同級生のK…彼のことは、以前書いた。
中学の時に転校して行った、大変ないじめっ子である。
もし詳しくお知りになりたい方がいらしたら
カテゴリー“異星人”を見てちょ。
行方不明のままで良かったものを
25年の歳月を経て、同窓会の幹事が彼を捜し出してしまった。
以来、同窓会に入って名簿を入手した彼は、うちへ電話をしてくるようになり
暗に男女をほのめかすような態度をとり始めた。
あのツルツル頭の中で、私は、ヤツに恋する人妻になっているのだ。
三つ子の魂百まで…若ハゲの乱暴者が
国を護(まも)る某機関という閉ざされた環境の中で
おのれを振り返ることもなく、生きてしまった。
しかも単身赴任中…もう誰にも止められない。
しばらく連絡が無かったが、今月になって、また電話がかかり始めた。
「25日に墓参りで帰省することにしたから、連絡をくれ」
と、留守電に何回もダミ声で入っている。
メールも来る、郵便も来る。
無視。
そんなある日、同級生のチエちゃんから電話があった。
チエちゃんは、我が同級生のマドンナ的存在。
お寺に生まれ、お寺に嫁ぐように躾けられ、お寺に嫁いだ。
子供の頃から、なんだか悟ってる美女である。
「K君が、みりこんちゃんと連絡が取れないって
なんかワケありみたいな言い方してたよ」
ギャー!やられた!…これが嫌だったのだ。
「ヤツ、日本語、通じないんだよ…」
「わかるよ…」
刺激したんだろう…などと、非難めいて言われるかと思ったが
チエちゃんは意外にもそう言った。
「実は私も、時々K君から電話やメールがあるのよ」
「ええ~?!」
「あの人、どんどん勘違いしていくの…危ない性格だわ。
社交辞令を素通りできない人っているけど、彼の場合はもう、病気ね」
そうであった…美しく生まれた女は、それだけで人生ご優待である。
反面その美貌ゆえに、男の勘違いや迷惑を山ほど越えているので
症状の比較ができる。
転居を知らせるハガキに
“お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください”
と印刷してあったとしたら、Kは、本当に立ち寄るようなヤツなのだ。
同じ思いの人間がいた…私は心から嬉しかった。
「K君、よっちゃんにも電話してるみたいよ。
モテて困るみたいなこと言ってて、気持ち悪かったわ。
彼女も嫌な思いをしてると思う」
よっちゃんも、かわいいモテ子だった。
Kめ…自分の容貌は棚に上げて
相手をきっちり選んでいるのが憎々しいではないか。
多くの男がそうであるように、Kも、ええとこ育ちの美人が好みなのだ。
本来はこういうのと、どうにかなりたい。
しかし、チエちゃんもよっちゃんも地元在住者ではない。
赴任先の関東から、自宅の九州へ帰省する途中
年に1度は、生まれ故郷へ墓参りに寄るK。
その際に何かと便利な、地元在住の露払いを所望しているのだ。
男子に連絡すればいいものを、女子に行くのがヤツなのだ。
男子が快く歓迎してくれる自信が無いのだと思う。
ブラブラして暇そうな地元女子は、私だけ…ザコで妥協というわけである。
Kは、年々執拗になってきている。
適当なウソで逃げるのは、もうやめだ。
次にKからかかってきた電話に、私は出た。
「何べん電話しても、おりゃせん…何しとったんじゃ」
偉そうに言いやがる。
「オレが帰る日の予定を立てといてくれ」
「何が予定じゃ」
「25日、空けとけ言うんじゃ…予定ぐらい立てられようが」
「年末のクソ忙しい時に、何であんたのモリをせんとならんのじゃ!」
「そんなこと言うなよ…久しぶりに会えるんじゃん」
「やかましい!人に迷惑かけるな!」
「とにかく、予定を立てといてくれや」
…ハゲの耳に念仏。
ヤツの“予定”の意味は、わかっている。
足に使ったあげく、うちへタダで泊めて欲しいのだ。
はっきり言わないところが、憎たらしい。
はっきり言われても、憎たらしいが。
もちろん、そんなバカなことはしない。
しかし今回は、我が家を探してでも来る予感というか、確信があった。
やっぱり病気なんだと思うことにする。
嫌なヤツと歯ぎしりするより、病気と思えば気が楽だ。
予定、予定と言うんだから、予定を立ててやろうじゃないの。
卑怯な私は、先日お好み焼きのイベントを手伝った千賀子に連絡した。
幸運なことに千賀子の店は、Kの親戚や墓のすぐ近所なのだ。
25日は彼女の民宿に泊まる“予定”を立ててやり
とにかくうちへ来るのだけは、回避するつもり。
千賀子はイベントから3日後、交通事故に遭ったが
25日なら、なんとか復帰できそうだと言う。
お布施が効いたのか
「帰省の度に、うちで飲ませて泊まらせる習慣にすれば、お互いにいいでしょ」
と言うから、頼もしいではないか。
千賀子へのお礼の気持ちで、いっそ人数を集めてみようかという気になる。
千賀子と私だけより、人数がいたほうが心強いのも、もちろんあった。
なにしろ相手は病人なんだから
ケガ人の千賀子と、Kの使用人に堕ちた私だけでは、心もとないではないか。
モトジメと呼ばれる同窓会のリーダーに電話して、事情を説明し
メールの一斉送信を使わせてほしいと頼んでみる。
これで何人かは応じてくれるはずだ。
「おまえ、帰っておいで~とか、適当なこと言ったんじゃろが」
「口が裂けても言うもんか…チエちゃんも、困っとるんじゃ」
姑息な私は、マドンナ・チエの名を出した。
「チエちゃんが?」
「よっちゃんもじゃ」
「よっちゃんも?…いかんなあ…よっしゃ!あいつに言うたるわい」
ということで、急遽「K様歓迎の夕べ」が開催される運びとなる。
モトジメの呼びかけで、男子4人が参加してくれることになった。
Kに会いたい者はいない。
心優しい有志達は、チエちゃんとよっちゃんを守るために、万障繰り合わせたのだ。
これでもうひとつ“予定”が立った。
男子が4人も集まれば、もう上等であろう。
ヤツのために、女子まで集めてサービスしてやらんでもいい。
新たな犠牲者が出てもいけないので、女子には連絡しなかった。
千賀子と私、それに嫌がるモンちゃんを拉致して、問題の25日を迎えた。
続く
中学の時に転校して行った、大変ないじめっ子である。
もし詳しくお知りになりたい方がいらしたら
カテゴリー“異星人”を見てちょ。
行方不明のままで良かったものを
25年の歳月を経て、同窓会の幹事が彼を捜し出してしまった。
以来、同窓会に入って名簿を入手した彼は、うちへ電話をしてくるようになり
暗に男女をほのめかすような態度をとり始めた。
あのツルツル頭の中で、私は、ヤツに恋する人妻になっているのだ。
三つ子の魂百まで…若ハゲの乱暴者が
国を護(まも)る某機関という閉ざされた環境の中で
おのれを振り返ることもなく、生きてしまった。
しかも単身赴任中…もう誰にも止められない。
しばらく連絡が無かったが、今月になって、また電話がかかり始めた。
「25日に墓参りで帰省することにしたから、連絡をくれ」
と、留守電に何回もダミ声で入っている。
メールも来る、郵便も来る。
無視。
そんなある日、同級生のチエちゃんから電話があった。
チエちゃんは、我が同級生のマドンナ的存在。
お寺に生まれ、お寺に嫁ぐように躾けられ、お寺に嫁いだ。
子供の頃から、なんだか悟ってる美女である。
「K君が、みりこんちゃんと連絡が取れないって
なんかワケありみたいな言い方してたよ」
ギャー!やられた!…これが嫌だったのだ。
「ヤツ、日本語、通じないんだよ…」
「わかるよ…」
刺激したんだろう…などと、非難めいて言われるかと思ったが
チエちゃんは意外にもそう言った。
「実は私も、時々K君から電話やメールがあるのよ」
「ええ~?!」
「あの人、どんどん勘違いしていくの…危ない性格だわ。
社交辞令を素通りできない人っているけど、彼の場合はもう、病気ね」
そうであった…美しく生まれた女は、それだけで人生ご優待である。
反面その美貌ゆえに、男の勘違いや迷惑を山ほど越えているので
症状の比較ができる。
転居を知らせるハガキに
“お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください”
と印刷してあったとしたら、Kは、本当に立ち寄るようなヤツなのだ。
同じ思いの人間がいた…私は心から嬉しかった。
「K君、よっちゃんにも電話してるみたいよ。
モテて困るみたいなこと言ってて、気持ち悪かったわ。
彼女も嫌な思いをしてると思う」
よっちゃんも、かわいいモテ子だった。
Kめ…自分の容貌は棚に上げて
相手をきっちり選んでいるのが憎々しいではないか。
多くの男がそうであるように、Kも、ええとこ育ちの美人が好みなのだ。
本来はこういうのと、どうにかなりたい。
しかし、チエちゃんもよっちゃんも地元在住者ではない。
赴任先の関東から、自宅の九州へ帰省する途中
年に1度は、生まれ故郷へ墓参りに寄るK。
その際に何かと便利な、地元在住の露払いを所望しているのだ。
男子に連絡すればいいものを、女子に行くのがヤツなのだ。
男子が快く歓迎してくれる自信が無いのだと思う。
ブラブラして暇そうな地元女子は、私だけ…ザコで妥協というわけである。
Kは、年々執拗になってきている。
適当なウソで逃げるのは、もうやめだ。
次にKからかかってきた電話に、私は出た。
「何べん電話しても、おりゃせん…何しとったんじゃ」
偉そうに言いやがる。
「オレが帰る日の予定を立てといてくれ」
「何が予定じゃ」
「25日、空けとけ言うんじゃ…予定ぐらい立てられようが」
「年末のクソ忙しい時に、何であんたのモリをせんとならんのじゃ!」
「そんなこと言うなよ…久しぶりに会えるんじゃん」
「やかましい!人に迷惑かけるな!」
「とにかく、予定を立てといてくれや」
…ハゲの耳に念仏。
ヤツの“予定”の意味は、わかっている。
足に使ったあげく、うちへタダで泊めて欲しいのだ。
はっきり言わないところが、憎たらしい。
はっきり言われても、憎たらしいが。
もちろん、そんなバカなことはしない。
しかし今回は、我が家を探してでも来る予感というか、確信があった。
やっぱり病気なんだと思うことにする。
嫌なヤツと歯ぎしりするより、病気と思えば気が楽だ。
予定、予定と言うんだから、予定を立ててやろうじゃないの。
卑怯な私は、先日お好み焼きのイベントを手伝った千賀子に連絡した。
幸運なことに千賀子の店は、Kの親戚や墓のすぐ近所なのだ。
25日は彼女の民宿に泊まる“予定”を立ててやり
とにかくうちへ来るのだけは、回避するつもり。
千賀子はイベントから3日後、交通事故に遭ったが
25日なら、なんとか復帰できそうだと言う。
お布施が効いたのか
「帰省の度に、うちで飲ませて泊まらせる習慣にすれば、お互いにいいでしょ」
と言うから、頼もしいではないか。
千賀子へのお礼の気持ちで、いっそ人数を集めてみようかという気になる。
千賀子と私だけより、人数がいたほうが心強いのも、もちろんあった。
なにしろ相手は病人なんだから
ケガ人の千賀子と、Kの使用人に堕ちた私だけでは、心もとないではないか。
モトジメと呼ばれる同窓会のリーダーに電話して、事情を説明し
メールの一斉送信を使わせてほしいと頼んでみる。
これで何人かは応じてくれるはずだ。
「おまえ、帰っておいで~とか、適当なこと言ったんじゃろが」
「口が裂けても言うもんか…チエちゃんも、困っとるんじゃ」
姑息な私は、マドンナ・チエの名を出した。
「チエちゃんが?」
「よっちゃんもじゃ」
「よっちゃんも?…いかんなあ…よっしゃ!あいつに言うたるわい」
ということで、急遽「K様歓迎の夕べ」が開催される運びとなる。
モトジメの呼びかけで、男子4人が参加してくれることになった。
Kに会いたい者はいない。
心優しい有志達は、チエちゃんとよっちゃんを守るために、万障繰り合わせたのだ。
これでもうひとつ“予定”が立った。
男子が4人も集まれば、もう上等であろう。
ヤツのために、女子まで集めてサービスしてやらんでもいい。
新たな犠牲者が出てもいけないので、女子には連絡しなかった。
千賀子と私、それに嫌がるモンちゃんを拉致して、問題の25日を迎えた。
続く