殿は今夜もご乱心

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野良猫問題

2016年05月04日 09時30分19秒 | みりこんぐらし
「注意一秒、怪我一生」

姪から結婚式の招待状が届いた時

我々家族はそううなづき合ったものだ。


姪は、あわて者でも乱暴者でもなく

身体機能にも問題はない。

明るくておしゃれな、かわいい女の子だ。

道端の野良猫を見て涙を浮かべる

優しい心の持ち主でもある。

が、重篤なドジ。


最初にそれを知ったのは

5才の時に連れて行ったボウリングだ。

彼女の投げたボールが飛び跳ね

隣のレーンのピンを倒した。


隣の人とボウリング場の人に謝る私を横目に

テヘペロの姪、泰然と微笑む妹。

ボールの描いたあらぬ角度の跳躍と共に

この光景は、衝撃として残った。


以来、たびたび似たような場面に出くわすが

幼稚園教諭の妹には確固たる教育方針があり

娘の所業をドジに分類しない。

だから姪は、自分がドジだとは夢にも思わずに

伸び伸びと育った。

その姪が看護師になったと聞いて

我々はふるえ上がったものだ。


姪と一番最近会ったのは、3年前。

彼女の兄の結婚式である。

その頃、彼女は大学生で、遠くに住んでいたため

何年も会っていなかった。

大人っぽくなっているのに驚いた私は

明らかに油断していた。


披露宴でお酌をして回る母親の後ろにくっついて

中身の入ったビール瓶の首を

指で2本ずつ挟み、高々と持ち歩く姪。

途中で補充しなくていいように‥

母親思いの彼女らしい心遣いである。

しかし、仲居の経験がある私は悪い予感がした。


合計4本のビールを指に挟んで歩き回るのは

やはり無謀だった。

やがて4本のうち1本が、ストンと抜け落ちる。


人の胸の高さから、縦に落下したビールが

どんな運命を辿るかはお察しの通りだ。

瓶は粉々に砕けて飛び散り、中身は勢いよく大放出。

文字通りの大惨事である。


それを何で、私の席でやるか。

たまたま顔を別の方向に向けていたので

ビールのしぶきが散っただけで済んだが

妹達の方を向いていたら、絶対ケガ人になっていた。

姪はいつものようにテヘペロ。

妹も平然と、私の所で良かったという口ぶりである。

道端の野良猫より、私の方がよっぽどかわいそうだ。


こんな姪なので、油断は禁物。

結婚式の出席にあたり

気をつけるに越したことはない‥

と思っていたら、実家の母だけ招待状が届かない。

姪のドジは、依然として健在だったのか。


挙式まで1ヶ月を切ったので

思い余った母が妹に問い合わせたところ

「兄弟や祖父母などの近親者には

招待状を出さなくていいと

式場の人に言われたから出してない」

という返事だった。


兄の結婚の時は届いた前例があるため

釈然としなかったが、苦情を言って水を差すのは

はばかられる。

姪の嫁ぎ先は県外なので

あちらの習慣なのかもしれないと

無理矢理思うことにした我々であった。


このような心境で迎えた当日が、心浮き立つはずはない。

「式場の人が死ね言うたら死ぬんか」

などと毒づく夫や息子達と、時間も場所も

我々からの又聞きでしか知らない母を連れ

3時間かけて現地に乗り込んだ一行。


「出足がこれだから、絶対何かしでかす‥」

と思っていたが、その心配は杞憂に終わる。

何しろ姪は花嫁、やることは着替えぐらいで

ボールを投げたりビールを運ばないから安全だ。


その代わりに、過去最高のドジを見たような気がする。

すでにお話ししたが、お婿さんが

妹の別れた亭主、シュンにそっくりだった。


しかもこの婿、27才にしてヤンキーときた。

結婚衣装を着ても複数のピアスをはずさないあたり

ヤンキーの証明である。

姪は道端の野良猫に

涙を浮かべるだけでは物足りず

拾っちゃった模様。


その件に動揺したためか、結婚式も披露宴も

何かしらける。

何かおかしい。


かわいい姪の幸せを手放しで喜べない私は

そこまで冷酷な人間だったのか‥

首をひねっていたところ

父親譲りの人たらしの術で

式場の中年カメラマンと親しくなった次男が

そのカメラマンから解答を引き出した。


「長いことやっているが、こんな結婚式は初めて」

彼は断言したそうだ。

客層が悪く、ダラダラして締まりが無いので

いい写真が撮れないという。

友達の割合が多過ぎるらしい。


それもそのはず、席次表を見ると

親族以外はほとんど新郎新婦の友人。

あとは先輩と同僚が少々で、主賓や上司はいない。

呼びたい人だけ呼んだらしい。


新郎がヤンキーなので、友達もみんなヤンキーだ。

頭を片方だけ剃り上げたのや

ゲゲゲの鬼太郎みたいなのばっかり。

そいつらが群れてやりたい放題なので

そりゃダラダラして締まりはない。


女の子がみんな同じ服装なのも

カメラマン泣かせらしい。

そう聞いてよく見ると、新婦の友人に着物やドレスは皆無。

1人だけベージュがいたが、あとの何十人かは全員

紺のワンピースに白いボレロのしまむらモード。

もはや制服だ。


さらに全員が編み込みの髪に

模造真珠を5、6粒、一列に並べた髪飾り。

新郎の妹も同じ格好なので、どれが誰だかわらない。

おまけに新婦のお色直しも紺のドレス。

そりゃカメラマンとしては泣きたかろう。


新郎の両親は、我々と同年代の気さくな印象だった。

しかしカメラマンにとって、旦那がモーニング

女房が普通のスーツなのは前代未聞だそうで

「撮りようがないけど撮るしかない」

と嘆いていたという。


その悪い客層の中に、自分達も入っているのを忘れ

珍しい話に喜ぶ我々。

ともあれこの高揚感の無さは

冷酷が原因ではないと判明し、ホッとする私だった。

「リサ(姪の名前)の次の結婚式は、わしゃパスする」

まだ披露宴の最中だというのに、気の早い夫の弁である。
コメント (10)
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