今回のNHK朝ドラは、楽しませてもらっている。安藤サクラさんの演技には、期待通り目を見張るものがある。お母さん役の松坂慶子さんも、ちょっとびっくりするくらい良い。美人女優さんが俳優に化けたと思える。美人女優は美人という役を与えられるだけである。これを脱するのはかなり難しいことのようだ。松坂さんが演ずるお母さんは喜劇的でいい。何でも悲観的に考えてしまう人間像を愉快に表現している。内の母も全くそうだった。年をとると人によっては急に悲観的になるようだ。さらに、ゲゲゲの女房で評判になった、松下奈緒さんも初めて演技をしている。この方は人柄の良さで、よい感じを与えてきた。演技して見せるということは今までなかった気がする。演技をしようという姿勢が、下手をする不自然を生じるが、今のところは良い加減ではないか。まわりの芸達者に影響を受けたのだろうか。女性俳優がすごいのに、男の俳優はどうなんだろう。樹木希林さんと一緒に演じて演技を開眼した人が多いと思うが、安藤サクラさんにもそういう力もあるのかもしれない。
主人公はインスタントラーメンを開発した人の話だ。日清食品を作った人というのは、誰もがすでに承知で見ているのだろう。この人が憲兵につかまったのも、拷問を受けたのは事実である。脱税で進駐軍につかまって投獄されたのも事実である。しかし、一つだけ肝心なことが抜けている。この主人公の安藤百福氏は台湾人である。それが日本人に変えられているので、無理な話になっている。当時台湾は日本の植民地であった。植民地台湾で生まれてから、日本人として大阪に来た人なのだ。私は台湾の人が好きだ。日本人は一般に台湾の人に好感を持っているのではなかろうか。この作品は台湾人として作るべきではなかったのか。日本人と設定したところに、何か作り物になっているところがある。百福氏は台湾出身者であること普通に公表していた人である。野球の王貞治さんと同じである。なぜ脱税容疑で捕まったのかはドラマでは奨学金に使ったお金を脱税容疑とされたとなっているが、誰もが不自然と感ずるところだろう。実際の事情は台湾人である安藤氏は、戦後の一時期免税扱いをされていた。ここには台湾人の戦勝国民扱いがある。加えて安藤氏は戦災の補償金で有数な資産家になった。そして様々な事業を行っていた。
中には怪しい事業もあったらしい。しかし、敗戦国日本の警察には手が出せないということで、GHQが登場することになる。闇市が朝鮮人中心に形成され、それに対抗したのが日本のやくざということがある。これにかかわった人から直接話を聞いたことがある。それが国粋主義者と結びつく。その意味で、台湾人と朝鮮人では権利や対応が異なったということもある。本来、このドラマでは敗戦国日本の戦後社会の問題を避けるべきではなかった。旧植民地出身者の扱いを問題にすべきところであろう。そうしたこと自主規制してしまうところがNHKの朝の連ドラなのだろう。勢いで書いてしまえば、安藤サクラさん演じる奥さんは3人目の奥さんだそうだ。それでなかなか結婚が許されなかったという。前の2人は台湾人だという。日本人の奥さんと結婚してのちに日本国籍を得ることになる。そういう複雑な事情もなかなか朝ドラには向かないのだろうか。しかし、そういうことも公表されている。私はインスタントラーメン売り出しから、朝食はこれだと決めて、食べ続けた人間なだから、このくらい個人的なことを書いても許るしてもらえるだろう。
朝の連ドラは毎回女性の生き様が描かれる。ゲゲゲの女房でも水木しげるさんの話ではあるが、奥さんの視点から描くということになる。今回の福さんは実際に素晴らしい人であったらしい。元の奥さんの子供を分け隔てなく立派に育てた点でもみごと。長生きをされて、一族全体を素晴らしいものにした功労者。奥さんのすばらしさがなければ、安藤百福氏の日本社会での成功はなかったのかもしれない。だから、インスタントラーメン、カップヌードルから、ドンベイまで日清食品が世界に広がる功績の半分は奥さんにあるといっても過言ではない。