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EUとイタリア--平和で豊かな欧州を目指して

『イタリア文化55のキーワード』より

欧州連合におけるイタリアの存在感

 第二次世界大戦直後、米国が欧州復興のために投じたマーシャル・プラン(当時アメリカの国務長官であったマーシャルによる提案。自力による復興が非常に困難なほど傷ついていた欧州を助けると同時に、アメリカと冷戦中であったソビエト連邦が東欧に拡張した共産主義を欧州全体に広めないという政治的な目的があった)によって統合のきっかけを与えられたヨーロッパは、二つの世界大戦が起こったことの反省から、ドイツを西ヨーロッパの枠組みにきちんと位置づけ、ドイツ・フランスが協調していくことの重要性を強調しつつ、今日に至るまで平和な欧州を目指して歩んできた。この統合を名実ともに牽引してきたのが、二〇一四年現在二八カ国まで拡大した欧州連合であり、イタリアは、フランス、西ドイツ(当時)、オランダ、ペルギー、ルクセンブルクとともに、EUの基礎となる地域共同体で一九五一年に設立された欧州石炭鉄鋼共同体の、いわゆる原加盟国である。

 EUが大小の拡大を繰り返すなか、一九八九年にベルリンの壁崩壊をうけ、翌年東西ドイツが統一を果たし、九一年にソビエト連邦が崩壊し冷戦が終結すると、ヨーロッパを巡る状況は大きな変貌を遂げた。この間、EUでは単一欧州通貨(ユーロ)導入の提案を盛り込んだマーストリヒト条約が発効され、二〇〇二年からユーロが流通し始めた。ユーロ発足当初の一一の参加国にイタリアも入っている。

 EUにおけるイタリアのこのような存在感は、EUのなかで仏・西・独に次ぐ広さの国土、ユーロ圏のなかで独・仏に次ぐ第三位(二○一三年末)の人口とGDPの比率にも見て取ることができ、「欧州連合の一員としての協調外交および対米協調」を基本路線とするイタリアの政治的姿勢は、一般的に国が与えるステレオタイプ的なイメージとは裏腹に、地に足の着いたものと評価されている。

イタリア的な諸問題

 EUにしっかり足場を築いてきたイタリアも、EUに属するがゆえの諸問題を抱えている。ユーロ導入後のイタリア経済は、二〇〇〇年後半に成長率がピークになったのを最後に低迷し続け、一時は「欧州の病人」と揶揄された。近年なお、若者に顕著な高い失業率や国際的な市場における競争率の低さは改善されずにいる。これらの背景にはいくつかのイタリア的な原因が挙げられる。

 中小企業の特徴的な経営はイタリア経済を支える強みと評価されることが多いが、その伝統的な体質が、国内外からの新規企業参入を阻むことで硬直的な市場をもたらし(二〇一四年世界銀行調査--外国の企業がビジネスをするさいの困難度でイタリアは西・仏・独・英をはるかに上回っている)、大企業に見られる効率化が困難なことから労働コストの高さと生産性の低さで国際競争力を低下させ、研究開発の遅れにもつながっている。このような状況は、日本と並び高齢化が進むイタリアにおける将来の人口減少の問題とともに、早急に改革が必要であるといえる。折しも、近年のユーロ危機でそれまで内在していた欧州統合の問題点が浮き彫りにされたあと、改善を目指した規制緩和や行政手続きの簡素化が行われたことは記憶に新しい。

 一方で、「南北格差」や脱税といった「地下経済の比率の高さ」が依然EU市場におけるイタリアの足並みの崩れの要因となっている。先進国型経済を誇り失業率が低い北部と、地理的に欧州市場へのアクセスの点でも不利であり、所得水準が低く失業率が高い南部の間では、当然EUに対する国民の感情的な温度差も大きく、EU圏全体のなかの北欧諸国と南欧諸国の差異にも似て悩ましい問題である。

EUに対する危機感や反感を乗り越えて

 二〇〇九年ギリシアに始まったユーロ危機にさいして、イタリアも厳しい経済政策を課された。これに対して国民のなかにユーロ、ひいてはEUへの批判が高まり、EU委員会があるブリュッセルのいわゆるEU官僚に対する反感や、新たな加盟国の中東欧から西欧への移民がもたらす軋轢などと相まって、EU懐疑論が起こった。そのような状況で、既成政党や政財界のエリートヘの反感をスローガンに掲げた党首ベッペ・グリッロ率いる「五つ星運動」が躍進し、極右政党「北部同盟」がEU内での地域独立や自治拡大、さらに移民排斥を主張した。

 統合が進化を遂げるに従い参加国の国家意識が強まるのは皮肉な現実であるが、グローバル化か進んだ今日、一国で解決できる問題は限られる。ヨーロッパを壊滅しつくした忌まわしい戦争の悲劇を二度と繰り返さないために掲げられた理想をいかに再構築していくかが、今なお問われ続けている。
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