yoshのブログ

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「実在」の認識

2013-04-05 16:30:43 | 文化
物理学や哲学の分野でしばしば論じられてきた問題の中に、次のようなものがあります。
「人間はさまざまな測定機器や、数式を含めた理論を作りあげ、生身では知覚できないような物質の構造や宇宙の歴史などについて理解を深めてきたが、結局のところ、実在(真の
外界)に到達できるのか、実在を真に理解できるのか。」動物行動学の視点から言えば「無理である。」と小林朋道教授(人間文化研究機構長)は言っています。科学・技術が長足の進歩を遂げた今日において、物理学と哲学の分野の大命題である実在の認識が「不可能」と断定されていることに驚きを禁じえません。
小林教授は、その理由を次のように説明しています。

人間という動物は、他の動物とは比較にならないほど、事物・事象の因果関係について、それらを取り巻く広い範囲の要素を取り込み、階層性が高い因果関係を追求することができる動物である。だからこそ、他の惑星に行って戻ってくるような機械も作ることができた。ただし、それはあくまで人間の脳が知覚できる情報の範囲の中で達成できたことである。たとえば、オオカミは、彼らの脳が備えている能力を駆使して、先回りや挟み撃ち等の方法を生み出し、狩りの仕方を上達させていく(人間が自分たちの脳の能力を駆使して機器類をより高度化するのと同じことである)。しかし、そこには限界がある。たとえば、彼らの脳には、(狩りに)道具を使うという発想はけっして生まれない。思いもよらない。それはオオカミが、生きて子を残し、地球上で生存し続ける上で必要ないからだ。同様に、オオカミにとって外界に冥王星が存在することなど思いもよらない。その原因は、オオカミの脳の神経構造にある。そして、同じことは人間についても言えるのである。我々の脳に備わっている神経構造には、けっして思い描くことさえできない実在が数限りなく存在すると考えることは、極めて合理的なことである。
 オオカミを例に挙げて、人間の脳の限界(クセ)を指摘した、優れた考察だと思います。

小林朋道「動物行動学から見た、ヒトの脳のクセについて」学士會会報 2012―Ⅳ
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