山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

美幌峠の花たち

2014-10-24 04:39:22 | 旅のエッセー

 弟子屈町にある道の駅:摩周温泉を出発して、屈斜路湖の脇を掠め通って、折り曲がった長い坂を上り、美幌峠に着いたのは10時頃だった。今日は少し雲があるけどいい天気で、峠に至る坂の途中から垣間見た屈斜路湖の眺めは、雄大だった。左手の方に標高が丁度千mの藻琴山がなだらかな稜線を描き、その右手遠くには斜里岳なのか、幾つかのキザキザの山頂を見せた山が鎮座し、更にその右手の方には摩周岳の尖がりも望見出来るといった景色だった。それらの景観は、峠にある道の駅の駐車場に車を置いて、展望台の一番上に登って眺めると、一層スケールの大きさが増したように感じた。

  

美幌峠から屈斜路湖を見下ろす景観。中央の島は中島。左に藻琴山があり、右手の方に川湯温泉や弟子屈町があるのだが、大き過ぎて入らない。

 美幌峠には何度も来ているけど、このような快晴の時は少なく、霧で何も見えない時や曇りで霞んでいる時が多く、又晴れていても強風が吹いて景色を楽しむ余裕など感じさせない、厳しい天候の時が多かったのである。それが、今日は晴れてそよ風の吹く上天気なのだ。ここに来る時の楽しみは展望台に上がるまでの間の道端にある野草たちを見ることである。今年は8月も半ば近くになっているので、野草たちの花を見るには少し遅すぎるというタイミングなのだが、それでも何かは見つかるだろうという期待があった。

 美幌峠の展望台は道の駅の建物の横を100mほど登った所にある。展望台というよりも展望所という方が正確なのかもしれない。道の途中に美空ひばりの歌碑がつくられている。この「美幌峠」という歌を自分は知らない。この峠は歌のテーマに相応しい雰囲気を持っているようだ。単に景色が良いだけではなく、最果ての情感を湧き立たせる雰囲気があるように思う。それは今日のような良く晴れた穏やかな日よりも、自然の厳しさを実感させられるような時に一層そのような気持ちになるのではないか。その昔この場所で映画「君の名は」の撮影ロケが行われたということだけど、その映画を見ていないのでどのような情景だったのかは判らない。標高480mほどのこの峠は、釧路地方と網走地方とを分ける境界の頂点をなしており、この峠を越える思いの複雑さが理解できるような気がするのである。

 ま、そのような話はともかくとして、自分の目的は何か新しい野の花を見つけることだった。8月半ばのこの時期は、殆どの野草の開花期は終わっており、高原ではそろそろ秋の花が咲き始める頃である。一番下の道の駅の建物近くの道脇にはヨツバヒヨドリの花が今を盛りの満開だった。たくさんの蝶や花アブなどがボヤボヤっと咲く花に群がっていた。  

    

ヨツバヒヨドリの花に群れる蝶たち。中には派手な模様の羽根をつけたのもいて、さながらファッションショーを行っている感じがした。

少し上に行くと、そこからは丈の低い熊笹の草原(くさはら)といった感じで、草むらの中に所々花を終りかけているマルバダケブキが頭を出しているくらいだった。登り道の左手は崖となっており、こちらの方から先ほどの屈斜路湖を中心とした景観が広がっている。崖の辺りは熊笹ばかりで、花などを見るのはとても無理である。 しかし、である。ここでの楽しみは足元にあるのである。目立つ花は誰でもどこでも直ぐに気づくのだが、目立たない花は注意深く足元を見ないとそのまま通り過ぎてしまう。多くの人たちは景色を楽しむのが殆どで、わざわざ足元ばかり見て歩いているものなどいない。そこが自分一人の秘密の楽しみとなるのである。

 少し登ると、コケモモが小さな赤い実をつけているのを見つけた。殆ど地べたにくっつくようにして草の葉にまぎれているので、なかなか気づかない。一粒口に入れてみた。まだ熟れてはいないのか、ちょっぴり酸っぱい味だった。コケモモの実はジャムなどにも使われているようだが、実を摘むのは大変な作業だなと、その小さな姿を見る度に想う。

   

道脇の草むらに小さな赤い実をつけたコケモモたち。大勢の人が登り歩いていたが、これに気づく人は殆どいなかったようだ。

熊笹の中に終りかけているミソガワソウを見つけたが、少し気の毒な姿をしていた。この花の最盛期は、藪の中にひときわ紫が目立つ存在で、それなりの気品のようなものを感じさせるのだが、終りかけた花には没落の無残さのような哀しみの雰囲気が漂っている。

   

熊笹の中に咲き残っていたミソガワソウの一株。咲き終わった花の残骸が残っていて、花の色も褪せていた。

更に少し登ると、石ころばかりの道の隅に、鮮やかな紫の花をつけている丈が10センチくらいの草があるのに気づいた。最初は一つだけだったが、良く見ると近くに何本かの花が点在している。何という野草なのか判らない。あれこれ頭の中の図鑑をめくってみたのだが、姿形からはセンブリのようにも見えた。センブリとは超苦い薬草でもある。この頃は久しく見たことがない。しかし、センブリにしては花が少し大きい感じがした。もしかしたらリンドウなのかなと思ったが、リンドウにしては花が一所に集中して咲いており、違う様な気がした。しかし、野の草たちは生きてゆく環境に合わせて姿形も変えて行くので、この峠の地ではリンドウもこのような姿になるのかもしれない。やはり、リンドウなのかもしれない。(※帰宅後に図鑑などで調べた結果は、やはりリンドウだった。エゾリンドウもこのような厳しい環境では大型にはなり得ないままに花を咲かせている様である)

    

初め見た時はとてもリンドウとは思えなかったが、時間が経ってこうやって見てみるとやっぱりリンドウだなと納得する。しかし、実物は15センチくらいしかなく、相当に厳しい環境であることがわかる。

花の数は少なかったが、何種類かの花たちを道端に見出して、十二分に満足しながら展望所からの道を戻ったのだった。峠の景観は、大き過ぎてカメラには収まらないのが残念である。

 

コメント
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