●「最高裁が国会の怠慢を是認」 衆院選「一票の格差」訴訟でまたも「違憲状態」判決
弁護士ドットコム 2015年11月25日
国政選挙の「一票の格差」を問題視する2つの弁護士グループが、最大2.13倍の格差があった昨年12月の衆院選は「憲法違反で無効」と訴えた17件の裁判について、最高裁の判断が示された。最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は11月25日、上告審判決のなかで、衆院選が「違憲状態」だったと判断したが、原告が求めた「選挙無効」は認めなかった。衆院選の一票の格差を「違憲状態」とする判決は、2009年、2012年の判決に続き、これで3回連続だ。
昨年12月14日に行われた衆院選は、小選挙区の有権者数が最も多い東京1区と、最も少ない宮城5区で、「一票の格差」が最大となり、2.13倍の格差があった。弁護士グループは、昨年の衆院選が行われた後すぐに、全国295の小選挙区の選挙が憲法が定めた「法の下の平等」に反し違憲無効だとして、17件の裁判を起こしていた。
●「ありきたりの判決で、がっかり」
判決後、両グループの弁護士たちは、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いた。
山口邦明弁護士は、今回の判決について「ありきたりの判決で、がっかりした」と率直な感想を述べた後、「違憲状態判決を何回も繰り返して、裁判所は、どういう方法で(選挙の格差を)正そうと考えているのか。国会の怠慢を是認しているだけだ」と断じた。
その上で、「結局最高裁は、選挙を無効にすると世の中が混乱すると考えて、選挙を無効にする判決は出せないのかもしれない。それができないのなら、裁判所はせめて、格差が是正されるまで、選挙を事前に差し止めることを認めてほしい」と訴えた。
山口弁護士のグループは、今回問題となった衆院選について、投開票前に差し止めを求めて東京地裁に提訴したが認められなかった。
●「日本は三権分立の国ではなくなった」
もう一方の升永英俊弁護士のグループからも、最高裁の判決について厳しい声が上がった。
升永弁護士は、こうした「一票の格差」がなくならないのは、国会よりも裁判所の責任が大きいと指摘した。
「憲法98条には、憲法に反する法令、国の行為は無効だと書いてある。違憲だと判断したのなら、選挙を無効にすべきだ。違憲状態といったよくわからない言葉を使って、憲法のルール通りの判決をしない最高裁の責任は重い。私は、日本は三権分立の国ではなくなってしまったと思う」と述べた。
また、伊藤真弁護士は、裁判の中で国側が「人口の少ない地方の民意を反映するために、ある程度の投票格差は許容されるべき」と主張したことを、次のように厳しく批判した。
●去年の衆院選 1票の格差は「違憲状態」 最高裁
NHK 11月25日
去年12月に行われた衆議院選挙で選挙区ごとの1票の価値に最大で2.13倍の格差があったことについて、最高裁判所大法廷は「憲法が求める投票価値の平等に反する状態だった」と指摘し、「違憲状態」だったという判決を言い渡しました。選挙の無効を求めた訴えは退けましたが、判決は、国会に対して選挙制度の見直しを着実に進めることを求めました。
去年12月に行われた衆議院選挙では、有権者数の多い選挙区と少ない選挙区の間で1票の価値の格差が最大で2.13倍あり、2つの弁護士グループが「憲法に違反する」として選挙の無効を求める裁判を全国で起こしました。
最高裁判所大法廷の寺田逸郎裁判長は、「13の選挙区で格差が2倍を超えていたことなどを考えると、憲法が求める投票価値の平等に反する状態だった」と指摘し、「違憲状態」だったという判決を言い渡しました。一方で、「衆議院に設置された機関で制度の検討が続けられていることなどを考慮すると、見直しに必要な合理的な期間を過ぎたとはいえない」として選挙の無効を求めた訴えは退けました。
判決では、小選挙区を5つ減らして格差を縮小させた「0増5減」について「一定の前進」と評価しましたが、「対象にならなかった都道府県で議席の配分が見直されていないことが格差を生じさせる主な要因になっている」と指摘しました。そのうえで、国会に対して「選挙制度の見直しに向けた取り組みが着実に続けられていく必要がある」と求めました。
最高裁が衆議院選挙の1票の格差を「違憲状態」だと判断したのはこれで3回連続となりました。きょうの判決は14人の裁判官のうち9人の多数意見で、ほかの2人が「憲法に違反しない」とした一方、3人が「憲法に違反する」という意見を述べ、判断が分かれました。
判決のあと2つの弁護士グループがそれぞれ会見を開き、1つのグループの山口邦明弁護士は、「憲法違反の判断を避けたありきたりの判決でがっかりした。国会が自発的に是正するのを待つ、つまり、裁判所は何もしないという判決で、長い目で見れば、国会の怠慢を認めたものだ。これで諦める気はないが、裁判所に対する期待は薄れた」と話していました。
もう1つのグループの伊藤真弁護士は、「最高裁判所が3度も明確に『違憲状態』だと言っているのに放置されている。今回の判決は、政治に対して、裁判所が最後通告を突きつけたと考えたい。政治はそれに応えなければいけないし、国民も意識して選挙に行くなど国政を監視する役割を担わなければならない」と話しました。
北海道5区の補選 来年4月24日の見通し
去年12月に行われた衆議院選挙の1票の格差を巡る裁判で、最高裁判所の判決が言い渡されたことを受けて、欠員となっていた衆議院北海道5区の補欠選挙は、来年4月24日に行われる見通しになりました。
衆議院北海道5区は、自民党の町村信孝・前衆議院議長がことし6月に死去したことを受け、現在欠員となっています。公職選挙法の規定で、選挙の効力などに関する訴訟が続いている間は補欠選挙を行うことはできないため、およそ半年間にわたって欠員のままとなっていました。しかし、25日に最高裁判所の判決が言い渡されたことを受けて、衆議院北海道5区の補欠選挙は、来年4月12日に告示、24日投票の日程で行われる見通しになりました。
●選挙無効請求事件
最高裁判所大法廷 平成27年11月25日平成27(行ツ)253 選挙無効請求事件 (原審 東京高等裁判所 平成26(行ケ)24 平成27年3月25日)
平成26年12月14日施行の衆議院議員総選挙当時において,公職選挙法13条1項,別表第1の定める衆議院小選挙区選出議員の選挙区割りは,前回の平成24年12月16日施行の衆議院議員総選挙当時と同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったが,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,上記各規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない
●判決全文
判決全文にリンク
36ページ
裁判官大橋正春の反対意見は,次のとおりである。
私は,多数意見と異なり,平成23年大法廷判決において憲法の投票価値の平等
の要求に反する状態に至っているとされた旧選挙区割りは本件選挙区割りによって
も違憲状態が解消されたことにはならず,したがって憲法上要求される合理的期間
内における是正がされなかったもので,本件選挙区割りは憲法の規定に違反すると
考えるものであり,また本件では事情判決の法理を適用すべき事情はなく,本件選
挙区割りに基づいてなされた本件選挙は本判決確定後6か月経過の後に無効とする
のが相当であると考える。
・・・・・・・・・(略)・・・
しかしながら,本件は裁判所が
違憲状態にあるとした本件選挙区割りの是正に関わるのであるから,憲法尊重義務
を負う個々の議員だけでなく立法府として速やかにこれを是正する法的義務を負っ
ているものといわなければならない。そもそも利害関係を調整して必要な決定を行
うのが立法府の役割である以上,利害対立を理由に決定を避けることは許されな
い。
本件では全選挙区について訴訟が提起されており,平成25年大法廷判決の私の
反対意見が指摘した問題は生じない。立法府による本件選挙区割りの是正のための
検討作業を前提にすれば,本判決確定後6か月以内に是正措置を採ることを求める
のは不可能を強いるものとはいえない。
そして,6か月以内に是正措置が採られた
場合には,特別法による選挙か衆議院を解散した上での通常選挙によるか等の具体
的方法についての選択肢はあるものの,憲法14条に適合する新たな選挙区割りに
基づいた選挙をすることで本件選挙を無効とすることによる混乱は回避することが
可能である。
40ページ
裁判官鬼丸かおるの反対意見は,次のとおりである。
私は,多数意見とは異なり,本件選挙時の選挙規定は憲法に違反するに至ってお
り,本件選挙についてその違法を宣言することが相当であると考える。以下にその
理由を述べる。
・・・・・・・・・・(略)・・・
以上の理由により,憲法は,衆議院議員選挙について,国民の投票価値をできる限り1対1に近
い平等なものとすることを基本的に保障しているというべきである。
・・・・・・・(略)・・・
本判決の多数意見も,平成25年大法廷判決と同様に,この問題への対応や合意
の形成には様々な困難が伴うのであり,国会において是正実現に向けた取組が平成
25年大法廷判決の趣旨を踏まえた方向で進められていたことから,憲法上要求さ
れる合理的期間内に是正されなかったと断ずることはできないとした。
(3) しかし,私は多数意見に賛同することができない。
・・・・・・・(略)・・・
是正は国会の急務であって,立法裁量権に配慮しても,合理的期間を緩やかに解することは
許されるべきではないであろうと考える。
以上のことから,憲法の予定している立法権と司法権の関係を考慮してもなお,
本件選挙時には既に憲法上要求される合理的期間を徒過したものというべきであ
る。
3 本件選挙の効力について
・・・・・・・(略)・・・
国民は,本件選挙時に,小選挙区選出
と比例代表選出の2選出方法による議員を選出することを前提とした投票行為を行
っているのであるから,比例代表選出議員のみによって衆議院の活動が行われ,定
数配分や選挙区割りが定められる等という状況の出現は,一時的なものにせよ,選
挙時には想定していなかったものであり,そのような事態は,国民の負託に沿わな
いおそれが高いといわねばならない。
そして,多数意見が指摘するとおり,国会においては引き続き選挙制度の見直し
が行われ,衆議院に設置された検討機関において投票価値の較差の更なる縮小を可
能にする制度を内容とする具体的な改正案等の検討が行われていること等を総合考
慮すると,事情判決の制度の基礎に存する一般的な法の基本原則を適用して,本件
選挙が違法であることを主文において宣言することが相当であると考えるものであ
る。
46ページ
裁判官木内道祥の反対意見は,次のとおりである。
・・・・(略)・・・
平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決が憲法上の要求とした投票価値
の平等の実現を阻害する1人別枠方式という要因の解消は,平成25年改正後の平
成24年改正法による本件選挙区割りにおいても実現していない(このことは,既
に,平成25年大法廷判決が示している)のであるから,本件選挙施行時点まで是
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正がなされなかったことが,合理的期間を徒過したものであることは明らかであ
る。
したがって,本件区割規定は,違憲の瑕疵を帯びるものである。
3 選挙の効力について
(1) 選挙無効の判決があり得るのかとの危惧
・・・・・・・・・・(略)・・・
選挙を無効とすることがあり得るといいつつ,実際には選挙を無効とする
ことはないのではないかという危惧を抱く意見が個別意見において幾つも述べられ
ている。
・・・・・・・・(略)・・・
衆議院としての機能が不全となる事態
を回避することと投票価値平等の侵害の回復のバランスの観点から,投票価値の較
差が2倍を超えるか否かによって決するのが相当である。
今回の選挙の結果によると,295の選挙区のうち最も選挙人数の少ないのは宮
城県第5区(選挙当日で23万1081人),最も選挙人数の多いのは東京都第1
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区(選挙当日で49万2025人)であり,その比率は1対2.129である。選
挙人数が東京都第1区の選挙人数の2分の1を下回る選挙区は,宮城県第5区以外
に11あり,少ない順に挙げると福島県第4区,鳥取県第1区,鳥取県第2区,長
崎県第3区,長崎県第4区,鹿児島県第5区,三重県第4区,青森県第3区,長野
県第4区,栃木県第3区,香川県第3区である。
したがって,この12の選挙区については選挙無効とされるべきであり,その余
の選挙区の選挙については,違法を宣言するにとどめ無効とはしないこととすべき
である。
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