二日間のスキー&スノボ+久々の温泉を堪能した私たち一行は、Pagosaの町を朝食がてらにぶらぶら。
この町一帯は、昔はネイティブアメリカン(インディアン)の居住地だったところ。いまにもカウボーイが飛び出して出てきそうなレトロな雰囲気が漂う。町の人たちもどこかのんびりしていて時間もゆっくりと流れている気がする。
と、町のなかに一軒の小さなアンティックショップを発見。マサコも私も大のアンティック好き。こういう古びた町からは意外な出物があるやも知れぬと冷やかしに入ってみることにした。
しばらくして、店に座っていた初老のご婦人がいぶかしげに私たちに「どこから来たの?」と聞いてきた。こういうときは二通りの答えがあるのだが、私たちはあえて「日本からです」と答えた。
そうするとそのご婦人、「ちょっと見てもらいたいものがあるの」とやおら立ち上がり何かをごそごそと取り出した。見れば一冊の古ぼけた本と、シルクの布。
「去年のクリスマス前、とあるご婦人がこれを持ってきたの」。
孫たちに何かクリスマスプレゼントを買うのに少しでも現金が欲しい、それと引き換えにこれを持ってきたというのだ。
そっとあけてみてみると、それは「アンデルセン童話」の日本語訳。印刷年は大正 14年とある。どうしてここにこんなものが?
「これは、そのご婦人のおじいさまが第二次大戦中に日本のcave(洞窟)で見つけたものらしいの。それを大切に持ち帰って二代にわたって持っていたのだけどどうしてもお金が必要だったらしくて持っていらしたの。この本に関してもう少し情報をもらえるかしら?」
私は興味津々でその本を丁寧に手に取った。
アンデルセン童話の中から、「おやゆび姫」や「一本足の兵隊」「醜いアヒルの子」など数点が収められている。しかもこの時代にしてはモダンで美しい挿画。こんな本を持っていた人物はきっと、育ちのいいお坊ちゃんだったのだろう。添えられていた美しい絹の布に、大切に包まれていたそうだ。それは多分母の、姉の、もしくはいいなずけの着物の布地だったのかもしれない。大切に戦場に持ち込み力尽きたであろうこの持ち主に思いをはせ、心がきゅんと締めつけられた。
「よければ買ってもらえるかしら?」
そんな私を察知したのか、店のご婦人は控えめにこう聞いてきた。「25ドルで、どうかしら」。
少なくともこの、いつ日本人が来るともしれないパゴサの町にひっそりとほこりをかぶっているよりは、私の手に渡ったほうが何か手がかりを探せるかもしれない、そう思ったのだろう。私もその本と別れがたった。
思いがけないものと出合い、私は少し興奮気味にその店を後にした。
おやゆび姫 画とお話本第四冊
大正十四年11月十八日印刷
大正十四年11月二十一日発行
昭和四年一月二十五日再版発行
著者 楠山正雄
発行兼印刷会社 合資会社富山房 東京市神田区通り神保町九番地
印刷所 凸版印刷株式会社
この町一帯は、昔はネイティブアメリカン(インディアン)の居住地だったところ。いまにもカウボーイが飛び出して出てきそうなレトロな雰囲気が漂う。町の人たちもどこかのんびりしていて時間もゆっくりと流れている気がする。
と、町のなかに一軒の小さなアンティックショップを発見。マサコも私も大のアンティック好き。こういう古びた町からは意外な出物があるやも知れぬと冷やかしに入ってみることにした。
しばらくして、店に座っていた初老のご婦人がいぶかしげに私たちに「どこから来たの?」と聞いてきた。こういうときは二通りの答えがあるのだが、私たちはあえて「日本からです」と答えた。
そうするとそのご婦人、「ちょっと見てもらいたいものがあるの」とやおら立ち上がり何かをごそごそと取り出した。見れば一冊の古ぼけた本と、シルクの布。
「去年のクリスマス前、とあるご婦人がこれを持ってきたの」。
孫たちに何かクリスマスプレゼントを買うのに少しでも現金が欲しい、それと引き換えにこれを持ってきたというのだ。
そっとあけてみてみると、それは「アンデルセン童話」の日本語訳。印刷年は大正 14年とある。どうしてここにこんなものが?
「これは、そのご婦人のおじいさまが第二次大戦中に日本のcave(洞窟)で見つけたものらしいの。それを大切に持ち帰って二代にわたって持っていたのだけどどうしてもお金が必要だったらしくて持っていらしたの。この本に関してもう少し情報をもらえるかしら?」
私は興味津々でその本を丁寧に手に取った。
アンデルセン童話の中から、「おやゆび姫」や「一本足の兵隊」「醜いアヒルの子」など数点が収められている。しかもこの時代にしてはモダンで美しい挿画。こんな本を持っていた人物はきっと、育ちのいいお坊ちゃんだったのだろう。添えられていた美しい絹の布に、大切に包まれていたそうだ。それは多分母の、姉の、もしくはいいなずけの着物の布地だったのかもしれない。大切に戦場に持ち込み力尽きたであろうこの持ち主に思いをはせ、心がきゅんと締めつけられた。
「よければ買ってもらえるかしら?」
そんな私を察知したのか、店のご婦人は控えめにこう聞いてきた。「25ドルで、どうかしら」。
少なくともこの、いつ日本人が来るともしれないパゴサの町にひっそりとほこりをかぶっているよりは、私の手に渡ったほうが何か手がかりを探せるかもしれない、そう思ったのだろう。私もその本と別れがたった。
思いがけないものと出合い、私は少し興奮気味にその店を後にした。
おやゆび姫 画とお話本第四冊
大正十四年11月十八日印刷
大正十四年11月二十一日発行
昭和四年一月二十五日再版発行
著者 楠山正雄
発行兼印刷会社 合資会社富山房 東京市神田区通り神保町九番地
印刷所 凸版印刷株式会社