殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

骨博打

2020年07月19日 09時52分28秒 | みりこんぐらし
埋葬した骨のことが頻繁に出てくる記事ですので

怖がりのかたは、読むのを控えてくださいませ。





実家の墓じまいは、まだ継続している。

同級生の友人ユリちゃんの実家にある墓地に眠る五体の遺骨を

実家本来の菩提寺にできた納骨堂へ移す作業だ。


書類上の手続きは先月、どうにか済んで

市役所から移転の許可証が届いた。

で、許可証の次に必要なのは、太陽。

お墓の引越しは、晴れていなければできないのだ。


が、書類集めが難航するうちに、季節は巡って梅雨じゃんか。

しかも連日の大雨。

母も私も、それぞれ落ち着かない日々を過ごした。

母の方は、86才の自分がいつ、どうなるかわからないという理由で

1日も早く引越しを終えたいが、雨のために停滞して落ち着かない。

私の方は、そんな母からいつ出動命令が出るかわからないので

天気予報とにらめっこで落ち着かない。


気をもむ母に、「とりあえず、雨でもできることをしよう」と提案し

母は自分で決めていた町内の石材店に電話して

墓石を撤去してもらう予約を取ることになった。

提案した私は何もしない。


石材店に連絡した母は、ガックリした声で電話をしてきた。

「盆明けになるんだって…」

梅雨明けを待ったらお盆が近づき、墓参りの人が増えるため

工事がやりにくいというのが、石材店の老店主の主張。

一応の節目と定めたお盆までにケリをつけたかった母は

タイミングの悪さを嘆く。


「別の店に聞いてみる?

お盆までにやってくれる所があると思うよ?」

私はやんわりと水を向けてみた。

石材店なら何軒か知っている。

母が決めている店の店主は高齢で、やる気が無さそうだが

すぐやってくれる所が必ずあるはずだ。

ユリちゃんのご主人モクネン君も

「私がいつもお願いする石材店でよかったら、ご紹介しますよ」

と、母に言っていた。

が、母は町内の石材店にこだわる。

どうしても自分で決めたい様子なので、そっとしておいた。


数日後の17日、母から弾んだ声で電話があった。

「今度行く納骨堂の住職に相談したら

隣町の石材店を紹介してくれて、連絡したらすぐやると言ってくれた!」

お寺にはそれぞれ、タイアップしている石材店があるのだ。

納骨堂を買う最初の段階で、住職は母にそのことを言ったが

忘れているらしい。


決めた石材店の店主は、その日のうちに墓を見に来て見積もりを出すという。

そこで私も立ち会いとして母に呼ばれ、夫と一緒に墓地へ行ったら

店主と夫は知人だった。

母はこの偶然に驚いていたが、仕事上、何軒かの石材店とは懇意なので

我々にとっては珍しい現象ではない。

母が町内の石材店をあきらめたあかつきには、この人を紹介するつもりだった。


それより私が驚いたのは、お寺の境内にモクネン君が立っていたことだ。

この人、普段は遠くにある自分のお寺にいて

用のある時だけ、妻ユリちゃんの実家のお寺へ来る。

その日はちょうど、用のある日だったみたい。


モクネン君は墓地に来てくれた。

ちょうど石材店の店主が墓の構造を見るため

墓石を動かして骨壺を外へ出したところだったので

いっそこのまま納骨堂へ運ぼうかということになった。


遺骨が墓地を去る際は、墓地の住職の許可を得る必要がある。

法律で定められているわけではないが

アパートを出る時、大家さんに挨拶するようなもの。

大家だったモクネン君がそこに居るということは

引越しの挨拶がその場で済むということだ。

モクネン君の許可を得て、私が納骨堂へ電話をしたら

そっちでも受け入れOKの返事だったので

このまま引越すことにした。


墓から出した骨壺は、汚れて無残。

モクネン君の指導で、せっせと洗ったり拭いたりした。

虫の知らせというのはあるもので

私はこの時、5つの骨壺を運搬するのにピッタリの

プラスチック製のコンテナに、たくさんの雑巾と

白い新品のタオルを5枚詰めて、墓地へ持参していた。

難しいパズルがピシャリと合う瞬間があるように

難航していたことがピシャリと片付く瞬間はある。

特にあの世関係には、ある。


こうして見積もりの立ち会いだけのはずが

突然、遺骨の引越しになった。

石材店は帰り、我々は洗った骨壺を新しいタオルで包んでコンテナに入れ

見送るモクネン君と墓に別れを告げた。

ちなみに墓石の撤去費用は、25万円だそう。

この中には、撤去後の墓地を整地する費用も全て含まれている。

私はもうひとケタ高いと思っていたので、ちょっとびっくりした。


納骨堂は、同じ町内にある。

が、すぐに納骨はできない。

遺骨はたいてい水びたし。

数日、天日干しにして乾燥させたり、古い骨壺を新しいものに換えたりして

綺麗になければ、新居には入れない。

その作業は住職夫妻がしてくれるというので、ホッとした。

この作業が終わると、納骨式。

それでようやく、長引いた墓じまいは終了だ。

ブラボー!


が、安堵したのもつかの間

この時、私に重要な任務が回ってきた。

遺骨を干して新しい骨壺に納める際

どの骨が誰のものか、明確にしておきたいと住職は言う。


赤ちゃんの時に亡くなった叔母、京子ちゃんのは

小さい骨壺なのでわかるが、祖母、母、祖父、父のものは

はっきりしない。

骨壺に名前を書いてないので、どれが誰の骨やらわからないのだ。

その4人全員の死に立ち会っているのは、私だけ。

骨の主の決定は私にゆだねられた。

今どきは葬儀屋さんがネームプレートをくれるが

そうでない場合、骨壺には油性マジックで名前を書いておいた方がいい。

墓じまいだけでなく、災害で墓地が荒れた時に役立つことがある。


さて、骨を見極める作業に入った私だが

困った…わからん。

が、わからんでは済まされない雰囲気。

母は固唾を飲んで見守っているし

住職は、祖母と母の名前を書いたメモを手に

骨壺のフタをパカッと開けて待ち構えている。

ううっ…。


とはいえ、おおざっぱな推理は可能だ。

私が6才の時に亡くなった祖母と、11才の時に亡くなった母の骨壺は

祖父や父の白い壺と違ってデザインが古い。

漬物なんかを入れるベージュのカメの、小ぶりなやつみたいで

青い渦巻き模様が描いてある。

これが祖母と母のものだ。


じゃあ、どっちがどっちなんだということになるわいな。

祖母と母の死の間隔は5年、古さ加減では判断できんじゃないか。

プレッシャーを感じつつ、私は骨をのぞき込む。

片方は白くてバラバラ、片方は黒くてバラバラの骨だ。


思い返すと、癌で亡くなった母の骨は黒っぽかった。

薬をたくさん服用すると、焼いた骨は炭のように黒くなるのだ。

祖母は心臓が悪かったが、病院治療は受けていなかったからか

焼き上がった骨は白かった。

初めて人骨を見た小学1年の私は、骨より先に

まずその白さに震え上がったものだ。


「白い方が、お祖母ちゃんですっ!」

私はきっぱりと言った。

きっぱりと断言しなければ、いつまでも骨とにらめっこをする羽目になる。

長く見たって、あんまり気持ちのいいもんじゃない。

もう、ヤケじゃ!

博打でぃ!


次は、同じ白い骨壺の祖父と父。

片方は黒くてバラバラ、片方は白くてしっかりしている。

白い方は、丸く大きなひざ関節に見覚えがあった。

元気なまま、突然亡くなった父だということにする。

消去法により、バラバラが祖父ということになった。


骨の博打は終わり、我々は納骨堂をあとにした。

これが一番疲れた。
コメント (7)
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