バイクに夢中な時代が終わった後も
息子たちは時々、Sさんの店へ顔を出していた。
まだバイクを持っている長男はともかく
とうにバイクを手放して釣り三昧の次男も、今だにSさんとは親しい。
そのSさんの店に、一人の女子高生が出入りするようになったのは
2年ほど前のこと。
原付バイクの売買で知り合ったらしい。
女子高生は学校帰りに店へ入り浸るようになり
Sさんは店の顧客で行くツーリングに彼女を連れて来るようになった。
「まさか…」
二人の睦まじさを目撃するにつけ
うちの息子たちを始め、店に出入りするバイク仲間は首を傾げた。
どちらかといえば真面目で商売熱心なSさんが
子か孫のようなJKに夢中になるなんて、考えられないからだ。
「Sさんは子供が男の子ばかりで、女の子がいないから珍しいんだろう」
「女の子は父親がいないそうだから
Sさんのことをお父さんのように慕っているんだろう」
皆は、そう思うことにしたという。
そのSさんは、毎年12月にバイク仲間を集め
会費制で盛大な忘年会を開く。
うちの息子たちも長年に渡り、欠かさず参加してきた。
けれども、一昨年のこと。
この忘年会に、問題の女の子が参加した。
中高年のバイク好きが集まる男ばかりの酒席に
女子高生の参加は違和感満載だったらしく
長男は翌年、つまり去年から忘年会には行かなくなった。
Sさんには、彼女とのデートを理由に断ったが
「未成年者ナントカの罪に巻き込まれたら嫌だ」
という本音があった。
長男は、年に数回あるSさん主催のツーリングにも行かなくなった。
例の女の子が、Sさんのバイクの後ろに乗って参加するからだ。
以後、Sさんに会うのは
自分のバイクのメンテナンスを依頼する時だけになった。
危険から距離を置こうとする彼の成長を、私は嬉しく思った。
一方、次男は去年の忘年会に参加した。
前年、女子高生がいたことに驚いた人が多かったようで
参加者が激減し、Sさんから是非にと言われたのもあるが
この十何年、ずっと兄弟で参加していたのに
急に二人とも行かなくなると変に思われる…
という気持ちもあった。
そして今年の春、女子高生はめでたく高校を卒業し
都市部の専門学校へ行くという。
ついては、その壮行会を開催するので参加して欲しい…
次男はSさんに誘われたが、これはさすがに断った。
表向きの理由は仕事。
しかしその本音は
「参加したら認めたことになるけん、奥さんは傷つくはず」
というものだった。
このような配慮ができるようになった次男の成長を
私は嬉しく思った。
そのまま夏が過ぎ、秋が来た。
久しぶりにSさんの店へ寄った次男は
旅行用の歯磨きぐらいのチューブを私に手渡した。
Sさんからもらった、シワ取りクリームだそう。
キンキラキンのキャップのそれは、いかにも高級そうだ。
「通販で定期購入しとったら
頼んでないのに何本も送られてくるようになったけん
腹を立てて断ったんだって。
見るのも嫌じゃけん、お母ちゃんにあげんさい言うて
ワシにくれた」
「何でSさんがシワ取りクリーム?
奥さんが使ったらええじゃん。
それとも奥さんには秘密で使いようたん?」
「知らん」
初老の男がシワ取りクリーム…
はは〜ん…ここで納得した私である。
Sさんと元女子高生はクロだ。
顔が良くても年は取る。
若い娘と付き合っていればなおさら、自身の老いが気になるものだ。
そこでシワ取りクリームを買い込み、無駄な努力を重ねる女々しさよ。
ともあれ、せっかくもらったクリーム。
さっそく塗りたくって寝たら
翌朝、鼻の頭とアゴに赤いブツブツができとるじゃないか!
ガックリ。
《続く》