goo

図書館における情報サービス 利用者の情報ニーズの把握

『情報サービス演習』より 図書館における情報サービスの構築

利用者の情報ニーズの把握

 図書館で情報サービスを展開するにあたってば、利用者それぞれが抱える情報ニーズを把握することが大事である。特に、サービスの枠組みを設計するにあたり、利用者の特性を知ること、場合によっては、サービス対象となる利用者を特定化することは、利用者の情報ニーズをより深く把握することにつながる。ひいては、利用者の目的に応じたサービスが展開でき、利用者の満足度を高めることにつながる。その場合に有効となる手法が、マーケティング分野の手法として用いられる「セグメンテーション」である。

 セグメンテーションとは、市場細分化の意味であり、地域、顧客の属性、趣味嗜好、生活スタイルなどといった観点から顧客を細かく区分けし、同じニーズや性質を持つ固まり(セグメント)にまとめる。そして、対象をしぼり、特定の対象に応じた市場対策をとることである。図書館で利用者をセグメンテーションする場合、細分化する切り口の例として、人口統計的要因(年齢、性別、世帯規模)、地理的要因(地域の習慣、気候)、社会的要因(職業、学歴、所得)などが設定される。

 公共図書館の場合、設置自治体の状況を人口統計要因から調べることで、図書館の主な利用者層を把握することができる。また、国勢調査や住民登録台帳を見れば、住民が居住する地域、居住者が少ない地域も確認できる。国勢調査や住民基本台帳を通して年齢別人口も調べられるため、年齢でセグメント化することもできる。地域によっては、外国人の比率も注目に値する。地域間の特徴を知るには、総務省統計局のサイトで公開されている国勢調査などの結果が参考になろう。

 また、自治体が作成している各種計画や統計は地域の社会的実情や地域全体の将来性を把握するのに役立つ。地域住民がどのようなニーズを抱え、図書館どのような情報サービスを提供したら効果的なのかが見えるだろう。

地域の課題解決と図書館の情報サービス

 2006 (平成18)年3月に文部科学省が発表した『これからの図書館像一地域を支える情報拠点を目指してー』では、図書館の基本的な在り方の一っとして、「図書館はすべての主題の資料を収集しているため、調査研究や課題解決に際して、どのような課題にも対応でき、どのような分野の人々にも役立つ、また、関連する主題も含めて広い範囲でとらえ、多面的な観点から情報を提供することができる」ことを示した。

 そして、現在、地域が抱えるさまざまな課題を地域にある資源を活用しながら、住民やNPO、市民活動団体などが自ら活動することでまちづくりを行い、地域を活性化する動きがかなり多く見られるようになった。公共図書館はまちづくりの活動の主体に対して課題を解決するための情報提供をしたり、図書館自身が実際にまちづくりに地域活性化に参画したりする関わる事例も出てくるようになった。その領域は、商業、産業、観光の振興といった地域経済に関するものから、市街地開発、地域特有の課題解消に向けた動きなど、幅が広がっている。いわゆる、「課題解決型」図書館の登場である。

 図書館は、資料や情報提供機能のほか、情報収集法のアドバイス、レファレンスサービス、さらには講座や相談会などの行事開催などを通して、課題解決に関わる。いわゆる図書館の情報サービスが生きている例である。

 図書館による課題解決支援の取り組みとして代表的なものは、鳥取県立図書館の他機関との連携を通した事例であろう。鳥取県立図書館はミッションの一つに、「仕事とくらしに役立つ図書館」を掲げ、仕事・地域活性化へ貢献するために、「図書館ビジネス推進事業」や「くらしに役立つ図書館推進事業」に取り組んでいる。そして、ビジネス支援サービス、医療健康情報の提供など行っている。

 また、図書館員が街に出て地域の課題を把握、多様な主体による協力を得ながら、課題に対処するためのサービスを展開している事例もある。岩手県紫波町図書館は運営三本柱の一つに「紫波町の産業支援をする」と掲げ、農業支援サービスを展開している。活動内容は、農業支援コーナーの常設、農業関連のデータベース講習会、企画展示、隣接する産直館でのレシピ本POPの設置、仕事や団体の垣根を越えて気軽にテーマを話し合う場「こんびりカフエ」といった非常に多岐にわたるものである。

 その際、課題解決型のサービスで最も重要な点は、他部署、他機関との協力連携である。鳥取県立図書館の場合、ビジネス支援サービスを展開する前に、2003年4月より外部委員(商工会議所、財団法人県産業振興機構、県産業技術センター、県商工労働部、県農林水産部など)を委嘱してビジネス支援委員会を立ち上げて、仕事に役立つビジネス支援サービスのあり方を検討し始めた。委員会は人脈作りや具体的事業の検討提案で実績を残し、その後図書館は2004年4月よりビジネス支援事業を本格的に開始した。岩手県の紫波町図書館は、図書館開館後に、図書館員が農林課勤務経験のある上司を起点に、役場内の農林課、農林公社との連携を図り、その後意見交換会を開催した。双方とも、サービス導入/実施段階において図書館外部から知識を得ることで、サービスの方針や内容を少しずつ軌道修正しながら、サービスを展開している。

 日常的に図書館は外の部署と業務上の行き来が少ないため、組織内の他部署や他機関の存在は近くて遠い存在となりかねない。しかし、相手の信頼を得る上でも、「組織としてサービスに取り組む」姿勢を見せることは重要である。サービス策定においては、サービス自体を図書館計画の中に明確化させる、ないし、サービスが図書館計画の方向性に沿うよう示すことも重要である。図書館が課題解決を中心とした情報サービスを展開するにあたってば、サービスに関連する情報の収集、関連組織との連携体制が重要となる。

 課題解決を中心とした情報サービス展開のプロセスは次のような流れにまとめることができるだろう。

  (1)利用者/対象者を正しく把握する。

  (2)解決する課題を把握し、定義する。

  (3)図書館の目的を踏まえながら、図書館で活用可能な諸資源、保有技術を探る。

  (4)サービス展開に関わる、組織内の他部署、他機関との連携を図り、関係づくりを行う。

  (5)課題解決のための情報サービスを実践する。

  (6)必要に応じて、利用者のサービスに対するニーズを把握し直し、サービス内容を変更する。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 最近の欧州に... レファレンス... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。