蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

たいがいにせえ

2008年09月20日 | 本の感想
たいがいにせえ(岩井三四二 光文社)

「難儀でござる」に続く、歴史上あまり有名でない(あるいは存在自体が疑われる)人物を主人公にした短編集。特に面白かったのは次の三篇。

「信長の逃げ道」は、朝倉攻めから京都への退却路に当たってしまった琵琶湖畔・朽木谷の小領主の物語。臆病で人見知りの激しい領主が、信長にうまく応接できた理由が面白かった。

「あまのかけ橋ふみならし」は、荒木村重が逃げ出した後の、籠城中の有岡城に残された妻の物語。村重は最初から有岡城に帰ってくる気はなく、自分たちはあっさりと見捨てられたことが、終盤のあるエピソードで明らかになる。村重は、その後もある意味のうのうと生き延びて、畳の上で死んだ。ホントにひどい奴だったとしか思えないが、戦国乱世にあっては当たり前の生き方だったのかもしれない。

「迷惑太閤記」は、加賀・前田家の老家臣の物語。戦場経験豊富な彼の趣味は、昔のいくさの自慢話。なぜか最近、ウケが悪くなった。その原因は当時流布しはじめた「太閤記」のある記述にあった・・・。その真相もさることながら(この真相はまさに「たいがいにせい」と言いたくなるようなもの)、老家臣とその娘に求婚に来た青年との剣術の対決場面も静かな迫力があってよかった。
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