メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

虹の女神 (Rainbow Song)

2006-11-03 13:01:31 | 映画
「虹の女神」(Rainbow Song)(2006、117分)
監督: 熊沢尚人、製作: 岩井俊二、脚本: 桜井亜美、撮影: 角田真一
市原隼人、上野樹里、蒼井優、酒井若菜、相田翔子、鈴木亜美、田島令子、尾上寛之、小日向文世、佐々木蔵之介
 
岩井俊二が初めて製作のみというが、全体に岩井ファミリーが多く、そういう雰囲気は残っている。
しかし熊沢のタッチはよりやわらかく、気持ちいい。その分岩井の何か引っかかる、あとから何だったんだあれ、というところは少ない。
 
このところの若者の世界を描いた映画によくある、直接の接触で理解しあうことが出来ない、しかしだからといって観念的に、悲劇的にいってしまうのではなく、思い出の中では解決されていく、といった流れだろうか。
主人公に近い世代であれば、細部にもっと感情移入できるだろう。もっとも最後の場面で市原が見る過去の手紙、これには引き込まれる。
 
大学時代に映画サークルでいっしょだった上野と市原、映画はアメリカへ映像修行に行った上野が飛行機事故で死んだという知らせで始まり、そして出会いにさかのぼり、また現在までを、題名つきのいくつかの章構成で描いていく。これは映画だということを強調したような形。
 
男は(一般にそうだが)優柔不断でぎこちない、だからその自信の無さが市原の、前のめりにとりあえず何かをしゃべってしまうという演技でうまく強調されている。
一方の上野はそれを一度受けてかわしてしまうから、そのあと正直に言えないという形で受ける。本当に彼女はいくつものスタイルを映画に応じて出せるんだなと感心する。
 
そして上野の妹、この目が不自由な子を蒼井優が演じる。脚本でもこの妹は要所要所で二人をつなぐキーになる役で、事故の後現地へ飛ぶときのわがままな振る舞いから見せていくが、最後の遺品を前にしたところは、さすがである。もっとも、このところの活躍からどうしても集中してみてしまうので、少し立派過ぎるかなとも感じてしまう。難しいものである。
 
最後に葬儀の日にもどり、大学のサークルで撮った映画のフィルムが見つかり、それがこの映画の中で画面いっぱい上映される。
生きているときには、思いは伝わらなかったが、この映画というものに、それは実っているとでもいうように。
 
これは、映画の、映画を作ることに対するオマージュでもあろう。
 
朝のワイドショーでこれが紹介されたとき、岩井俊二はインタビューにこたえ、この中で上野がフィルムにこだわり8mmカメラで撮った、という設定には、岩井がずっとコンビを組んだカメラマン故篠田昇のことが頭にあり、上野、市原、蒼井にそのことを話したと、語っていた。

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