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5系列販売ネットワークで業界をリード

『日本の流通・サービス産業』より 自動車販売 製品企画と販売店ネットワーク

石油危機と排出ガス規制を乗り越え1980年代に入ると、トヨタは1980年4月、ビスタ店を販売系列に追加した。上級車クレスタと、トヨタとしては初めて中型セダンにFWD方式を採用したビスタの専売店としてであり、これによりトヨタは本邦業界初の5系列販売ネットワーク(トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、オート店、ビスタ店)を形成したのである。そもそも複数販売店制のモデルは米国のビッグ3 (GM、フォード、クライスラー)にあった。GMの場合で見ると、高級車キャデラック、保守的な上層中産階級向けのビュイック、スポーティモデルのポンティアック、デザインや機能に実験的な要素を積極的に取り入れた中級車オールズモビル、大衆車シボレーと五つの販売系列の性格付けがなされていた。

注目されるのは1980年代にマーケットシェアでは常に3位以下でありながら、上位2社(トヨタ、日産)に匹敵する5販売系列の構築に挑んだマツダである。商用車・小型車・高級車を扱うマツダ店、1981年に発足し、資本提携先であるフォードの製品を扱うオートラマ店(それまでフォード車を扱っていた近鉄モータースを転換)、1989年発足の2人乗りオープンスポーツカー・ロードスターを扱うユーノス店、小型車と軽自動車を扱うオートザム店、1991年マツダオート店を改称し、ロータリーエンジン搭載のスポーツカーRX-7と高級車を扱うアンフィニ店、と順次販売系列が整備された。しかしその後、バブル崩壊後の長期間にわたる景気低迷と、少子高齢化による国内市場の縮小によって、こうした複数販売店系列は、各社とも大幅な見直しを余儀なくされていった。

1980年代以降のトヨタは、市場占拠率50%を目標としてさらなる国内販売の拡大を目指し、「技術の日産」「販売のトヨタ」といわれてきたイメージの刷新を図った。1977年二代目にモデルチェンジしたセリカが用いたTV・CMのキャッチコピーは、「名ばかりのGTは道をあける」とライバルを挑発する横綱・トヨタらしからぬものであった。 GTとはグランド・ツーリングの略称で、長距離高速走向を可能とするため、高出力エンジンなどの高い走行性能と、快適な車内設備を与えられた自動車を意味する。当時トヨタの代表的スポーティ・カーであったセリカGTは、本格的高性能エンジンであるツインカム(DOHC:ダブル・オーバーヘッド・カムシャフト)の4気筒エンジンを搭載していた。一方ライバルである日産のスカイラインGTは、その高い人気にもかかわらず、排出ガス規制の影響により、6気筒ながら当時としては平凡なSOHC(シングル・オーバーヘッド・カムシャフト)エンジンを搭載するにとどまっていたことから、これを「名ばかりのGT」と遠回しに擲楡したのである。

1980年、トヨタは新世代の6気筒エンジンG型(愛称LASRE:レーザー)を開発、クレスタを先駆けとしてクラウンやマークⅡなどの上級車へ搭載を開始した。1気筒につき4つのバルブ(吸気2、排気2)、6気筒で計24の吸排気バルブを備えたツインカムエンジンで、小型・軽量・高性能・低燃費・静粛性・耐久性など全ての要素を高次元で調和させたことをアピールした。日産はこれに同じく6気筒24バルブツインカムのRB20型(愛称PLASMA:プラズマ)エンジンで対抗した。

1981年2月、トヨタは上級2ドアパーソナルクーペ・ソアラを発売した。それまでの国産車には見られなかった排気量2000cc超(3ナンバー)の2800ccM型ツインカムエンジンを搭載し、最高出力170馬力を誇る高性能車であった。そのスタイリングもメルセデス・ベンツSLやBMW6シリーズといった、ドイツの高級パーソナルクーペを意識したオーソドックスながら流麗なもので、伝説の名車・トヨタ2000GT (1967年発売)の再来ともいわれた。この種高級パーソナルカーとしてはライバル・日産が1980年にレパードを先行して発売していたが、同車は斬新すぎるスタイリングが災いして保守的な高級車ユーザーに敬遠されたことと、排気量こそ2800 cc とソアラに肩を並べながら、エンジンのメカニズムがSOHCで平凡なものであったことから、売上げにおいてソアラに大きく差をつけられた。かくしてソアラはトヨタの先進技術イメージを強く印象づけたのである。のち1988年、日産はバブル景気に乗る形で3ナンバーの幅広い車体を持ち最高出力255馬力の高級セダン・シーマを発売、その大ヒットは「シーマ現象」と呼ばれてトヨタに一矢を報いたが、大勢を覆すには至らなかった。
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