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非営利組織の統治

『企業統治』より 非営利組織 何のための、そして誰のための組織か

非営利組織のマネジメント

 ミッションとその実現

  非営利組織と営利組織とでは・その運営の仕方にどのような違oがあるのでしょうか。この節では、非営利組織のマネジメントを概観しましょう。

  営利組織は、基本的に利益の確保という目的のためにさまざまな事業という手段を用いています。Anthony and Youngによれば、営利組織の強みは以下のようなものです。営利組織にとって、利益の確保は営利組織における第1の基準であり、営利組織はその目標に向けて組織全体を動員することができます。また売上、コスト、利益を量的に(=お金という尺度で)比較したり分析したりすることも簡単にできます。あるいは組織がいくつかの事業を手がける際にも、同一の基準で評価することが可能ですし、同じ理由から全体のマネジメントも容易になります。

  一方、営利を目的としない非営利組織は、その組織上の目的を自らが定めたミッション(使命)の実現にその重点をおいています。ミッションは、組織内部で働く人々に「われわれはなにを達成しようとしているか」ということを示すと同時に、組織外部の人々からの支援を得るために非営利組織が発するメッセージとしても機能しています。

  ドラッカー(Drucker、P.F.)は、ミッションには以下の3点が含まれるべきであると述べています。第1にそのミッションが非営利組織自身のもつ強みに適合し、成果を生み出しうるものであること、第2にそのミッションが外部のニーズをくみ取ったものであり、事業を進める上での機会となるものであること、そして第3に非営利組織のメンバーを動機づけ、信念をもってあたれるものであることです。

  こうして定義され、またときに応じて変わってゆくミッションは、非営利組織の経営者によって実行されてゆきます。経営者たちは、利益ではなくミッションを基礎に個別具体的な目標を設定し、組織を導くのです。

  ミッションに基づく経営は、営利を目的とする組織とは異なる性格をもつことになります。Masonは、非営利組織の目的は営利以外にあり、企業が金銭を目的としているのに対して、非営利組織は金銭をミッション達成のための手段とみなしています。これは、結果よりもプロセスを重視するということでもあります。そして、その目標達成は損益に優先されるため、経営資源を過大に消費して赤字を出しても許容されることもあります。

  非営利組織のマネジメントは、図表9-5に示されるMOSTECと呼ばれるフローによって行われます。

  MOSTECは、基本的に理事会(意思決定機関)と事務局(執行機関)によって行われています。図表9-5はNPO法人と財団法人における意思決定と執行を表しかものです。理事会は主としてミッション(M)の確立、目標(O)の設定、戦略(S)の決定に携わります。一方、執行機関は日常的な戦術(T)を選択し、執行(E)します。また理事会、事務局双方のレベルで評価・統制(C)が行われます。通常、執行責任者は理事を兼務し、意思決定と執行の機能が連結されるようになっています。

 有給と無給スタッフによる組織とドナーからの支援

  Mason[1984]は非営利組織の特徴として図表9-6のように必要な資源の調達とサービスの分配とが分離していることが多い(=資源を拠出する人と受益者がイコールでない場合が多い)ことを指摘しています。

  さらにMasonは、非営利組織は自身が生み出すサービスの市場価格を正確に測定できないこと、外部資源に依存することから利害関係者に配慮した経営が求められること、利害関係者との共存のために複数の目的を追求すること、などを組織上の特徴としてあげています。

  先述したように非営利組織は、現場のボランティアから組織の経営責任を担う理事に至るまで、多くの無給・非常勤スタッフによって支えられています。また非営利組織も銀行などから資金を借り入れたり、営利組織と同様に利害関係者と関係をもったりしますが、図表9-7のように必要とする資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の拠出を外部に依存せざるを得ない場合も多いのです。一般個人、篤志家、企業・地域、自治会、助成財団などから寄付を、会員からは会費を、政府からは助成金や事業委託を、ボランティアからは労働力の提供を受けています。

  非営利組織は多くの利害関係者をもち、ボランティアの比重が高いのですが、そのような組織はアドホクラシー(adhocracy)としての特徴をもっています。アドホクラシーは、有機的で柔軟、暫定的な性格をもつ組織で、外部環境の変化に応じて柔軟に変化し、また成員の交代といった内部の変化にも適応できるよう階層の数も少なく、分権化された組織のことです。また非営利組織は、スペシャリストやプロフェッショナルの役割が大きいことも特徴です。

  一方で田尾・吉田によれば、そのようなアドホックな組織は、利害が衝突した際の調整が難しい、責任の所在が不明確になる、分権化されているために組織全体でみると運営コストが高くなるといった短所ももっています。そのような組織をまとめるために リーダーシップの重要性が指摘されます。自発的に参加するボランティアたちのモティベーションを保ち、メンバーの入れ替わりが多く分権的な組織をまとめるうえで、リーダーシップを発揮できる人材の確保が求められるのです。

非営利組織の統治

 非営利組織の統治は営利組織とは異なっており、また社団法人型の組織と財団法人型の組織では統治構造も異なります。図表9-8にあるように、社団型の非営利法人は社員総会、理事会、事務局というラインがあり監事が監査を行うのに対して、財団型では理事会、事務局というラインに評議員会と監事がチェックを行う形になります。

 理事もしくは理事会は、非営利組織において必置の最高管理機関であり、法人を代表して意思決定と執行の責任を負っています(NPO法人の場合は、理事は必置ですが、理事会は設置しないことも可能です)。ドラッカーはその著書のなかで理事たちの役割を、機関を統治する「統治者」、自ら資金を出し、また資金を集める「スポンサー」、機関の使命を説明し、逆風にあるときには機関を護り、関係者やコミュニティに対して機関を代表する「大使」、専門的な能力を有する「コンサルタント」と表現しています。また米国のNational Center for Nonprofit Boardsは、理事会の役割を以下のように定めています。

  ①組織のミッション、目的を決定すること

  ②執行責任者(CEO)を選任すること

  ③執行責任者を支援し、その業績を評価すること

  ④有効な組織計画を確定すること

  ⑤適切な財務資源を確保すること

  ⑥財務資源を有効に管理すること

  ⑦組織のプログラムやサービスを決定、評価、強化すること

  ⑧組織の公共的地位を確立すること

  ⑨法律的、倫理的高潔性を確立し、説明責任(accountability)を維持す ること

  ⑩新しい理事を探すこと、理事会の業績を評価すること

 理事会は組織の受託者であり、株式会社の受託経営者である取締役会に似ているところもあることがわかります。

 理事や理事会は、長期的な視点でこれらの事項についてかかわっています。一方、業務を執行する事務局は、日常的な事項について知悉しており、事務局長は日常業務の責任者として、非営利組織の実質的な経営者になります。つまり組織上の上位に位置する理事や理事会に対して、事務局は日常的な運営にかかわる経験と情報量の多さにもとづく実質的な影響力をもっていることになり、両者の間には単なる組織上の上下という以上の関係にあります。とりわけ規模が大きく非常勤の理事が多い組織の場合は、十分に統治が機能しないこともあり得ます。

 こうしてみると非営利組織のマネジメント同様、非営利組織の統治にも独特の特徴があることがわかります。そのような特性をよく理解した上で、組織の強みを生かせるような運営が求められるのです。
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