未唯への手紙
未唯への手紙
「欧州2020」の概略
『EU経済の進展と企業・経営』より EUにおける人的資本強化策
未唯空間での配置:10.2.3.3 LとGGとの関係
低下したEUの全要素生産性上昇率
EUは、2000年3月に開催されたリスボン欧州理事会において、人的資本に注目し、「世界で最も競争力を有する知識基盤型経済」の構築を目指す「リスボン戦略」を発表した。ただ、それにもかかわらず今回の経済危機を回避できなかったことから、2010年5月、2020年を目途とした新たな中期成長戦略「欧州2020」を策定する。
この「欧州2020」は、次の3本柱から構成される。①「知的な成長」、②「持続可能な成長」、③「包含的な成長」であり、この柱に基づき3つの優先事項、7つのフラッグシップ・イニシアティブが盛り込まれた。また、この中期戦略には具体的な数値目標が掲げられている。就業率)を69%から75%へ、研究開発投資/GDP比を2%弱から3%へ、また、20/20/20、すなわち、2020年までに温室効果ガスを1990年対比で20%削減すること、エネルギー効率を20%改善すること、さらに、再生エネルギーのシェアを20%に高めることである。加えて、学業放棄率15%を10%へ引き下げること、また、貧困層を25%以上削減することなども重要な数値目標とされている。
ここで注目したい点は、「知的な成長」である。すなわち、「欧州2020」によると、2008年以降のユーロ危機・経済危機の主たる要因はEU経済の脆弱性であったとされ、その背景には、研究開発やイノベーションヘの投資が不十分であることが指摘されている。より具体的には、全要素生産性上昇率が低下あるいは相対的に低水準であることこそ、今回の危機を招いた主因の一つとされている。事実、日米EUの全要素生産性上昇率を比較した図によれば、EUのそれは日米を大きく下回っている。したがって、「欧州2020」では、上記の3つの柱からなる中期成長戦略の中でも経済成長の牽引役として、知識およびイノペーションを促進し、その結果、全要素生産性の上昇を促すことが必要であると主張される。なお、この全要素生産性を決定する要因として、いくっかの点がありえるが、ここでは、技術革新に注目し分析を進める。
「知的な成長」を目指した政策
既述したように 同戦略には7つのフラッグシップ・イニシアティブが盛り込まれているが、そのうち、次の3っは技術革進をもたらす「知的な成長」に関連する。その概要は以下のとおりである。
(I)イノベーション・ユニオン(Innovation Union)
ここでは、イノペーションを強化し、EU全体で研究開発投資水準を引き上げる(対GDP比3%へ)ことが目標とされている。このため、①欧州研究領域(European Research Area : ERA)の完成と戦略的研究アジェンダ(エネルギー安全保障・交通・気候変動・資源効率・健康・高齢化といった分野)の策定が盛り込まれている。また、②企業のイノペーションを促進するための条件改善(EU特許・特別特許裁判所の創設など)も重要とされる。さらに③「ヨーロッパ・イノペーション・パートナーシップ」を導入することが図られている。具体的には産学官連携により、「2020年までにバイオ経済の構築」、「ヨーロッパエ業の将来をっくる主要な技術の強化」、「高齢者の自立的生活と社会活動を可能にする技術」などを強化することなどである。また、④イノペーション支援策の強化と開発も重要な柱となっている。ここでは、構造基金、地域開発基金、研究開発投資枠組みプログラム、競争力・イノペーション枠組みプログラム、欧州エネルギー技術戦略プランなどが利用・強化される。
(2)教育・トレーニング
2つ目の柱は、若者の移動促進、教育制度のパフォーマンスの強化、高等教育の国際的魅力向上である。すなわち、EU内の全生徒の25%は読解能力が乏しく、14~15%は教育・職業訓練を中退している。また、25~34歳の学士取得割合はアメリカ40%、日本50%に対してEUは33%であり、EUが最も低いレベルにとどまっている。このような状況を変革しようとするのである。
この2本目の柱を実現するために①学生・研究者の移動促進のプログラムの強化、②高等教育の近代化、③若手専門家の移動プログラムを通じた起業促進、④ノンフォーマル学習(学校以外、例えば、学習塾・公民館などにおける組織的な学習が重要とされる)、さらに、⑤インフォーマル学習、すなわち、生涯にわたるさまざまな場面における非組織的な学習の促進、加えて、⑥若者の雇用促進政策枠組みの策定も盛り込まれている。
(3)デジタル社会
このフラッグシップ・プロジェクトの目的は、ヨーロッパのデジタル化および高速インターネットの展開を加速し、デジタル単一市場を形成しようとするものである。このために、①高速インターネット・インフラヘの投資を促進する安定的な法的枠組みの提供、②ブロードバンド周波数帯に関する効率的なスペクトル政策の策定、③EU構造基金の利用促進、④オンラインのコンテンツとサービスの単一市場の創設、⑤研究・イノペーション基金の改革とICT分野への支援強化、⑥EU市民のインターネットアクセス利用の促進などが盛り込まれている。
上記が「欧州2020」の重要な柱である「知的な成長」、その中でも人材育成にかかわる部分であるが、このように人的資本の強化策、すなわち、教育・卜レーニングが重視されているのは、次のような背景がある。
図は、縦軸に労働力不足を示す指標、横軸に失業率を示すというベバリッジ曲線である。本来、この曲線は右下がりとなっているはずであるが、近年同曲線は原点から遠ざかりっつある。すなわち、EUでは、労働力不足と失業が並存する経済へと変化しつつあるのである。例えば、スキルを持ったICT技術者が不足する一方、一般労働者の失業は増加するといった状況である。したがって、人材教育を充実させることが可能となれば、労働力不足と失業者増という問題を二挙に解消することも不可能ではない。換言すれば、EUの労働市場では、スキル・ミスマッチをいかに解消するかが政策課題となるのである。
なお、2012年9月時点でEU27カ国の失業率は10.6%,最も高率であったスペインは2.8%となっている。中でも深刻であるのは若年失業者であり、同時点でスペインは54.2%,ギリシャに至っては55.6%に達している。すなわち、ポイントとなるのは、若年者に対する職業訓練なのである。
未唯空間での配置:10.2.3.3 LとGGとの関係
低下したEUの全要素生産性上昇率
EUは、2000年3月に開催されたリスボン欧州理事会において、人的資本に注目し、「世界で最も競争力を有する知識基盤型経済」の構築を目指す「リスボン戦略」を発表した。ただ、それにもかかわらず今回の経済危機を回避できなかったことから、2010年5月、2020年を目途とした新たな中期成長戦略「欧州2020」を策定する。
この「欧州2020」は、次の3本柱から構成される。①「知的な成長」、②「持続可能な成長」、③「包含的な成長」であり、この柱に基づき3つの優先事項、7つのフラッグシップ・イニシアティブが盛り込まれた。また、この中期戦略には具体的な数値目標が掲げられている。就業率)を69%から75%へ、研究開発投資/GDP比を2%弱から3%へ、また、20/20/20、すなわち、2020年までに温室効果ガスを1990年対比で20%削減すること、エネルギー効率を20%改善すること、さらに、再生エネルギーのシェアを20%に高めることである。加えて、学業放棄率15%を10%へ引き下げること、また、貧困層を25%以上削減することなども重要な数値目標とされている。
ここで注目したい点は、「知的な成長」である。すなわち、「欧州2020」によると、2008年以降のユーロ危機・経済危機の主たる要因はEU経済の脆弱性であったとされ、その背景には、研究開発やイノベーションヘの投資が不十分であることが指摘されている。より具体的には、全要素生産性上昇率が低下あるいは相対的に低水準であることこそ、今回の危機を招いた主因の一つとされている。事実、日米EUの全要素生産性上昇率を比較した図によれば、EUのそれは日米を大きく下回っている。したがって、「欧州2020」では、上記の3つの柱からなる中期成長戦略の中でも経済成長の牽引役として、知識およびイノペーションを促進し、その結果、全要素生産性の上昇を促すことが必要であると主張される。なお、この全要素生産性を決定する要因として、いくっかの点がありえるが、ここでは、技術革新に注目し分析を進める。
「知的な成長」を目指した政策
既述したように 同戦略には7つのフラッグシップ・イニシアティブが盛り込まれているが、そのうち、次の3っは技術革進をもたらす「知的な成長」に関連する。その概要は以下のとおりである。
(I)イノベーション・ユニオン(Innovation Union)
ここでは、イノペーションを強化し、EU全体で研究開発投資水準を引き上げる(対GDP比3%へ)ことが目標とされている。このため、①欧州研究領域(European Research Area : ERA)の完成と戦略的研究アジェンダ(エネルギー安全保障・交通・気候変動・資源効率・健康・高齢化といった分野)の策定が盛り込まれている。また、②企業のイノペーションを促進するための条件改善(EU特許・特別特許裁判所の創設など)も重要とされる。さらに③「ヨーロッパ・イノペーション・パートナーシップ」を導入することが図られている。具体的には産学官連携により、「2020年までにバイオ経済の構築」、「ヨーロッパエ業の将来をっくる主要な技術の強化」、「高齢者の自立的生活と社会活動を可能にする技術」などを強化することなどである。また、④イノペーション支援策の強化と開発も重要な柱となっている。ここでは、構造基金、地域開発基金、研究開発投資枠組みプログラム、競争力・イノペーション枠組みプログラム、欧州エネルギー技術戦略プランなどが利用・強化される。
(2)教育・トレーニング
2つ目の柱は、若者の移動促進、教育制度のパフォーマンスの強化、高等教育の国際的魅力向上である。すなわち、EU内の全生徒の25%は読解能力が乏しく、14~15%は教育・職業訓練を中退している。また、25~34歳の学士取得割合はアメリカ40%、日本50%に対してEUは33%であり、EUが最も低いレベルにとどまっている。このような状況を変革しようとするのである。
この2本目の柱を実現するために①学生・研究者の移動促進のプログラムの強化、②高等教育の近代化、③若手専門家の移動プログラムを通じた起業促進、④ノンフォーマル学習(学校以外、例えば、学習塾・公民館などにおける組織的な学習が重要とされる)、さらに、⑤インフォーマル学習、すなわち、生涯にわたるさまざまな場面における非組織的な学習の促進、加えて、⑥若者の雇用促進政策枠組みの策定も盛り込まれている。
(3)デジタル社会
このフラッグシップ・プロジェクトの目的は、ヨーロッパのデジタル化および高速インターネットの展開を加速し、デジタル単一市場を形成しようとするものである。このために、①高速インターネット・インフラヘの投資を促進する安定的な法的枠組みの提供、②ブロードバンド周波数帯に関する効率的なスペクトル政策の策定、③EU構造基金の利用促進、④オンラインのコンテンツとサービスの単一市場の創設、⑤研究・イノペーション基金の改革とICT分野への支援強化、⑥EU市民のインターネットアクセス利用の促進などが盛り込まれている。
上記が「欧州2020」の重要な柱である「知的な成長」、その中でも人材育成にかかわる部分であるが、このように人的資本の強化策、すなわち、教育・卜レーニングが重視されているのは、次のような背景がある。
図は、縦軸に労働力不足を示す指標、横軸に失業率を示すというベバリッジ曲線である。本来、この曲線は右下がりとなっているはずであるが、近年同曲線は原点から遠ざかりっつある。すなわち、EUでは、労働力不足と失業が並存する経済へと変化しつつあるのである。例えば、スキルを持ったICT技術者が不足する一方、一般労働者の失業は増加するといった状況である。したがって、人材教育を充実させることが可能となれば、労働力不足と失業者増という問題を二挙に解消することも不可能ではない。換言すれば、EUの労働市場では、スキル・ミスマッチをいかに解消するかが政策課題となるのである。
なお、2012年9月時点でEU27カ国の失業率は10.6%,最も高率であったスペインは2.8%となっている。中でも深刻であるのは若年失業者であり、同時点でスペインは54.2%,ギリシャに至っては55.6%に達している。すなわち、ポイントとなるのは、若年者に対する職業訓練なのである。
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