レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

ついに見たぞ『ROME』

2008-08-28 05:14:39 | ローマ
「ROME ローマ WOWOW ONELINE」


 すでにあちこちで結構話題になっている、英・米のドラマ『ローマ』、共和制末期から帝政へという劇的な、それゆえに一部のマニアにとってはわりあいお馴染みの時代が扱われている。「R15指定」で、濡れ場や流血シーンが多いとか、設定がところどころ大胆すぎるという評判をきいていたので、関心はありつつも尻込みしていたのだけど、どうせなら夏休みのうちに、と思って地元ツタヤで借りてついに見た! 見始めたら引き込まれた。
 
 主人公に架空キャラの男二人。カエサルの軍団の百人隊長ヴォレヌスと兵士プッロ。マジメカタブツのヴォレヌスと、陽気な無頼漢プッロ、こういう組み合わせだと(どちらか死ぬなら)マジメなほうが死ぬ、というセオリーにのっとっているーーなんて、のっけからバラしていいのかいと思うが、ある程度粗筋を知ってから見ても充分に面白いし、仰天ものなので、ネタバレ配慮なしでこの項続く。
 ヴォレヌスの俳優、戦争映画ならばドイツ軍がハマりそうな感じ。髪明色だし目は青いし、むしろあまりローマ人っぽくない? プッロのキャラで誰か思い出すと思ったら、大河ドラマ『新選組!』の原田左之助だ。
 この対照的なヤロー二人が、たまにどつきあったり怒鳴りあったりしながら途切れぬ友情を持って戦っていく、いや~お約束だ。
 彼らは庶民なので、下町の物騒な猥雑な様子も存分に描かれる。権力者たちの抗争だけでなく、市井での縄張り争いも、ふつうの幸せを求める人々も。大きなものから小さなものまで(このフレーズが通じる人も少ないだろうな)、まさしくタイトルの通り、「ローマ」の物語だ。

 さて、たいへん面白いのだけど、史実の予備知識のない人が初めてこれを見て本気にしてしまったらちょっと困るなぁ(?)という点はある。
 人物造形・人間関係でのぶっとび設定、筆頭はアティア。カエサルの姪、オクタヴィア&オクタヴィアヌス姉弟の母。史実ではさほど出番もないけど、このドラマでは兇悪さで群を抜いている。ユリアの死後、ポンペイウスにまた身内から後添いを世話してほしいというカエサルからの希望を受けて、オクタヴィアを愛する夫と別れさせ、見合いをさせる。せめて喪が明けてからというポンペイウスに、即座にキセイジジツをつくらせてしまう! もちろん破談。
 ここまで見て私は思った、娘の貞操まで差し出す母なら、息子が権力者の伯父の「愛人」になってもかえって喜ぶのでは?と。すると案の定だ。発作を起こしたカエサルを人目を避けて世話していたオクタヴィウスを、「誘惑した」と誤解し、むしろそれを推奨していた。気乗りしない息子を脅して娼館へ行かせるし、なんつー母だ。それに、一貫してカエサルおじさまを後押しするならばまだ筋も通るけど、戦況が不利になって自分の立場が危うくなると、おじさまを呪う言葉を吐くし。とにかく、節操なしのエゴイストなのである。
 上記のように、息子がカエサルの「愛人」と思っていたならば、のちにアントニウス陣営からの中傷は、アントニウスと愛人関係に設定されたアティアが言い出したことになり得るな。息子よりも男をとっているし。「なによ、おじさまを誘惑して相続人になったくせにっ!」とヒスおこす場面なんて出てきても違和感はなかったろう。出てこなかったけど。そういう中傷があったことは、「特典映像」で紹介されていた。
 セルウィーリアがオクタヴィアに、「(オクタヴィウスは)とても美男子になりましたね」と言っていたが、・・・そうかなぁ?と思った。14話までとそれ以降で俳優が交代しており、このセリフはまだ前半。おとなしいけど頭の切れる末恐ろしい坊やという人物造形は良いのだけど、美少年度は不足気味。「中の人」が交代していきなり美青年になる。こちらから遡って少年期を想像すれば、「誘惑」も充分可能だと思わせるのだけど。端正で涼やか、白くほっそりした感じで、しかし腹は黒くて策士、ナイスだ。すました顔が堂にいってるのに、たいへん激しい濡れ場がそれはそれで違和感ないのは不思議な気がする。
 アグリッパ、あちこちのサイトの感想で好評だ、私もこれまで見た中で最高だと思う。肖像のごつい顔を、若く初々しくして、若干可愛さを足せばこんなだろうという感じ。 オクタヴィアに一目ぼれし、のちに密会。あれだとアントニアの父はアグの可能性が高い。私はこの設定(アグxオクタヴィア)を採らないが(アグが恋するのはーー自主規制)、そんなにムチャとは言えないかも。マエケナスにいかがわしい遊興場に連れてこられて居心地悪そうで、一人で帰るのがキャライメージに合っててよい(一人称「俺」なのも)。悪い友達に連れられていたオクタヴィアを見つけて、軽々とお姫様抱きで家に送り届けてしまうのがかっこいいなぁ。
 マエケナス、『ローマン・エンパイア』と違ってオカマではないけど、やはりハデで遊び人ふう。権力者オクタに対して態度がでかく、それ相応に役立ってる。

 史実から削除した部分が多々あるので、もしもあの設定のままで後日談を考えると相当に違ったものになるな。
・オクタヴィアの前夫との子供がいない→マルケルスもマルケラもいない
・オクタヴィアの産んだのは「アントニア」一人
・オクタの結婚がリウィアだけ→ユリアがいない
・リウィアは二人目がお腹にいたことは削除→ドルススはいない
・アントニウスのフルウィアまでの結婚歴が出てこない→ユルスはいない
   アグリッパの結婚相手はアッティカだけになってしまう。ウィプサニアとティベリウスが結婚という展開は可能。
  アウグストゥスに姪一人だけだと、自分の血統を跡継ぎにという執着はそんなに出てこないかもしれない。リウィアが産まなければ、ティベリウスが候補になることまでの距離が短くなるか?ティベリウスとアントニアで縁組もありうるか。
 実は生きてたカエサリオン(カエサルの子じゃないんだけど)が復讐を図ったり、アティアが懲りずに悪巧みしたり、はたまた家族の死のいきさつを知ったイオカステがなにかしなければ(どうせするならアティアにしてね、オクタも共犯といえなくもないけど)、案外こちらのほうがトラブルがなさそうな気がする・・・。

 カエサルの秘書で奴隷であったポスカが、アントニウスのところから墓穴掘りの遺言状を盗んできたというのは、史実と架空キャラをうまく混ぜたと思う。
 アントニウスを護民官にするときいたとき、護民官は威厳と品位が必要だ、とポスカが不賛成の意を表すのは、最初に笑った場面。続く場面では、白昼、公衆の面前でワイセツ行為に及んでいるアントニウス、実にわかりやすい。 キケロの眼前でインテリアの鉢植えの中に立ちションするし。とことん、お行儀の悪いヤツとして描いてあったもんだ。

 感想はまだあるけど、とりあえず。
コメント (2)
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