山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

桂という香木

2017-10-09 22:11:32 | 宵宵妄話

 自分は今、守谷市北部のつくばみらい市との境界近くに住んでいるのだが、その境界に沿って「せせらぎの小路」と名付けられた500mほどの散歩道がある。ここは太陽熱利用のモーターポンプで汲み上げた井戸水を、浅く細長い水路に流しているもので、太陽が顔を出さないと水は流れないので、本当にせせらぎを奏でているかはちょっぴり疑問なのだが、その小路の両側には様々な樹木が植えられていて、春の終わり頃からは緑のトンネルが小路を包んでいて、何とも心が洗われるような場所となっている。

 この道を歩くのが好きで、週に4~5回は必ず歩くようにしている。季節の移り変わりに気づくのもこの道を歩いている時が多い。春には木々の新芽と花、そして季節が進むにつれて新緑がやがて濃緑へと進み、その木陰の涼しさににありがたさを覚え出した頃となると、ニイニイ蝉の鳴き声にアブラ蝉が混ざり、間もなくミンミン蝉も加わって賑やかな猛暑の季節となる。朝夕に涼しさを感ずるようになる頃には、蝉の鳴き声は法師蝉に変わり、間もなく秋だなと気づくのだが、その頃の小路の樹木たちはまだ濃い緑の衣装をまとっている。

 彼岸が過ぎ急に秋の風情が強まり出した頃、早朝のせせらぎの小路を歩いていると、どこからか金木犀の強い香りが漂ってくる。この香りはあまりにも強過ぎるので、時には疎ましさを覚えることもあるのだが、その香りが届くのはホンの4~5日の短い時間なので、やっぱり秋の確認のためには不可欠なもののように思う。

 ところで、しみじみとああ、秋だなあと実感するのは、雨上がりの早朝にこの道を歩いている時、ほのかに漂ってくる甘い香りに気づいた時である。木犀のような強烈な香りではなく、もっともっと穏やかなふわっとした香りなのだ。丁度あの綿菓子の様な優しい甘い香りなのである。その香りがどこからやってくるのか、一体何の香りなのか、その正体を知るまでに時間がかかっているのだけど、その香りは、実は桂の樹の落ち葉から発せられているのである。

 この小路には10本ほどの桂の木が植えられている。それが今頃になると僅かに紅葉が始まって、その落ち葉が道脇に重なり溜まると、そこから優しい秋の香りを発するのである。桂は落葉高木で、街路樹などとして全国的に植えられているようだけど、山野に自生するものは寒冷なエリアに多いようだ。北海道の旅では美瑛町の山奥に「森の神様」と呼ばれている桂の大木があり、それを見に行ったことがある。根元近くから枝分かれしている巨木だった。樹齢900年ほどというから、それほどの古木とは言えないのかもしれないけど、その森の中では神秘的といえるほどの貫禄のある一木だった。

 そのような桂の樹の落葉が甘い優しい香りを発するのを知ったのは、北海道道東の屈斜路湖にある和琴半島を一周した時のガイドさんから教えて頂いた時である。落ちている葉っぱを拾い上げて、匂いを嗅いでみてください。どんな感じがしますか?と訊かれて、にわかには答えられなかったのだが、そのあとでそれが桂の木の落葉であることを教えて頂いたのである。上を見上げると確かにそこには紅葉をし始めた桂の大木があった。そのガイドさんは、綿菓子の様な匂いと話されたのだが、まさにその通りだった。

 旅から戻ると、しばらくはその香りのことは忘れていたのだが、何年かの後、秋になってせせらぎの小路を歩いている時、どこからともなくあの懐かしい香りが漂ってくるのに気づいて、ああ、これは桂のあれだな、と思ったのだった。まさかこの地のこの場所に桂が植えられているとは思いもしなかったので、その時近くにある木が若い桂であることを知り、妙に嬉しくなった。

 

せせらぎの小路に植えられている桂の木。植えられてから十数年ほどの若木だと思うけど、樹高はかなり高く伸びている。樹木にも個体差があるようだけど、この一本は早くも紅葉を開始したようである。

木の根元近くには落葉が小さく重なっていた。これが甘い綿菓子の香りを発する源だと気づく人は案外少ないのかもしれない。

 それからあとは、秋が来る度にその香りを味わうのが楽しみとなっている。今年も勿論毎朝それを味わっているのだが、葉っぱだけでもこれほどの香りを放っているのだから、木の本体の方も香木に違いないのではないかと思って、調べてみたら、中国では香木の総称を桂と呼ぶのだそうで、中国で桂という場合は木犀の樹を指しているとか。なので、桂の木の本体がどのような香りをしているのかは未だ不明である。板などを扱っている方なら常識となっているのだと思うけど、今度北海道へ行ったら、木材を扱う工房などを訪ねてその香りを味わいたいと思っている。松や杉や檜などにも独特の香りがあり、それらは皆香木といっていいのではないかと思っている。それにしても、落葉があれだけの香りを発するのだから、本体の香りというのはどのようなものなのか、それを知るのが楽しみである。

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