2021年3月18日 10時00分 朝日新聞
参照記事
世界遺産・平等院(京都府宇治市)の国宝・雲中供養菩薩像(うんちゅうくようぼさつぞう)が新たに模刻され、17日に奉納された。山形市の東北芸術工科大大学院1年、門田真実(もんでんまこと)さん(23)が文化財保存修復学科4年次に取り組んだ。
この仏像は、鳳凰(ほうおう)堂で本尊の阿弥陀如来坐像(あみだにょらいざぞう)の周りを飛ぶように南北の壁に計52体かかる。それぞれ1~26の番号がつく。今回は、「南21号」(高さ61・2センチ、幅約70センチ)を模刻した。
開眼法要の後、門田さんが「南21号」の構造について解説した。別木材でつくられた頭と体を、にかわなどで接着する「木口継ぎ」という技法が使われていたことや、腹部で上下に切り離してつくられていた点が、他の仏像とは違うと説明。完成間際まで体の姿勢を調整でき、自由な造形表現をめざしたためではないか、と推察した。
門田さんは4年生の夏に模刻を始め、1年かけて仕上げた。顔の表情を彫るのに特に苦労したという。岩手県一関市出身。中学1年の時、東日本大震災を経験した。立っていられない揺れで、教室の蛍光灯が落ちてきた。掃除の時間で机を下げてあり、潜り込めなかった。体育館は使えなくなった。当時を振り返り「文化財の保存修復に関わりたいという気持ちが、より強くなった」と話した。
指導した柿田喜則(よしのり)教授(51)=古典彫刻=は「日本は災害が多い。次の震災の前ととらえ、準備しなければいけない。文化財の保存修復は歴史の物語を次に伝えること。学生の制作が知られることで、次のつながりを生む」と強調した。
平等院の神居文彰(かみいもんしょう)住職(58)は「約千年続く菩薩像と今の模刻像と、思いは通底する。東北と距離は離れていても気持ちはつながっていく」と語った。
東北芸術工科大は、津波や台風で水損した歴史資料や文化財修復も手がける。柿田教授によると、福島県と宮城県で最大震度6強を観測した2月の地震でも、仏像の修復依頼が殺到しているという。