ベルイマン 完走

去年の9月の後半から12月30日まで、

私は 蠍座で連続上映していた 『 イングマール・ベルイマンという芸術 』 の

13本の作品を続けて観ていました。


『 不良少女 モニカ 』

『 夏の夜は三たび微笑む 』

『 第七の封印 』

『 野いちご』

『 処女の泉 』

『 鏡の中にある如く 』

『 冬の光 』

『 沈黙 』

『 仮面 ペルソナ 』

『 叫び と ささやき 』

『 ある結婚の風景 』

『 秋のソナタ 』

『 ファニーとアレクサンデル 』


この13本 です。

イングマール・ベルイマンは、1918年に生まれ、2007年 去年の秋に亡くなった

スウエーデンの映画監督で、追悼連続上映だったわけです。

それにしましても、1人の映画監督の作品を1週間に1本ずつ、合計13本観たのは

初めてで、完走できた12月30日は とてもうれしく 充実感も格別でした。

私のベルイマン作品の感想は ” 強烈 、そして 痺れるような美しさ ” でしょうか。

この特集にあたっての作品紹介のしおりのコピーにもあるように、


「 神の不在と悪魔、生と死、

    そして愛の不条理と性 」


このような 強く太いテーマを スウェーデンの、中世から現代までを自在に舞台にし、

光と影の芸術 といわれる映画の、その手法を極みまで高め、革新し、表現しきった人。

” 映画はエンターテイメント ”、とはよくいわれますが、ベルイマン作品を見つづけて

いる間中 私の頭には ” 芸術 ” という二文字の漢字が常に現われて、

いつものようにスクリーンを観ていて、確かに映画館のシートに身を埋めてはいるのです

が、目の前に映し出されているのは、私が観ているものは、もっともっと巨大な何か、

イングマール・ベルイマンという芸術家そのもの、そんな、圧倒感でした。

久しぶりの ” 圧倒感 ” 、でした。

映画や小説において、「 自分の感想文能力を越えていて、言葉を失い、でも はっきり

と魂レベルで揺さぶられ、痺れさせられ 、ているのはわかっている作品 」 に

何年かに一本、一作、出会います。 ( テオ・アンゲロプロスの 『 永遠 と 一日 』、

フェリーニ の 『 8 2/1 』、ジョイスの 『 ユリシーズ 』 などなど )

ああ、良かった! しみじみと沁みる作品だった、と心豊かになってふーっとため息を

つく、自分で味わい把握できる作品、これはまだ穏やかに平和です。

そのような日常的な調和を軽々と越えていて 今までの私の幸福の概念をぶち壊す暴力的

なほどのパワーと美を持つ、怪物のような作品に出会った時の虚脱のような感覚は 

芸術という巨大な電源に触れて感電してしまうのに近いものでしょうか。

私にとって、ベルイマンとの出会いは後者でした。

まるで 巨木のような ・・・・ごうごうと嵐のなかで全身を揺らして怒り聳えていたり、

春の日差しをその末端の小枝の先から透かしていたり、人生の豊穣の時のごとく落葉し

大地に滋養を与えていたり、硬く硬く凍った雪と 生き物全てが眠ってしまったような

静かで不穏な冬の冷気の中で物言わずじっと耐えていたり・・・・・そんな印象を強く

うけました。もっと映画に精通していたら、ここでベルイマン諭を展開したいところです

が、私は諭ずる以前、巨木に出会ったただそれだけで泡を吹いている段階、本来的な

感想文はこのくらいにしておきます。



そして、そして、ここからが私の得意な分野、ステキな映画からのお土産コーナー!!

ベルイマンの作品、確かにちょっと前衛芸術的なものもあったのですが、そのような作品

であっても細やかな生活シーンがものすごーくステキだったの!!

たとえば、『 鏡の中にある如く 』 は、精神分裂してゆく長女、その父親・弟・夫の、

まあ暗い辛い愛のお話なのですが、その長女の身につけている洋服のかわいさったら

ありません! オープニングすぐでは ワンピースにふんわりとしたモヘアのたっぷり

カーディガンをはおり、素足に長靴をはいています。彼らは孤島のコテージに夏休みに

来ているのですが、ワンピースに長靴の長女カーリンと弟は、浜辺からコテージに戻って

ホーローのバケツに牛乳をくんでくるところ、そのホーローのバケツの感じがまた良い!

それから、同じくカーリンが着ている寝巻き、これがなんともよいんですー!

白黒映画なんだけれど、それだからなおさらなのか、その生地が上等のリネンであること

がわかり、シンプルな形のそのナイトドレスの贅沢質素な感覚がつたわるんでした。

思わず 「 うわー!!! 」と声が出た。 

今回の13作にはパジャマとナイトドレスが結構登場して、そのどれもが本当に

ものすごくかわいく、また上質で素敵だったなあ。

浜辺で夕暮れ時に家族4人で食事するシーンも、キャンドルでしょー、お皿でしょー、

グラスにお鍋、テーブルとクロス、そして料理をサーブするしぐさでしょー、もう全部

興味しんしんのシーンです。 普段の暮らしぶりを見せてくれていて。 

カーリンの病状が悪化して、夫が薬を飲ませるためにキッチンにいってコップに水を汲む

ところも、白い清潔なホーローのバケツが木の椅子の上に置いてあって、

ひしゃくでガラスのコップに移す、その道具のいちいち、キッチンのしつらえの全てが

「 うわー!! 」 なんでした。

『 冬の光 』 の 教会の建物、そしてそのバックルームの簡素さも、

『 ファニーとアレクサンデル 』 後半の司教館の、15世紀に建てられたという設定の

室内の淡いグレーを基調とした簡素さも、宗教的な精神生活を伝えて見事に ” なにも

ない ” 空間で、息をのむほど美しい! 『 ファニーとアレクサンデル 』でのこの

司教館は悪夢のような日日の舞台ではあるのですが・・・。

それから 『 仮面 ペルソナ 』 は 二人の女がこれまた海辺のコテージで一夏を

過ごすのですが、目深にかぶった日除けの麦藁帽子とサングラス、黒い ( たぶん。

なにせ白黒映画なので。 )シンプルなワンピース型の水着を、ほんとに当たりまえに

身につけていて、とっても素敵。 そのコテージ内のしつらえももちろん良くて、

たっぷりと大きなカップ&ソーサーがいかにも北欧のテーブルウェアでして、

「 ああ、欲しい! このカップ!! 」 というものでした。

『 沈黙 』 では ヨーロッパのホテル文化を見せてくれます。

大きな真鍮のベッド、夢のような弾力の真っ白いカヴァーの羽根布団、まくら、

呼び鈴ひとつで現われる燕尾服?を着た老ルームサービス係の所作とその服従ぶり、

客室と静まり返った廊下の空気感・・・・・。



ああ、もうきりがないので やめます。

今回は異様に長くなってしまいました。

ベルイマンは 40作品以上も撮っているそうで、なんとか他の作品を観たいもの。

今後の楽しみです。

















コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
やはり芸術・・ (gon)
2008-01-26 11:25:19
・・いいですね。こんにちは。電話室だより拝見しました。芸術に圧倒される機会・・減らしたくないな~と思いました。
ばたばたしているとケミカルな人間になってしまいそうで。圧倒的なものに揺さぶられ、もの思い、積み重なりひろがる・・・とやがて世界平和に。とこんな時代でも信じ揺さぶる側の一端にでも身を置きたいと願う気持ちはまだ残っています。ケミカル率が上がると忘れがちですが。 まずはぐらんぐらん揺さぶれれるべく映画見に行きたいです!!
 
 
 
gonさま へ (PQどき)
2008-01-27 14:32:54
こんにちは。

お便りありがとうございます! お元気ですか?

今回は なんだか私カッコつけて ”芸術 ” なーんて

書いちゃいましたが、そうとしかいい様がないのでした。

日常生活において ”芸術 ”って言葉はあんまり馴染み

ませんが、日常生活ほど気をつけていないと感度の鈍い

ぼけた自分になってしまって・・ ( gonさん流にいうと

ケミカルな、)かさかさしてきますよね。

そこで ”ゲージツ ”の登場です。 効きます!!

芸術以外では ”自然 ” でしょうか。

普段は普通に暮らしていて、時折疲れてきて、めそめそ

どんよりしてきたら、マッサージサロンや美容室や

病院に行く要領で、美しいものに触れて、生まれ変わった

自分、もしくは本来の自分を手に入れる、そんな感じ、

でしょうか。 

gonさんは 次観る映画、なんですか?
 
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