電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

新型コロナウィルスの変異と強毒化のメカニズムなど

2021年04月29日 06時01分50秒 | 健康
このところ、再び新型コロナウィルス禍が悪化しているように感じます。特に大阪の感染状況は、かなりひどいようです。これは、なにも大阪の人たちが無思慮で無防備なためではなく、感染力の強い変異株が主流となり、いわゆる強毒化が起こっているためなのでしょう。その背景は、以前読んだ『感染症の時代』(*1)にあったように、大都市の人口密度の高さと人々の移動接触機会の多さによるものと考えられます。

では、新型コロナウィルスの変異はなぜ起こるのか。これは、RNAウィルスである新型コロナウィルスがヒトなどの細胞に感染すると、ウィルスのRNAが自身を複製させるとともに4種のタンパク質を合成するように指示するmRNAとして働きます。その結果、新型コロナウィルスが増殖して外に飛び出し、他を感染させるようになる、という仕組みでしょう。



変異が起こるのは、RNA自身を複製する際に、複製ミスが起こってしまうためだそうです。アビガンやレムデシビルなどは、このRNA複製酵素であるRNAポリメラーゼの阻害剤ですので、RNAの複製自体を停めてしまう働きを持ち、変異株が生じないという特徴がありますが、残念ながら感染が明らかにならないと治療には至らないため、変異株の発生を抑えることはできません。



感染が拡大し流行するうちに、どうしても生じてしまう変異株は、強毒化する場合もあれば弱毒化する場合もあるわけですが、人口密度が小さい地域では強毒株は他に感染させる前に宿主が死亡し途絶えてしまうため、広がりません。一方で弱毒株は宿主が死亡せず歩き回るために、他に感染させることを通じてウィルス自身も残ることができます。

ところが、人口密度が大きな地域や集団、すなわち大都市や軍隊等では、強毒化した変異株が短時間のうちに他に感染することができますので、死亡率が高くても優勢になることができ、その結果パンデミックが広がりやすい、ということなのでしょう。これまでも、天然痘やスペイン風邪などの感染症の流行は、大都市や軍隊など、密集した人間集団の中で強毒化した結果、広がってきたことがわかっています。どこか奥地の風土病にすぎなかった病気が文明国の大都市に持ち込まれたことで凶悪化し、恐怖の感染症として騒動になるという事態は、これまでの歴史上の出来事と共通なのかもしれません。



若い頃、ある看護婦のタマゴさんが、勉強した中で一番印象的だった言葉として「医学が病気を治すのではない、患者本人の治癒力を助けることで、病気から回復するのだ」というある先生の言葉を挙げていたことを、たいへん印象的に記憶しています。おそらく、私たちが免疫を持たない新型コロナウィルスに感染したら、考えられる治療としては、

  1. RNAポリメラーゼ阻害剤を投与し、ウィルスの増殖をストップさせる。(アビガン、レムデシビルなど)
  2. すでに増殖しているウィルスが引き起こす炎症を抑えるために、ステロイド剤を投与する。(喘息の治療と共通)
  3. 血栓を生じ急に悪化することを防ぐために、抗血栓薬を投与する。

などの対応をするのかと思いますが、いずれにしても細菌感染に対する抗生物質のような効果はなく、ひたすら急激な悪化を防ぎ自然に治癒するのを待つ、ということのようです。医療の崩壊が懸念される昨今、医療への負担を避ける意味でも、やはり予防に勝る治療はない、ワクチンの接種と共に感染しないように生活することが最も重要、ということなのでしょう。

(*1):井上栄『感染症の時代』を読む〜その(1)〜「電網郊外散歩道」2020年5月

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