蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

身分帳

2020年08月15日 | 本の感想
身分帳(佐木隆三 講談社文庫)

殺人罪で長年旭川の刑務所に収監されていた山川は出所して、弁護士の紹介で東京で暮らし始める。高血圧の持病があって思うように働くことができないが、近所の人と摩擦を起こしながらも、親切に世話をしてくれるひとも現れ、苦戦の末に自動車免許もとって生活が軌道に乗るかに思われたが・・・という実話に基づく、ほぼノンフィクションといえる内容。30年くらい前に出版され絶版だったが、西川美和監督で映画化されることになり復刊されたもの。

「身分帳」というのは「収容者身分帳簿」のことで、服役者の履歴などが記載されたもの。

かつて暴力団の幹部で、抗争で相手を殺害し、刑務所では「反則太郎」と呼ばれるほど態度が悪く、怒りっぽくてすぐ手が出そうになる、そんな、できればお近づきになりたくないような山川に対して、周囲の人は意外なほど親切でフレンドリーに接してくれたことに、ちょっと驚いた。

主人公が服役中に起こした裁判記録や刑務所に入所されるときに渡される手引き(心得などを記したもの)などがかなり長目に引用されているのだが、一見、無味乾燥な文面ながらじっくり読むとなかなか味がある内容だった。(まあ、著者から見て魅力があると思われる部分を引用しているからだろうけど)
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蒼天見ゆ

2020年08月15日 | 本の感想
蒼天見ゆ(葉室麟 角川書店)

幕末、九州の秋月藩の重臣:臼井亘理は先進的な政策を推し進め、藩内の守旧派から疎まれ暗殺される。亘理の息子:六郎は暗殺の主犯格の一瀬直久に、仇討ちを誓う。東京で司法官として活躍していた直久を追って上京するが・・・という、最後の仇討ちと言われた実話に基づく物語。

葉室麟さんの作品を読むのは初めて。日経新聞の夕刊のコラムで絶賛されていたので読んでみたのだけど、それほどでもなかったかな・・・という感じ。

どうも主役の六郎より、敵役の直久の方が魅力的に見えてしまうんだよね。
それに、仇討ちの現場が秋月藩の旧藩主の屋敷内だったこと、初回の襲撃で簡単に仇討ちを果たしたこと、から、「これって(六郎の手柄というより)旧秋月藩のスタッフ?が仕組んだヤラセだったのでは?」などと思ってしまうのだった。
総じて、主役の六郎のキャラ立ちがイマイチなのでは、と感じたのだった。
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マカロンはマカロン

2020年08月15日 | 本の感想
マカロンはマカロン(近藤史恵 東京創元社)

小さなビストロ:パ・マルの三舟シェフを探偵役にした日常の謎を解くミステリシリーズの第3弾。

このシリーズは、ミステリとしての謎解きは軽い味付け程度(ただし、表題作:「マカロンはマカロン」は謎解きもなかなかよかった)で、主体は三舟シェフ(あるいはサブの志村さん)が作る料理の描写だ。どれもとてもうまそうで、近所にパ・マルみたいな気取らないフランス料理店があったらオーダーしてみたいと思わせる。
もっとも街中にある小さなレストランで本シリーズのような凝った料理がメニューにあるとは思えないが。

本作では、壺を使う料理のベッコフ、白アスパラガスのビスマルク風、豚足料理のピエ・ド・コション(フランス料理で豚足がポピュラーな素材とは知らなかった)、豚の血のソーセージ:ブータン・ノワール(これが一番食べてみたい)、ブリオッシュ・プラリーヌ(甘いアーモンドをいれたパン)などがうまそうだった。
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