殿は今夜もご乱心

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崖っぷちウグイス日記・1

2022年11月17日 13時59分51秒 | 選挙うぐいす日記
「次の選挙には、もういないだろう」

4年前にはタカをくくっていた。

うちの姑、ヨシコのことだ。

ワガママで手のかかる彼女をどうするか…

私のウグイス稼業で最大の難問が、これ。

そうよ、来たのよ。

4年に一度しかやらないウグイスの日が。


しかし、期待もむなしくヨシコは今回も健在。

いや、むしろ4年前よりピンピンしている。

飼い犬に額を噛まれ、通院している以外は元気そのものだ。

こうなると、お年寄りが元気なのは何よりだと考えを改め

選挙期間中も健やかに過ごしてほしいと願う、いい加減な私よ。


そのヨシコ、元気なことは元気だが、知力と体力は確実に衰えている。

86才では仕方がない。

私も前回の選挙では50代だったが、今回は62才。

選挙期間中、家族のために料理を作る自信はもう無い。

朝の味噌汁ぐらいなら作れるが、ちゃんとした料理は無理だと全身が叫んでいる。

体力的に崖っぷちなのだ。

そのため、選挙中に家族の食事を作って出かける習慣を見直すことにした。


おでん、カレー、シチュー、ハヤシライスは

留守をするにあたり、これまで私が頼りにしてきた“煮込み四天王”である。

これらと複数の常備菜、あとはサラダやナムルでやり過ごすのが私の常套手段だった。

が、いつしかこの四天王は戦力外通告。

忘れっぽくなったヨシコが温めようとして焦がすのに加え

彼女のワガママは一段と進行して、やっつけ仕事の煮込み料理を食べなくなったからだ。

さらに四天王の入った鍋は、大きくて重い。

ヨシコは、その鍋を動かしたり洗うのを嫌がるようになっていた。


しかし、手はまだある。

夫だ。

料理をしないヨシコのために、日々テイクアウトの店屋物や惣菜を買い与えてもらう。

彼は母親の好みをよく心得ているのだ。

四天王がダメなら夫に頼るしかない。


が、選挙が近づくと、夫もあてにできなくなった。

なぜってこの人、夜の6時から活動が終わる8時まで

選挙カーのドライバーをすることになっちゃった。

ガ〜ン!


うちの候補は、近隣の老人有志をドライバーに使う。

選挙カーのドライバーは負担が大きいので、あらかじめ8人ほど用意し

午前、午後、夜と3人ずつ交代させていくシステムだ。

しかし夜は時間こそ2時間と短いものの、暗いのでドライバーの負担が大きいのと

皆さん、仕事が終わったら晩酌がしたいらしく人気が無い。

そのため下戸であり、若かりし頃は衆議院選で

今は亡き国会議員の専属ドライバーをしていた夫に白羽の矢が当たり

彼が毎晩やることになったのである。


本当はすごく嫌。

夫は近年とみに目が劣えている。

大丈夫なんだろうか。

「選挙カー、崖下へ転落。車内の4名死亡」

新聞の見出しが目に浮かぶ。

しかも女房はウグイス、亭主はドライバー…

夫婦でガン首揃えて選挙カーに乗るなんて

他人がやったら「バカじゃないの?」とあざ笑っているところだ。


が、すでに夫は引き受けているので諦めるしかない。

今さらゴチャゴチャ言って、盛り上がっている雰囲気に水を差すのは

選挙戦に関わる者として絶対にやってはならないことだ。

唯一の救いは、夜ということ。

暗いので、ドライバーの顔はあんまり見えないからである。


夫が運転する選挙カーに乗るのも嫌だが、ヨシコの食事に夫を頼れないとなると万事休す。

ここで名乗りを上げたのが、長男であった。

「僕がばあちゃんを引き受ける」


長男は料理をするのが苦にならないタイプだが、一週間は持ちこたえられない。

そこで毎晩、外食に連れて行ってもらうことにした。

犬にかじられたヨシコの額には大きな絆創膏が貼ってあり

外へ出るのを嫌がるかと思っていたが、孫と一緒ならやぶさかでない様子。

一時は化膿して重篤になりかけた傷も徐々に回復し

そろそろ人に会って悲劇の一部始終を話したくなってきたヨシコは

この提案を喜んだのでホッとした次第である。


ここまで気を使う必要があるのか?

義理親と暮らしたことの無い人は、思うかもしれない。

しかし老人とは、周りに気を使わせてナンボの生き物だ。

機嫌を損ねたり疑問を抱かせたら最後、こっちが何をしていようと関係無いのは何度も経験している。

選挙中だろうと仕事中だろうと手術中だろうと、何をしでかすかわからない。

それで一番困るのは、候補や陣営に迷惑をかける懸念だ。


これは決して意地悪ではなく、小さい子供が所構わず泣き叫ぶのと同じく理性の問題。

相手が血を分けた我が子であれば、恥をかかせたくないので自制が働くが

他人である嫁なら、お構い無しのやりたい放題だ。

その点、今回は彼女の息子、つまり我が夫が参加しているため

多少はおとなしいのではないかと踏んでいる。



さて、日程が近づくと、ウグイスの相棒ナミさんと顔合わせだ。

その時、資生堂マキアージュのリップクリームをプレゼントした。

事前に送ってくれた煎餅のお返しだ。



もち吉の煎餅が3千円ぐらいだろうから、2千円ちょっとのリップクリームが妥当かと思った。

ナミさん、普段は百均のを使っているそうで、ものすごく喜んでくれた。

このリップクリームは同級生マミちゃんの店で用意したもので、私もずっと愛用している。

マスク時代、唇の管理は大事だ。

プレゼントだと言ったら、マミちゃんが気を利かせて可愛い袋に入れてくれていた。


さあ、いよいよ選挙が始まる。

さてさて、どうなりますことやら。

《続く》
コメント (4)
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