蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

カリ・モーラ

2020年08月23日 | 本の感想
カリ・モーラ(トマス・ハリス 新潮文庫)

コロンビアからの移民で、マイアミで別荘の管理人などをしているカリ・モーラは美人でスタイルも抜群。動物好きで獣医を目指している。
カリはコロンビアの麻薬王がアメリカに保有していた別荘を管理することになったが、この別荘には麻薬王のお宝が秘蔵されているらしく、様々な悪漢たちが狙いをつけていた・・・という話。

うーん、レクターものに比べると、かなりライトな雰囲気でカリのキャラもイマイチ立ってないかなあ、と思っていたのだが、終盤で悪役のハンス・ペーターとのカリの一騎打ちの戦いは迫力があった。途中でこういう感じの場面があと2つくらい挿入されていれば、よかったかな。
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越境(ユエジン)

2020年08月23日 | 本の感想
越境(ユエジン)(東山彰良 集英社)

何回も候補にあがって世間的にはとっくに一流作家と思われている人が受賞することが多くなった直木賞だが、たまには作品そのものの素晴らしさが評価されることもある。
著者の「流」は、その典型例で、さして実績があるとはいえなかった著者が、その受賞で突如脚光を浴びたように思えた。
受賞によって一気に依頼が増えたころに書かれたと思われるものが多いエッセイ集。

冒頭の「バナナ人間の悲哀」は、中国留学中に学校の新聞にインタビューされ、「自分はどこの国にも属しているとは思えない」といった主旨のことを喋ったら、紙面には、バナナ人間が早くアイデンティティを獲得することを祈るみたいに書かれてしまった、という経験を記したもの。著者は台湾で育ち、日本で青春時代を送り、中国に留学して、今は中国語の先生をやっている。
アイデンティティ=国籍、ではなく、アイデンティティ=暮らしている国とも言えないのだろうが、やはり多くの人はそのどちらかに属性を感じているはずだから、著者のような経歴で確固たるアイデンティティを持てというのは無理があるのかもしれない。

ところで、著者はちょっとだけ私より年下で、学生時代は同じ日本で過ごしたのだが、本書を読んでいると、著者自身もその周囲の人も(「流」や「僕が殺した人と僕を殺した人」のストーリー通りに)他人を殴ったり殴られたりするのが当たり前だったようだ。
私は(アムロ・レイみたいに)親父にも殴られたことはないし、他人を殴ったこともない。けっしてお上品な家庭に育ったわけではなくむしろ平均以下の生活レベルだったと思う。
しかし、不良少年が主人公のマンガみたいな、そういう世界も本当にあったんだなあ、と思った。

巻末に「流」について語ったリービ英雄との対談が掲載されているのだが、その中でリービ英雄が語った次の部分が印象に残った。中国の教養人は今でも四書五経を諳んじているんだろうか??
「僕が一番感心して、多少交流も持った中国の作家は莫言氏と閻連氏ですが、ふたりとも農民出身なんですね。農民の世界は、四千年前からの古典を全部暗記しないと何一つ発言できないという教育の体系から解放されている。それに対して、亡命作家の高行健氏は北京のインテリで、僕には読みづらい。都市部の教養人の中国語を、僕ももちろん共有していない。さっき、あなたは自分の中国語は日常レベルとおっしゃったけど、それが作家にとっては重要なんじゃないかという気がして・・・」
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身分帳

2020年08月15日 | 本の感想
身分帳(佐木隆三 講談社文庫)

殺人罪で長年旭川の刑務所に収監されていた山川は出所して、弁護士の紹介で東京で暮らし始める。高血圧の持病があって思うように働くことができないが、近所の人と摩擦を起こしながらも、親切に世話をしてくれるひとも現れ、苦戦の末に自動車免許もとって生活が軌道に乗るかに思われたが・・・という実話に基づく、ほぼノンフィクションといえる内容。30年くらい前に出版され絶版だったが、西川美和監督で映画化されることになり復刊されたもの。

「身分帳」というのは「収容者身分帳簿」のことで、服役者の履歴などが記載されたもの。

かつて暴力団の幹部で、抗争で相手を殺害し、刑務所では「反則太郎」と呼ばれるほど態度が悪く、怒りっぽくてすぐ手が出そうになる、そんな、できればお近づきになりたくないような山川に対して、周囲の人は意外なほど親切でフレンドリーに接してくれたことに、ちょっと驚いた。

主人公が服役中に起こした裁判記録や刑務所に入所されるときに渡される手引き(心得などを記したもの)などがかなり長目に引用されているのだが、一見、無味乾燥な文面ながらじっくり読むとなかなか味がある内容だった。(まあ、著者から見て魅力があると思われる部分を引用しているからだろうけど)
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蒼天見ゆ

2020年08月15日 | 本の感想
蒼天見ゆ(葉室麟 角川書店)

幕末、九州の秋月藩の重臣:臼井亘理は先進的な政策を推し進め、藩内の守旧派から疎まれ暗殺される。亘理の息子:六郎は暗殺の主犯格の一瀬直久に、仇討ちを誓う。東京で司法官として活躍していた直久を追って上京するが・・・という、最後の仇討ちと言われた実話に基づく物語。

葉室麟さんの作品を読むのは初めて。日経新聞の夕刊のコラムで絶賛されていたので読んでみたのだけど、それほどでもなかったかな・・・という感じ。

どうも主役の六郎より、敵役の直久の方が魅力的に見えてしまうんだよね。
それに、仇討ちの現場が秋月藩の旧藩主の屋敷内だったこと、初回の襲撃で簡単に仇討ちを果たしたこと、から、「これって(六郎の手柄というより)旧秋月藩のスタッフ?が仕組んだヤラセだったのでは?」などと思ってしまうのだった。
総じて、主役の六郎のキャラ立ちがイマイチなのでは、と感じたのだった。
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マカロンはマカロン

2020年08月15日 | 本の感想
マカロンはマカロン(近藤史恵 東京創元社)

小さなビストロ:パ・マルの三舟シェフを探偵役にした日常の謎を解くミステリシリーズの第3弾。

このシリーズは、ミステリとしての謎解きは軽い味付け程度(ただし、表題作:「マカロンはマカロン」は謎解きもなかなかよかった)で、主体は三舟シェフ(あるいはサブの志村さん)が作る料理の描写だ。どれもとてもうまそうで、近所にパ・マルみたいな気取らないフランス料理店があったらオーダーしてみたいと思わせる。
もっとも街中にある小さなレストランで本シリーズのような凝った料理がメニューにあるとは思えないが。

本作では、壺を使う料理のベッコフ、白アスパラガスのビスマルク風、豚足料理のピエ・ド・コション(フランス料理で豚足がポピュラーな素材とは知らなかった)、豚の血のソーセージ:ブータン・ノワール(これが一番食べてみたい)、ブリオッシュ・プラリーヌ(甘いアーモンドをいれたパン)などがうまそうだった。
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