殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

イ・サン

2011年06月07日 12時40分58秒 | みりこんぐらし
夫はこのところ『イ・サン』というドラマにハマッている。

毎週日曜日の夜遅くに放送している韓国の時代劇である。

私は韓流はあんまり好きじゃないけど

昔の髪型や衣装が好きなので、時代劇は見る。


日曜日の夕方になると、夫はソワソワし始める。

大好きな『サザエさん』『イッテQ』を前座に

もっと大好きな『仁』があり、最高に大好きな『イ・サン』がトリを務める。


『イ・サン』は、逆境で頑張りながら王様を目指す王子様の話。

最初は、子役があんまりうまくて可愛らしいので見ていた。

だがある晩、イ・サン少年は、突然大人になった。

途端に興味を失い、後は豪華絢爛だけが頼みの綱となった私であるが

夫は、いっそう夢中になった。


このドラマには、悪~い叔母ちゃんが出てくる。

若く、華やかな美貌の持ち主であるが

甥のイ・サンを王位継承者から失脚させようと、あの手この手で悪さをするのだ。

根性の腐った叔母ちゃんに陥れられるたび

夫は「頑張れ…」とイ・サン青年を応援する。

夫には、弟をしいたげるお姉ちゃん…カンジワ・ルイーゼがいる。

身につまさるのだろう。


ルイーゼとは、しばらく会ってない。

どこか別の所で、週の半分くらい、3時間ほどのアルバイトをしているらしい。

「頼まれて、しかたなくよ」

義母ヨシコは言うが、わざわざルイーゼを雇いたがる会社が

この世にあるとは思えない。

その物好きは一体誰なのか、我々は興味津々だが

両親の口はいつになく固く、いまだに不明である。

言わないということは、自慢が困難な仕事なのだろう。

ルイーゼの旦那は銀行を定年退職し、今は病院の精算窓口に出向中で

その関係と思われる。

すでに3ヶ月、この状態である。


なぜ3ヶ月前からこうなのか。

実は3ヶ月前、長男が会社に戻った。

ある日、気がついたらそうなっていた。


長男は3年ほど前、ルイーゼとの喧嘩が発端で転職したが

それ以来、なんの因果か社員が定着しなかった。

困った夫と次男は結託し、ひそかに長男を説得して呼び戻していたのだ。

その数日後に起きた震災の影響で、長男の勤めていた工場は

中途就職者の大がかりなリストラが始まったという。

結局、長男は退職することになっただろう。


兄弟に同じ仕事をさせたくない私だが

通勤所要時間1時間と5分の差は、主婦には大きかった。

なにしろ楽なもんで、とりあえず今はそういう時期なのだ…と思うことにする。


その途端、ルイーゼのアルバイトが始まった。

親が弱ってからも、毎日実家へ帰り続けると

家事や送迎など、余計な労働が待っている。

長男の帰還に、潮時を感じたと思って相違ない。

さすがルイーゼ、逃げ方が鮮やかだ。


会社の仕事もあまりしなくなった。

給料計算や支払いなど、金に関わることは相変わらず離さないが

請求書や各方面への提出書類などの面倒臭いことは

「少しは自分でやったら?」と夫に丸投げする。


ろくに口をきかない姉弟なので、説明は無い。

夫が間違えると、大喜びで父親に言いつける。

これに燃えた義父アツシが、執拗に小言を言う。

夫は、こういうところでイ・サンに共感するようだ。


彼も近頃は知恵がつき、ルイーゼに仕事を押しつけられると

私に協力を求める。

急に言われたって、私にもわからない。

夫のサポートめいたことはしてきたつもりだが

帳面のほうは滅多にやらなかった。


ガテンって、どの品物を何個売るという仕事じゃないし

未知の書類もあるので、OL時代の経験があんまり通用しない。

わからんちん同士、ああでもないこうでもないと言いながらの共同作業。

30年間握っておいて、急に渡されたって

目も脳みそも、ついて行けやしない。


そのうち私にも知恵がつき、取引先や提出先に行って

直接教えてもらうようになった。

足を運んで「教えてください」と頭を下げれば、皆親切だ。

この業界、どこも暇なのだ。

そのまま仕上げてくれる所もある。

お茶やお菓子も出る。


しかしその日々は、夫のか弱い胃袋にこたえたようで、病院行きとなった。

どうでもいいところでは大胆でふてぶてしく、肝心なところで気弱なのは

昔から変わらない。

幸いたいしたことはなく、胃酸が多いそうだ。


私は悪い叔母ちゃんを真似て言う。

    「よかったではないか。そなたの大好きなイ・サンであろう」

「フン」

    「ウケると思ったスミダ!」

「ちっとも面白くないスミダ!」

    「残念スミダ!」
コメント (78)
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