蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

おそろし

2020年08月01日 | 本の感想
おそろし(宮部みゆき 角川文庫)

主人公のおちか(十七歳)は、叔父夫婦の店:三島屋に引き取られて働いている。結婚をめぐって辛い経験をして心が晴れない。叔父は、不思議な経験を持つ人を招いておちかと対話させることで、治療しようとする。おちかは乗り気ではなかったが、いのちをめぐる不思議な話を聞くうちに気分が変わってくる・・・という話。

三島屋変調百物語シリーズの初巻。
短編集かとおもいきや、5つの部分に分けているだけで、とある呪われた家屋を中心にした長編としても読める。
語り口のうまさは相変わらずで、ありふれた筋立て(失礼)なのに飽きることなくどんどん読める。そして、著者の悪癖?である話の長大化も相変わらず。文庫本で500ページ近くあるのに、本作はシリーズのプロローグの前半くらいの位置づけみたいだ。
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掃除婦のための手引き書

2020年08月01日 | 本の感想
掃除婦のための手引き書(ルシア・ベルリン 講談社)

著者はアラスカで生まれて、鉱山技師である父に連れられてアメリカの鉱山街を移り住む。第二次世界大戦後はチリで恵まれた生活を送る。大学を出た後は二度離婚し、三度結婚し、教師、掃除婦、看護師等の職を転々としながら4人の子供を産み育てる。アル中になり苦しむが克服後は大学で創作を教えた。

上記のような経験を小説にした作品集なのだが、最も精彩を感じさせるのはチリ時代を素材にしたもの(「バラ色の人生」等)で、著者としても人生でもっとも優雅に暮らしたころがよい思い出になっていることをうかがわせる。

迫力があるのはアル中の経験を書いた「どうにもならない」で、中毒症状の描写がものすごくビビットだ。アル中克服のための施設での経験を描いた「最初のデトックス」「ステップ」もよかった。

最も気に入った一節を引用する。(「ママ」)
「あたしママに言われたことがある、『とにかくこれ以上人間を増やすのだけはやめてちょうだい』って」とサリーは言った。「それに、もしあんたが馬鹿でどうしても結婚するっているなら、せめて金持ちであんたにぞっこんな男になさいって。『まちがっても愛情で結婚してはだめ。男を愛したりしたら、その人といつもいっしょにいたくなる。喜ばせたり、あれこれしてあげたくなる。そして「どこに行ってたの?」とか「いま何を考えているの?」とか「あたしのこと愛してる?」とか訊くようになる。しまいに男はあんたを殴りだす。でなきゃタバコを買いに行くと言って、それきり戻ってこない』」
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