電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

中岡哲郎『近代技術の日本的展開~蘭癖大名から豊田喜一郎まで』を読む

2014年06月10日 06時02分34秒 | -ノンフィクション
朝日選書で、中岡哲郎著『近代技術の日本的展開~蘭癖大名から豊田喜一郎まで』を読みました。本書の帯には、「日本はなぜ戦争に負けたか、廃墟からの高度成長はなぜ可能であったか------技術史の角度から考える」とありますが、これはあまり上等な要約ではないようです。むしろ、本書の裏表紙に記された内容紹介:

東から西へ、世界でものと人の移動に伴い繰り返された文明の移転は、18世紀、イギリスで産業革命に結実し、機械で商品を生産販売する時代を生んだ。同じころ鎖国下の日本では、西からの珍品貴宝を求める蘭癖大名らが技能者を巻き込み、反射望遠鏡、時計、大砲などが製品化されるほどに各地でネットワークを築いていた。開国後、殖産興業のスローガンの下、日本の技術者や在来職人は、外来技術と在来技術をうまく組み合わせて、製糸業、紡績業、軽工業、機械工業、製鉄、鉄道などの分野で独自の発展を生む。この間日本は、日清、日露、第一次世界大戦を経験し、勝つたびに領土拡張するも、最後の第二次世界大戦に大敗しすべてを失う。しかし10年後には高度経済成長が始まる。それはなぜか?技術の角度から考える。

という文章が、最もよくその内容を要約していると感じました。

歴史と技術に関心を持つ理系人間として、たいへん興味深く読みました。断片的ではありますが、本書を読み、あらためて認識したことをいくつか挙げてみると、
(1) 高炉製鉄の技術が鋳鉄砲と砲弾とを可能にし、スペイン・ポルトガルの無敵艦隊を粉砕した
(2) 造船業と製鉄のための木炭を供給するには森林が不足したために、石炭に着目することとなり、石炭を乾留して生じるコークスを用いる製法が試みられた
(3) コークスによる製鉄法では、硫黄や燐分を除去するために、高温操業をしなければならず、それには強力な炉内送風を必要としたが、水車動力では限界があった
(4) 水車よりも強力な動力として蒸気機関が出現して初めて、コークスによる銑鉄が木炭による銑鉄を品質面で上回ることができた。
などがあります。鉄と石炭。イギリス産業革命のポイントの一つとして、これまでこの組み合わせを自明のものとして考えてきましたが、はじめてその理由をはっきりと認識することができました。
本書は、同氏の前著『近代技術の日本的形成』(朝日選書)に続く著書であるらしい。さっそく『形成』の方を探してみましょう。
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