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豊田市農ライフ創生センターにおける就農者の育成

『食と農のコミュニティ論』より 都市農業の就農支援と地域ネットワークづくり

「クルマのまち」豊田市における定年帰農

 本章では、まず団塊の世代の「定年帰農」による生きがい創出をめざして創設された「豊田市農ライフ創生センター」に焦点をあてる。本書の特徴は、「農」という用語の使用に象徴されるように、農業の産業としての側面にとどまらず、多様な広がりに注目する点にある。ここでは、「クルマのまち」として世界的に知られる愛知県豊田市において、新規就農を契機とした、多様な担い手による新たなネットワークが形成されつつあることを報告する。

 トヨタ自動車の本社所在地である豊田市は、名古屋市の東、愛知県の中央部に位置する。 2007年に6町村が合併したことによって、行政面積が918.47km ^に拡大、愛知県内でもっとも広い面積を有する市となった。人口も423、744人にのぼる(2012年10月1日現在)。豊田市の前身である挙母町にトョタ自動車の工場が誘致されたのは1938年のことである。その後の高度経済成長期には日本全国から自動車産業に就業するために大量の人口が流入した。その時期に労働力として全国から移住した若者たちが定年退職の時期を迎えるにあたって、彼らの退職後の生きがい創出が課題として浮上し、2004年に創設されたのがし豊田市農ライフ創生センター」である。開設以来、毎年一定数の修了生か新規就農者として地域農業に参入し続けている。

本章における課題

 農業への新規参入を志向性で分類すると、「事業志向」型参入と「生活志向」型参入に区分することができる。「事業志向型」新規就農者が「独立した起業家になることを目的」とする一方、「生活志向型」新規就農者は「他産業への就業や年金等の獲得が見込まれ、農業を副業的位置づけ、い」る場合が多く見られる」とされ、豊田市農ライフ創生センターは後者の成功事例として取り上げられている。

 豊田市農ライフ創生センターの事例の特徴は、継続的に農業への新規参入者を輩出していることだけではない。農ライフ創生センターの修了生たちが結成した、定年帰農者を中心とする組織[豊田農ライフの会]の活動にも注目が集まっている。「定年帰農」とはF定年退職後およびその前後に就農することjであるが、定年帰農を扱った『農に還るひとたち:定年帰農者とその支援組織』では、山口県大島町の定年帰農者組織「トンボの会」の事例が取り上げられている。「トンボの会丿全体としてはF親睦」というベーシックな機能をもち、さらに同会から派生した「日見仲良しクラブ」と「戸田二十日会」というオプショナルコアグループがアクティブな機能をはたしている。「日見仲良しクラブ」は共同八ウスでの野菜生産、「戸田二十日会」は専業農家とトンボの会会員が協力し、産地維持を目的とした技術研修と朝市を実施するものである(農協共済総合研究所・田畑、2005)。

 ところで、本章で注目する「豊田市農ライフ創生センターjには、実際にどのような人々が入所しているのだろうか。「生活志向型」農業の成功事例として他県からの視察も多い農ライフ創生センターであるが、「事業志向型」の新規就農者はいないのであろうか。また、センター修了者によって設立された組織「豊田農ライフの会」はどのような機能をはたしているのだろうか。さらに、そのネットワークが個々の新規就農者の「農」の活動にいかなる影響を与えているのだろうか。

豊田市農ライフ創生センターとは

 まず豊田市農ライフ創生センターの概要を説明しておきたい。センター発行の事業概要によれば、開設の目的は「定年退職者などを新たな農業の担い手として育成し、『生きがい型農業』の実践を支援することで、遊休農地の活用と高年齢者の生きがいづくりをすすめる。また、農業・農地の多様な機能を活用し、市民の『農』の新たな関係を構築する」ことである。開設前年の2003年に設置された設立準備会メンバーにはトヨタの労働組合もメンバーとして参加し、労働組合からの斡旋も行われる等、同センターにはトヨタ自動車も一定程度の関わりを愛知県豊田市もっている。運営主体は豊田市とあいち豊田農業協同組合で、財政面を豊田市が、技術面・資源面を農業協同組合が支えている。主要事業は、①研修事業(農作物栽培技術研修)、②農地仲介事業、③農家仲介事業、④研究開発事業である。研修事業には、初級向けの「旬の野菜づくりコース」と中・上級向けの「担い手づくりコース」、農地所有者向けに新たに設けられた「農地活用帰農コース」がある。農ライフ創生センター事業がとくに注力しているのは、後者の中・上級向けコースであり、研修修了後の新規就農を目標としている。

 担い手づくりコース6期生までで、276名が修了しているが、その就農状況は、修了生の85%が何らかの形で就農している。また、60代が42%ともっとも多く、次いで50代が31%を占め、20~40代合計が27%となっている。このことから、定年前後に農ライフ創生センターに入所している者が開設の意図と合致して多いが、センター構想時には想定していなかった若い世代も入所してきていることが分かる。

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