古典文学を読む




私においては、タイトルだけはよく知っているけれど読んではいない大多数の

古典文学ですが、小説を読む醍醐味を味わいたくて、たまにその時の気分で

選んで読み始めるのです。

だいたいが17世紀頃から20世紀前半に執筆された、世界文学史に名を残す

超有名な作品ですから、なんとなく内容もおおざっぱには知っていたりもする。

でも・・・・・。

本物は、実はどんなもんだろう・・・・?

どんな書き出しで、どんな文体で、どんな展開で、どんな味わいなんだろう?

そこで、おしっ、読んだろ!

そう決心して、その作品世界に一歩、一歩、足を踏み入れてゆく、

それはなんともワクワクする、旅、なのですよ、ホントに。


ギュスターヴ・フローベールっていう響きがすてき・・・・・

彼の代表作のひとつ 『 感情教育 』、

日本語にした人はどなたか知らないけれど、これ実に名訳だよね、

それで感情の教育って ・・・・・ 一体どんな ・・・・・ ?

フランス語原題は 『 L'EDUCATION SENTIMENTALE 』なんだけど

欧文字だとさらにイカスぜ。


そんな奇妙なミーハー心を長年うすうすと抱き続け、

でも何となく読めずに人生は進んでいたが、

ふと、いよいよ実物を読んでみよう、と。

( どういうタイミングでスイッチが入るかは謎なのです )

フローベール先生のポートレイト付きの、いつものように分厚いハードカバー

の、世界文学全集 『 感情教育 』 に挑むことにしたのでした。

が、その一冊には、『 感情教育 』 より更に超有名な、かの 『 ボヴァリー夫人 』

が最初に入っていたので、夫人にも会ってみることに。





ボヴァリー夫人の名前は、エマさんでした。

片田舎の藪医者シャルル・ボヴァリー ( バツイチ ) と、その後妻エマ・ボヴァリーなの

ですが、このお二人が結婚してしまったのが全ての間違いの根本原因ですね。

人生において野心を持たず、波風立てず、つまり全く持って地味な生活をしていたい

・・・・というよりは、それしかできない凡夫シャルルが一目惚れしてしまったエマ嬢は、

裕福な農家の生まれ。

世俗的な上昇志向と、女性ならではのロマンスへの憧れをたっぷりと持って嫁入りした

健康優良女子エマでしたが、結婚した相手には、 ” 医師 ” という社会的に高い階級に

属していることから期待できるはずだった教養ある会話とか、裕福な暮らしや装いとか、

上流の人々との華やかな交際とかは、ことごとく針を刺した風船のごとし、パンッ!!って。

打ち砕かれ、退屈な夫との暮らしの現実に絶望。

エマさんは、それでどうしたかというと、不倫して、捨てられて、も一度不倫して、

エェイッ儘よ! とばかりに豪奢な装飾品やらドレスやらを買いまくり借金しまくって

堰が切れたかのように欲望に身をゆだねていくのです。そして、シャルルはそのような妻の

変化に全く気がつかないのでした。

父親のけがの治療がきっかけで出合ったシャルルだったけれど、エマはもっとよく相手の

人となりを確かめてからでもよかったのにねぇ。

まあ、確かめてたら、自分の望みは叶えられそうに無いのですから、なんとか断れただろ

けれど ( そも彼女の望みっていったって、夢見る夢子もいいところ ) 、

いざ、一緒に暮らしてみて、相手をどんどん軽蔑してしまう、どんどん嫌になっていく、

そんな男と一生連れ添わなければいけないとしたら・・・人生終わってる、確かに。

その点と、19世紀半ばで、自分では教養も容姿も持ち合わせていると自惚れている田舎

女子の思考の限界っていうのはあるよなぁ、という点では少し同情するけれど、

結婚って、新しい家族を作ってゆくことだと思うんですよねー、彼女にはその理解と覚悟

が欠落していて、子供を授かるけれど、その子の成長とか親としてのなんだかんだとか、

あまりに希薄だし、

要するに、エマって、全然家庭的ではなく( 家庭的じゃなくても全然いいんだけど ) 、

かといって自分に出来ること得意なことをやっていこうという現実性も、特別に才気溢れる

というものでも全くなく、無駄に上流へのカラ夢ばかりの中身の無いアホ女です。

そんなエマにつけ込む悪い奴らと、どうしようもない意気地無しとにまんまと翻弄されて、

絡め取られて押しつぶされて、とうとうエマさん死ぬることになってしまいました。

エマの最期、それはそんな不幸なエマが最後の最後に爆発させた、超パンクな死にっぷり!

名場面、といえるかもしれませんし、絶命してようやくホッとしているかもしれません、エマ。

凡夫シャルルにおいては、容赦なしの ( ある意味うらやましい ) ブラックコメディのごとき

死に様なんですよ。

ブラックコメディといえばこの作品まるごとブラックコメディなのです。

主題は無く、実際にあった田舎のスキャンダル事件を題材に、空白思考の超ダメ女と、煮ても

焼いても喰えない男と、ブルジョアジーの滑稽さを冷徹に、磨き上げた華麗な文体で描き尽くし

た硬質の宝石のような芸術作品でした。

文学史上にもいろいろと有名な夫人がいらっしゃるけれど、やはり会ってみないとわかんない

ですねー当たり前ですが。この度のボヴァリー夫人には、作者同様、私も何の共感もなかった

のですが、 「 エマさん、あっぱれでした! 」 と拍手を送りたい気持ちになりました。

読んでみてよかった。フローベールに出会えて ( エマではない ) 嬉しい。




ということで、だいぶん長ったらしくなってしまい 『 感情教育 』 については省略。

実にすばらしかった、とだけにしときます。

( この原稿、書き始めは8月なんです、ちなみに読んだのは昨年5月・・・ )























 

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