蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

チームバチスタの栄光(小説)

2010年01月11日 | 本の感想
チームバチスタの栄光(小説)(海堂尊 宝島社)

小説を読むより先に映画を見た。映画の感想で書いたように、映画版に対する世間の評価はあまり高くないようだが、私はけっこう良い作品だったのでは、と思った。

原作を読んでみて、映画版の評判が悪いわけがわかったような気がした。
主役二人(田口と白鳥)のイメージが原作と映画であまりにかけ離れているのが大きな原因だろう。
原作ではさえない窓際族と変態的な官僚として描かれている二人が、映画のキャストは竹内さんと阿部さんなんだから、それだけでも違和感アリアリ(桐生のみ、原作と映画のイメージがかなり近いと思う)。

謎解きは、正直いってあまりぱっとしたものではなくて、言ってしまえばありきたりなのだが、このシリーズが人気あるのは、やはり主役二人の際立つキャラのおかげだろう。
いろいろと事情はあるのだろうけど、映画はそこのところをあまりに軽視していたように思う。

繰り返しになるが、原作と切り離して見れば、映画はそこそこ良い出来だったと、私は思った(映画版の感想でも書いたけれど、映画版の第一の謎解きはとても鮮やかだった)。
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思考の整理学

2010年01月10日 | 本の感想
思考の整理学(外山滋比古 ちくま文庫)

外山さんと言うと、私が高校生だったころ、国語の教材や入試問題によく取り上げられる著者として有名で、私も受験対策として「ライフワークの思想」を読んだりしました。

外山さんの文章は、よく整理されていて平易に書かれているのでわかりやすく、良文の見本だったのでしょう。(もっとも、わかりやすい良い文章では難問を作ることは困難でしょうが)

本書は、文庫版でさえ出版されてから20年以上経っているのに、(確か)2年くらい前から書店で平積みされているのを見かけるようになりました。

内容は、普通のサラリーマンや学生には、あまり役にたちそうにないのですが、真面目に論文を書こうとしている学生や研究者、まとまった文章を書くことが必要な人には有益かもしれません。

私は、このブログにもたびたび書いているように、野口悠紀雄さんのノウハウ本が好きなのですが、これもやはり、学者になら(とうか、野口先生自身になら)大変役立ちそうなものの、私のようなごく平凡な勤め人には必要なさそうだといつも感じてしまいます。

それでも、「超XXXシリーズ」あるいは本書のようなノウハウ本を手にとっていしまうのは、「ああ、こんな学究の徒みたいな生活がしてみたい」という憧れがあって、一種のフィクションとして読んでいるからだと思います。
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死なないでいる理由

2010年01月09日 | 本の感想
死なないでいる理由(鷲田清一 角川文庫)

死や介護、教育といったテーマを中心に新聞などに寄稿したエッセイをまとめたもの。

それぞれのエッセイの間の関係性は強くない。
高名な著者の作品を読んだことがなかったのと、ちょっと奇妙なタイトルにひかれて衝動買いしたけれど、各エッセイ間の関連性がうすくて全体に散漫な印象だった。

タイトルと同じ「死なないでいる理由」という題名のエッセイを要約しておく。

人には自分の命を断とうとする欲望がある。いろいろな娯楽はそれを紛らわせるためのものだが、実は仕事さえもそうした気散じのひとつにすぎない。
そのような、生物の存在自体に対抗する欲望を持つ人は、それゆえに、なぜ生きていくのか、という意味を考えざるをえない。
生きる意味は、失ってはじめて、それがあったことに気がつく「幸福」にも似ている。
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ハッピー・リタイアメント

2010年01月05日 | 本の感想
ハッピー・リタイアメント(浅田次郎・幻冬舎)

ノンキャリアの財務官僚とたたき上げの自衛官が定年前に肩たたきにあって、公的債務保証機関へ再就職する。
そこですでに時効となった債務の管理をする部署に配属されるが、実際の仕事は何もなく、決まった時間に出社すれば外出も自由という、まさに天国のような職場だった。
しかし、二人はそんな境遇にあきたらず、時効となった債務者のうち今は大金持ちになった人をさがして、道義的な責を問い返済を求める仕事を始める。

天下りを批判するテーマでありながら、浅田さん得意の人情話、ミステリ的味付けも加わって大変に楽しめる内容。
細かいところの粗さは否めないところもあるが、いまや大家の域に達した多忙な著者としてはいたしかたないところか。

本筋とはあまり関係ないが面白かったエピソードが二つあった。

公的債務保証機関の職員が浅田さんの豪邸に時効後の債務が取り立てに来たという、本書の主筋と同じ話が実話仕立で冒頭に配されている。真に迫っていて(特に後輩の税理士に相談するあたり)もしかして本当にあった話?と思わせるくらいだ。

もう一つは、自衛隊一筋で海外にいったこともなかった主人公の一人が成田でファーストクラスの正規チケットをカウンターで買うという話。ガッツポーズするJALの職員の姿が目に浮かぶようだった。
このエピソードに限らず、自衛官OBの描写が非常に生き生きとしていて、大家である著者であっても、自らの経験に根ざしたところが一番力がはいるし、面白くできる、ということだろうか。
コメント (1)
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