蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

一手千両

2010年01月19日 | 本の感想
一手千両(岩井三四二 文芸春秋)

江戸期、大阪堂島では、世界最初の組織的な先物取引(対象は米価)が行われていた。

仲買人(ブローカーだが、市場参加資格を持つディーラーでもある)の主人公は、友人の心中事件を殺人ではないかと疑い、仲間と捜査を開始する。やがて背後に買い方の大物がいることをつきとめるが・・・という話。

ミステリ風の味つけはしてあるが、ひねった筋とかトリックは全くなくて謎解きの興味はほとんどない。

本書の魅力は江戸期の先物市場のリアルな(私自身は知識がないので、そう思えるというべきだが)描写にあると思う。
証拠金制度、追証、自主規制機関、清算機関やSQに近い制度まであった堂島の先物制度は現代の取引所のデリバティブ取引とも遜色ないほどのもので、当時の相場用語の多くが現代でも使われている。

ただ、思うようにならない相場に対する主人公の心理描写は、類型的というか、ありきたり。
著者の作品を読んでいると、どの本でも著者のまじめな性格が文章ににじみでているような気がする(本当にそういう性格の人なのか知っているわけではない)。賭け事には縁がないような人が相場師の心境を想像するのは難しいことなのかもしれない。
コメント
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