殿は今夜もご乱心

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現場はいま…ゴーヤ騒動記・6

2024年06月06日 10時37分28秒 | シリーズ・現場はいま…

事務員のアイジンガー・ゼットが次男に話した内容から

ピカチューが河野常務に怒られたことを知った我々は

第二アキバ計画の終焉を知った。

アキバ一味には、もうちょっと頑張って欲しかった。

人を罠にはめるつもりなら、途中でうまくいかなかった場合に備えて

次の手を用意しておくのが悪人の常識ではないのか。

不甲斐ない奴らだ。

 

さて、常務に怒られたピカチューは急におとなしくなった。

相棒のアイジンガー・ゼットもバッチリ疑われていることだし

しばらくの間、静かにせねばなるまい。

 

そこで彼が思い出したのは、第一アキバ計画。

F工業を訪問してF社長に会い、F工業がやっているうちの仕事に

T興業も混ぜると伝える件だ。

F社長が承諾すれば、徐々にT興業の割合を増やしていき

最終的にはT興業に切り替える計画である。

 

常務に怒られてからさほど日をおかず、彼はF社長に連絡を取った。

F工業へ行くことは常務に止められたので、もちろん内緒だ。

今のうちにやりたいことをやっておかなければ

監視の目が厳しくなった場合、身動きが取れなくなる。

そのため、原点に戻って行動してみたと思われる。

 

原点に戻ると言えば聞こえはいいが

T興業と天秤にかけることでF社長を焦らせて

接待の酒をせしめるのが彼の目的であろう。

アキバ社長に覚えさせられた蜜の味を

F社長からもいただくつもりなのだ。

 

「明日ならいい」

F社長の承諾を得たので、ピカチューは電話をかけた翌日

いそいそと出かけて行った。

 

F工業の本社事務所へ行くには、片道1時間ほどかかる。

出かけたピカチューが帰って来たのは、3時間後。

夫は1時間ほど話ができたのかと思ったが、違っていた。

来客中ということで、1時間待たされたそうだ。

 

1時間後にF社長が現れ

名刺交換をして挨拶を済ませたら、面会は1分で終了。

ピカチューは何も言い出せず、すごすごと帰ったらしい。

F社長の方が10才ぐらい年下だが、貫禄負けしたと思われる。

すでに夫とピカチューは、ほとんど口をきかなくなっているが

この時ばかりはブツブツ言ったそうだ。

 

後で、F社長から次男に連絡があった。

「ギャンギャン言うちゃろう思よったけど

相手するのが馬鹿らしゅうなったけん、待たせたった」

だそう。

放置の刑…ギャンギャン言われるより厳しいかも。

以後のピカチューはますますおとなしくなり

今のところは静かな日々を過ごしている。

 

さて、常務に疑われたことを気にするアイジンガー・ゼットは

どうしているか。

お待たせしました…ここでタイトルにあるゴーヤの登場。

 

5月のある日、彼女は事務所の窓の外周りに

ゴーヤの苗を植えなすった。

まだ常務に疑われる前で、ピカチューともラブラブだった頃だ。

 

「植物のカーテンで事務所の光熱費を節約する」

それが彼女の主張。

公務員試験に受かったら、の話だが

彼女は理科の教員免許を持っているのだ。

何回受けても落ちるので、教師の道は諦めたらしく

事務所で理科を実践するらしい。

 

アイジンガー・ゼットは4本の苗と4個の大きな植木鉢

土に肥料にゴーヤのツルを這わせるネットなど

ゴーヤ栽培一式を買い込み、植えたという。

もちろん、それらの代金は会社の経費。

アイジンガー・ゼットにねだられたピカチューが

会社の小口現金から、出金を許可したのだった。

 

「塩まいて枯らしちゃるんじゃ!」

次男は息巻いている。

事務所を我が物のように扱うアイジンガー・ゼットのやり方に

怒りを覚えているのだ。

 

愛人体質の女って、こういうことをよくやる。

勤務先に私物を置いたり、趣味を押し付けたりで

自分の物のように振る舞うのだ。

動物本能の強い人間が無意識に行う一種のマーキングである。

自腹を切るならまだしも

人の金でやろうとするのもこの人種の特徴で

そのような習性が他者の不快を招く場合も、ままあることだ。

 

「およし」

私は次男に言った。

「何で?やっちゃあいけんの?」

不満そうな次男。

「いけん…塩は残る」

「……」

 

ええか?よう聞けよ?…

私は不思議そうな顔の次男に向け、ゆっくりと話すのだった。

「イタズラは、バレんようにするけん面白いんじゃ。

塩は白いのが残るけん、誰かがやったのはバレバレじゃん。

ブサイクなこと、したらいけん」

「じゃあ、どうしたらええん?」

「塩水」

「その手があったか!」

 

会社の前は海なので、海水ならたっぷりある…

しかし潮位によっては、汲みあげるのにバケツとロープが必要になる…

大げさなことをしたら人目につく可能性が高まるため

もっとコンパクトに行うのだ…

私はそう説明しつつ、台所にある食塩とカラのペットボトル

そして小さいペットボトルの口から

塩と水をスムーズに入れるためのジョウゴを渡す。

 

「あんた、ここまでタチ悪い人間じゃったんか…」

細い目を丸くして、呆然と私を見る次男。

「あんた、知らんかったんか」

「知らんかった」

「昔の子供は皆、こんなモンよ。

今どきの子供はイジメはよう知っとるが、イタズラは知らんけんね」

「そうなんか…」

「ささ、お水を入れてシェイク、シェイク」

二人で楽しく塩水作成だ。

 

「母さんは、いっつも人に意地悪したらいけんて言うじゃん。

何で今回は協力してくれるん?」

次男は私に問うた。

「昔から、会社に実の成る植物を植えたらいけん言われとるんよ。

商売人じゃない人は、それを知らん。

温暖化対策が流行って、窓にゴーヤ植える会社が増えたけど

たいてい売り上げ下がっとるか、無くなっとるはずじゃ」

「あ、そういえば…」

「光熱費が上がったら、節約もええかもしれんけど

家と会社は違うんじゃ。

それ以上の利益を上げてやる、いう気概を持たんと

会社は落ち目になるもんよ。

ゴーヤの世話するいうて、時間潰すし

そういうヤツは寒うなってグチャグチャになったのを

放っとくのもお決まり。

一旦枯れたら、ツルが硬うなって後始末が大変じゃけん

皆、見て見んフリよ。

あんた、ゴーヤがブラブラしとる会社見て、どう思う?」

「貧乏くさい思う。

それから、暇なんじゃの…て思う」

「じゃろ?

貧乏と暇は商売の敵じゃ。

そんな会社を誰が盛り立ててくれようか。

雇われとる身で、そういうことをやるのはいけん」

「ようわかった…行ってくるわ」

次男は濃い塩水の入ったペットボトルを握り

誰もいない会社へ行った。

 

翌朝、ゴーヤの苗は見事にしなびていたという。

しかしアイジンガー・ゼットは諦めない。

またゴーヤの苗を買って来て、同じ植木鉢に植えた。

が、塩水をたっぷり含んだ土では、やはり育つ前にしなびてしまう。

現在も彼女は、それを繰り返している。

もう4回目だ。

 

苗の代金がもったいないって?

なんの、我が子と一緒にやるイタズラの楽しさ

そしてゴーヤのお陰で色々教える機会を得た喜びは

プライスレス。

理科の先生なんだから、せいぜいお気張りやす。

あれ?そういえばずいぶん昔

夫と不倫した長男の副担任ジュンコも理科の教師だったわ。

何の因果かしらねぇ…フフ!

《完》

コメント (4)
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