河野常務の言動から
「ダイちゃんが社内で宗教勧誘をしているのを知っている」
その確信を得た我々。
だから常務は引退宣言をひっくり返して続投を決め
ダイちゃんの取締役就任は見送られたと考えて間違いない。
解雇に至らなかったのは、長年の功績に免じてのことだろう。
会社で宗教の勧誘をするのは、とても悪い行いである。
常識や道徳以前に、立派な労働法違反。
ダイちゃんは気軽に部下や後輩を勧誘しているつもりでも
彼には経理部長という地位があるため、対象は弱者ということになる。
パワハラで訴えられたら弱者への宗教の強要になり、まず勝ち目は無い。
近年、建設業から総合商社へ発展した本社は、外聞を非常に気にする。
特に事故や事件といった不可抗力でなく
人の意思や努力で防げるこのような事柄は、本社が最も恥とするところ。
腹心であるダイちゃんの秘密を知った、常務の心中を思うと少々胸が痛む。
一方のダイちゃんは、常務から注意を受けた模様。
先週、彼が来る予定の日に、常務も用事で来ることになったが
それを知ると、急きょ日程を前倒しにしたからだ。
以前なら2人は我が社で合流し、楽しそうにおしゃべりしていた。
しかし今回は違った。
日程の変更はさりげなく伝えられたが
なんぼ私がバカな事務員でも、月末月初の事務処理を前倒しにしたら
支障が出るのはわかる。
まだ回収してない伝票や、届いてない書類があるので
完全な集計ができないのだ。
この無理を押し通したことから
全力でブッキングを避けているのがはっきりわかった。
それにしても、宗教はたくさんあるのに
ダイちゃんの信仰するカルト宗教でひどい目に遭った人が
たまたま面接に来るとは何という偶然か。
我ら一家は大いに盛り上がり、口々に叫ぶのだった。
「神はいる!」
「正しい者が勝つ!」
「邪教は去れ!」
しかし、常務はなぜダイちゃんの秘密を知ったのだろう‥
これは疑問のままだったので、我ら一家は検証を始めた。
「何年もかけて、やっと噂が拡がった」
「ずっと前から知っていたけど、見て見ぬふりをしていた」
えらそうに検証といったって、この二つしか浮かばない。
「ひょっとして、松木かな‥?」
夫が、ふとつぶやいた。
5年前の合併当初、我が社の営業課長として河野常務が雇い入れた
「人材」ならぬ「人災」である。
営業に行けば顧客に嫌われて出入り禁止になり
受付の女の子をからかってセクハラと抗議され
たまに話を聞いてもらえる会社があれば
仕入れ値より安い取引を成立させて「取った!取った!」と有頂天。
この業界の掟を知らずに仕入れ先を天秤にかけ
「安い方に決めます」とほざいて
仁義なき戦いのテーマ音楽が流れそうになったことも
一度や二度ではない。
夫はそのたびに尻拭いをしてやった。
青くなって泣きついてきながら、問題が過ぎ去ると
松木氏は感謝するどころか
「自分ならもっとうまく解決できる」
とうそぶくのだった。
夫は松木氏に苦しみながらも、常務が入れた人間なので我慢していた。
やがて常務も松木氏の使えなさに気づき、別の支社に飛ばした。
そっちでも当然、松木被害者続出。
被害者の面々は夫に松木対処法をたずねたり、愚痴を聞いてもらうようになり
すっかり仲良くなって我が社へ出入りするようになった。
本社や他の支社からも、同じ目的で社員が来る。
松木被害者の会員同士は仲良くなり、お互いの仕事を助け合うようになった。
夫はその人たちを、友人の田辺氏に引きあわせる。
以前記事にしたが、同じ業界の他社に勤める営業マンだ。
任侠ムードの老舗で鍛えられ、兄貴分の失脚で退社した後は
転職した会社をみるみる大きくした伝説の男である。
面倒見のいい田辺氏は、その人たちに営業のポイントを
惜しげもなく伝授した。
本社の営業部が入れない大企業へどんどん連れて行って紹介したり
組んでやれる仕事であれば声をかけ、各自の成績にしてやった。
本社の営業部とは別に、なぜか他社の田辺氏をトップにした
闇の営業部ができあがっているのが面白いところだ。
皆、とても喜んでいるが、一番嬉しいのは田辺氏が週に一度
「どうしてる?困ってることは無い?」
と、必ず電話をくれることだそう。
さて松木氏に戻るが、近くにいる時は犬猿の仲でも
離れるとそうでもなくなるようで
親しく‥とまではいかないものの、松木氏と夫は
会えば大人の会話をかわすようになった。
昨年の末頃、久しぶりに会社を訪れた松木氏と話し
たまたまダイちゃんの話になったので、夫は彼の宗教に触れたという。
「いい人だけど、宗教に入れようとするのが困る‥」
てっきり彼も知っていると思っていたら
全く知らず、驚いていたそうだ。
「あいつはダイちゃんと仲が悪いけん、常務に告げ口したかも‥」
夫はしれっと言う。
「ちょっと〜!そんな大事なことを何で今まで黙っとるんよ!
この話で盛り上がれたというのに!」
私は厳重に抗議したが、夫はまたもやしれっと言う。
「忘れとった」
気をとりなおして、私はたずねる。
「このことは誰にも言うなって、松木さんに口止めした?」
「言うた‥絶対に黙っといてくれって言うた」
「じゃあ間違いないわ、常務に伝わっとるわ」
「松木が犯人じゃ!」
「何言いよん、犯人はあんたよ!」
どうも、これがてん末らしい。
「ダイちゃんが社内で宗教勧誘をしているのを知っている」
その確信を得た我々。
だから常務は引退宣言をひっくり返して続投を決め
ダイちゃんの取締役就任は見送られたと考えて間違いない。
解雇に至らなかったのは、長年の功績に免じてのことだろう。
会社で宗教の勧誘をするのは、とても悪い行いである。
常識や道徳以前に、立派な労働法違反。
ダイちゃんは気軽に部下や後輩を勧誘しているつもりでも
彼には経理部長という地位があるため、対象は弱者ということになる。
パワハラで訴えられたら弱者への宗教の強要になり、まず勝ち目は無い。
近年、建設業から総合商社へ発展した本社は、外聞を非常に気にする。
特に事故や事件といった不可抗力でなく
人の意思や努力で防げるこのような事柄は、本社が最も恥とするところ。
腹心であるダイちゃんの秘密を知った、常務の心中を思うと少々胸が痛む。
一方のダイちゃんは、常務から注意を受けた模様。
先週、彼が来る予定の日に、常務も用事で来ることになったが
それを知ると、急きょ日程を前倒しにしたからだ。
以前なら2人は我が社で合流し、楽しそうにおしゃべりしていた。
しかし今回は違った。
日程の変更はさりげなく伝えられたが
なんぼ私がバカな事務員でも、月末月初の事務処理を前倒しにしたら
支障が出るのはわかる。
まだ回収してない伝票や、届いてない書類があるので
完全な集計ができないのだ。
この無理を押し通したことから
全力でブッキングを避けているのがはっきりわかった。
それにしても、宗教はたくさんあるのに
ダイちゃんの信仰するカルト宗教でひどい目に遭った人が
たまたま面接に来るとは何という偶然か。
我ら一家は大いに盛り上がり、口々に叫ぶのだった。
「神はいる!」
「正しい者が勝つ!」
「邪教は去れ!」
しかし、常務はなぜダイちゃんの秘密を知ったのだろう‥
これは疑問のままだったので、我ら一家は検証を始めた。
「何年もかけて、やっと噂が拡がった」
「ずっと前から知っていたけど、見て見ぬふりをしていた」
えらそうに検証といったって、この二つしか浮かばない。
「ひょっとして、松木かな‥?」
夫が、ふとつぶやいた。
5年前の合併当初、我が社の営業課長として河野常務が雇い入れた
「人材」ならぬ「人災」である。
営業に行けば顧客に嫌われて出入り禁止になり
受付の女の子をからかってセクハラと抗議され
たまに話を聞いてもらえる会社があれば
仕入れ値より安い取引を成立させて「取った!取った!」と有頂天。
この業界の掟を知らずに仕入れ先を天秤にかけ
「安い方に決めます」とほざいて
仁義なき戦いのテーマ音楽が流れそうになったことも
一度や二度ではない。
夫はそのたびに尻拭いをしてやった。
青くなって泣きついてきながら、問題が過ぎ去ると
松木氏は感謝するどころか
「自分ならもっとうまく解決できる」
とうそぶくのだった。
夫は松木氏に苦しみながらも、常務が入れた人間なので我慢していた。
やがて常務も松木氏の使えなさに気づき、別の支社に飛ばした。
そっちでも当然、松木被害者続出。
被害者の面々は夫に松木対処法をたずねたり、愚痴を聞いてもらうようになり
すっかり仲良くなって我が社へ出入りするようになった。
本社や他の支社からも、同じ目的で社員が来る。
松木被害者の会員同士は仲良くなり、お互いの仕事を助け合うようになった。
夫はその人たちを、友人の田辺氏に引きあわせる。
以前記事にしたが、同じ業界の他社に勤める営業マンだ。
任侠ムードの老舗で鍛えられ、兄貴分の失脚で退社した後は
転職した会社をみるみる大きくした伝説の男である。
面倒見のいい田辺氏は、その人たちに営業のポイントを
惜しげもなく伝授した。
本社の営業部が入れない大企業へどんどん連れて行って紹介したり
組んでやれる仕事であれば声をかけ、各自の成績にしてやった。
本社の営業部とは別に、なぜか他社の田辺氏をトップにした
闇の営業部ができあがっているのが面白いところだ。
皆、とても喜んでいるが、一番嬉しいのは田辺氏が週に一度
「どうしてる?困ってることは無い?」
と、必ず電話をくれることだそう。
さて松木氏に戻るが、近くにいる時は犬猿の仲でも
離れるとそうでもなくなるようで
親しく‥とまではいかないものの、松木氏と夫は
会えば大人の会話をかわすようになった。
昨年の末頃、久しぶりに会社を訪れた松木氏と話し
たまたまダイちゃんの話になったので、夫は彼の宗教に触れたという。
「いい人だけど、宗教に入れようとするのが困る‥」
てっきり彼も知っていると思っていたら
全く知らず、驚いていたそうだ。
「あいつはダイちゃんと仲が悪いけん、常務に告げ口したかも‥」
夫はしれっと言う。
「ちょっと〜!そんな大事なことを何で今まで黙っとるんよ!
この話で盛り上がれたというのに!」
私は厳重に抗議したが、夫はまたもやしれっと言う。
「忘れとった」
気をとりなおして、私はたずねる。
「このことは誰にも言うなって、松木さんに口止めした?」
「言うた‥絶対に黙っといてくれって言うた」
「じゃあ間違いないわ、常務に伝わっとるわ」
「松木が犯人じゃ!」
「何言いよん、犯人はあんたよ!」
どうも、これがてん末らしい。