『うつ病治療の基礎知識』より 心理・社会的治療法
認知行動療法は、ドイツのベックという人が始めた認知療法に、行動療法の技法を取り入れたものです。
うつ病になりやすい人には、特徴的な認知パターンが見られます。代表的なものは「過剰な一般化」と「全てか無か思考」などです。
「過剰な一般化」というのは、わずかな経験から、広い意味をもつ間違った結論に至ってしまうことです。たとえば、「昇進試験で一問間違えたので、自分は馬鹿な人間だ」と思い込んでしまうような考え方です。
また、「全てか無か思考」とは、本当は複雑なことについて、両極端に分けてしまうことです。たとえば、会議で発表した時に、「自分は発表で一カ所言い間違いをしたから完全な失敗だった」という風に、失敗か成功か、という両極端な判断をしてしまうような考え方です。
その他、心の先読み(「どうせあの人は自分の立場なんて考えてくれないだろう」などと、他人の考えを否定的に推論すること)、~すべきだ思考(「社会人なのだから人に頼ったりせず自分で解決すべきだ」などと、自分自身に対して、かたくなにこうすべきだ、と考えてしまうこと)、ラベリング(「あの人は以前プレゼントをあげたことを忘れてしまったようだ。もう友達じゃない」などと、ちょっとした好ましくない特徴によって、すべてだめだと決めつけてしまうこと)などがあります。
こうした、うつ病になりやすい考え方のパターンを自覚して、別の考え方ができるように練習し、このような認知スタイルを変えていくのが認知療法です。この認知療法は、うつ病の予防と改善に役立つと考えられています。中等症以上のうつ病に認知療法を行うことは難しいと思いますが、軽症のうつ病には効果があります。
実際のセッションでは、最初のうちは、その人のうつ病とその背景にある問題を心理的観点から評価し、認知行動療法の基本的な考えを学ぶことから始めます。
そして、生活の中でおきたことを題材として、その中でおきてきた「否定的自動思考」(自然と浮かんできてしまったマイナスな考え)を取り上げ、それに対しておこった気分について振り返ります。そして、こうした自動思考の代わりになるような、現実適応的な考えを、コラム法などを用いて練習していきます。たとえば、「自分は発表で一カ所言い間違いをしたから完全な失敗だった」と思い込んでいる場合であれば、それが「全てか無か思考」に該当する、ということを認識できるようにし、より適応的な考えを導いていきます。たとえば、「もしあなたの部下が発表で一カ所言い間違いをしたらどう思いますか?」などと視点を変えてみたりします。そして一カ所言い間違えたけれど、全体としての言いたいことは伝わったので、だいたい成功といってよさそうだ」というような適応的な考えを導いていくわけです。
行動療法的な技法としては、活動記録表をつけて行動の活性化を促したり、リラクセーションを行って不安・緊張を緩和したり、社会生活技能訓練を行ったりします。セッション毎に、その日の小さな目標を設定し、たとえば、「上司にうまく自分の考えが伝えられない」ことが最近の悩みであれば、「自分の考えを上司にうまく伝える」ことを目標として練習するといったことを行います。
こうしたことを繰り返す中で、自動思考の背景にある、その人のさまざまな人生経験から作られている考え方の癖のようなもの(スキーマ)を探り出し、その修正を目指していきます。たとえば、「人から頼まれたら決して断ってはいけない」というスキーマにとらわれて、すべてを引き受けた結果破綻してしまう、という傾向がある人であれば、これを修正することが、再発防止の役に立つのです。
認知行動療法は、薬物療法と並行して行うとより有効性が期待できます。うつ病に対する認知行動療法の有効性は、多くの科学的にしっかりした研究によって証明されており、特に軽症うつ病の治療において、大きな力になります。
詳細は次の解説書を読んでいただければと思います。
大野裕『はじめての認知療法』講談社現代新書、二〇一一年
最近では、認知行動療法を受けられるクリニックも増えてきました。一対一のセッションだと、一回一時間弱で八○○○円から一万円の費用がかかる場合が多いのですが、集団認知行動療法を行っている場合もあります。また後述のリワークプログラムの一環として、精神科デイケアという保険診療の枠組みの中に認知行動療法が組み入れられていることもあります。
認知行動療法は、ドイツのベックという人が始めた認知療法に、行動療法の技法を取り入れたものです。
うつ病になりやすい人には、特徴的な認知パターンが見られます。代表的なものは「過剰な一般化」と「全てか無か思考」などです。
「過剰な一般化」というのは、わずかな経験から、広い意味をもつ間違った結論に至ってしまうことです。たとえば、「昇進試験で一問間違えたので、自分は馬鹿な人間だ」と思い込んでしまうような考え方です。
また、「全てか無か思考」とは、本当は複雑なことについて、両極端に分けてしまうことです。たとえば、会議で発表した時に、「自分は発表で一カ所言い間違いをしたから完全な失敗だった」という風に、失敗か成功か、という両極端な判断をしてしまうような考え方です。
その他、心の先読み(「どうせあの人は自分の立場なんて考えてくれないだろう」などと、他人の考えを否定的に推論すること)、~すべきだ思考(「社会人なのだから人に頼ったりせず自分で解決すべきだ」などと、自分自身に対して、かたくなにこうすべきだ、と考えてしまうこと)、ラベリング(「あの人は以前プレゼントをあげたことを忘れてしまったようだ。もう友達じゃない」などと、ちょっとした好ましくない特徴によって、すべてだめだと決めつけてしまうこと)などがあります。
こうした、うつ病になりやすい考え方のパターンを自覚して、別の考え方ができるように練習し、このような認知スタイルを変えていくのが認知療法です。この認知療法は、うつ病の予防と改善に役立つと考えられています。中等症以上のうつ病に認知療法を行うことは難しいと思いますが、軽症のうつ病には効果があります。
実際のセッションでは、最初のうちは、その人のうつ病とその背景にある問題を心理的観点から評価し、認知行動療法の基本的な考えを学ぶことから始めます。
そして、生活の中でおきたことを題材として、その中でおきてきた「否定的自動思考」(自然と浮かんできてしまったマイナスな考え)を取り上げ、それに対しておこった気分について振り返ります。そして、こうした自動思考の代わりになるような、現実適応的な考えを、コラム法などを用いて練習していきます。たとえば、「自分は発表で一カ所言い間違いをしたから完全な失敗だった」と思い込んでいる場合であれば、それが「全てか無か思考」に該当する、ということを認識できるようにし、より適応的な考えを導いていきます。たとえば、「もしあなたの部下が発表で一カ所言い間違いをしたらどう思いますか?」などと視点を変えてみたりします。そして一カ所言い間違えたけれど、全体としての言いたいことは伝わったので、だいたい成功といってよさそうだ」というような適応的な考えを導いていくわけです。
行動療法的な技法としては、活動記録表をつけて行動の活性化を促したり、リラクセーションを行って不安・緊張を緩和したり、社会生活技能訓練を行ったりします。セッション毎に、その日の小さな目標を設定し、たとえば、「上司にうまく自分の考えが伝えられない」ことが最近の悩みであれば、「自分の考えを上司にうまく伝える」ことを目標として練習するといったことを行います。
こうしたことを繰り返す中で、自動思考の背景にある、その人のさまざまな人生経験から作られている考え方の癖のようなもの(スキーマ)を探り出し、その修正を目指していきます。たとえば、「人から頼まれたら決して断ってはいけない」というスキーマにとらわれて、すべてを引き受けた結果破綻してしまう、という傾向がある人であれば、これを修正することが、再発防止の役に立つのです。
認知行動療法は、薬物療法と並行して行うとより有効性が期待できます。うつ病に対する認知行動療法の有効性は、多くの科学的にしっかりした研究によって証明されており、特に軽症うつ病の治療において、大きな力になります。
詳細は次の解説書を読んでいただければと思います。
大野裕『はじめての認知療法』講談社現代新書、二〇一一年
最近では、認知行動療法を受けられるクリニックも増えてきました。一対一のセッションだと、一回一時間弱で八○○○円から一万円の費用がかかる場合が多いのですが、集団認知行動療法を行っている場合もあります。また後述のリワークプログラムの一環として、精神科デイケアという保険診療の枠組みの中に認知行動療法が組み入れられていることもあります。
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