蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ハッピー・リタイアメント

2010年01月05日 | 本の感想
ハッピー・リタイアメント(浅田次郎・幻冬舎)

ノンキャリアの財務官僚とたたき上げの自衛官が定年前に肩たたきにあって、公的債務保証機関へ再就職する。
そこですでに時効となった債務の管理をする部署に配属されるが、実際の仕事は何もなく、決まった時間に出社すれば外出も自由という、まさに天国のような職場だった。
しかし、二人はそんな境遇にあきたらず、時効となった債務者のうち今は大金持ちになった人をさがして、道義的な責を問い返済を求める仕事を始める。

天下りを批判するテーマでありながら、浅田さん得意の人情話、ミステリ的味付けも加わって大変に楽しめる内容。
細かいところの粗さは否めないところもあるが、いまや大家の域に達した多忙な著者としてはいたしかたないところか。

本筋とはあまり関係ないが面白かったエピソードが二つあった。

公的債務保証機関の職員が浅田さんの豪邸に時効後の債務が取り立てに来たという、本書の主筋と同じ話が実話仕立で冒頭に配されている。真に迫っていて(特に後輩の税理士に相談するあたり)もしかして本当にあった話?と思わせるくらいだ。

もう一つは、自衛隊一筋で海外にいったこともなかった主人公の一人が成田でファーストクラスの正規チケットをカウンターで買うという話。ガッツポーズするJALの職員の姿が目に浮かぶようだった。
このエピソードに限らず、自衛官OBの描写が非常に生き生きとしていて、大家である著者であっても、自らの経験に根ざしたところが一番力がはいるし、面白くできる、ということだろうか。
コメント (1)
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