


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