イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「神様からひと言」読了

2021年10月13日 | 2021読書
荻原浩 「神様からひと言」読了

この本は、いつも僕のブログにコメントを寄せてくれるwarotekanaさんから面白いですよと教えてもらった本だ。
いわゆるサラリーマンもので会社の片隅に追いやられたはみだし社員が一発逆転で会社の不正を暴くというごくよくある小説なのだが、その舞台がとある中堅食品メーカーのお客様相談室というところが気に入った。Warotekanaさんは僕と同じ業界で長く働いていて、クレーム対応というのがけっこう骨の折れる仕事だということをよく知っている。『コールが鳴るたびに心臓が肋骨の奥でバウンドした。』というのはまことに実感がこもっている。僕もさんざんそういったことに悩まされてきた。だからきっとこの本を勧めてくれたのだと思うが、小説の会社とわが社(いまでは”かつて”だが・・)大分お客様相談室の性格が異なる。わが社の相談室はただの取次で対応と処理は現場がやってねというスタンスだが、この中堅塞品メーカーは相談室のメンバーが直接クレーム処理に当たることになっている。
主人公は大手広告代理店をケンカが元で退職せざるおえなくなり、中途採用で入社したこの会社でも4か月目に役員会議室でケンカをしてしまいこの部屋に飛ばされた若者だ。
わが社もそうだが、こういうところは大体窓際の部類で何か会社の中でいけないことをしたか、定年退職間際の一時留置場所みたいなところがある。
もうすぐに辞めてやると思いながら、家賃の滞納を解消しなければならない事情があり、我慢の勤務をしている。室長はプライドだけが高く能力はゼロ。責任感もゼロ。実質的な業務はすべて通称“謝罪のプロ”と言われている主任だ。しかし、この主任も競艇狂いでまったくやる気なしなのだが、いざクレーム処理となると驚異的な能力を発揮する。相手をなだめ、おだて、時にはヨイショしたり、ヤクザには逆に脅しをかけながら次々とクレームを処理してゆく。それを見習いながら、主人公もなんとか自分の居場所を見つけようとし、生きることは何であるか、自分にとって大切なものとはなんだったのか、そういうこと自問自答する。そして、クレーム対応をしているうちに副社長の不正を見つけてしまう。同僚の自殺をきっかけにその不正を暴こうと半端ものの社員たちが立ち上がる・・。
「神様のひと言」とはこの会社の社訓の一部だが、本当に意味するものは何であったのか、それはこの小説をこれから読みたい人のために秘密にしておく・・。
といったような内容だ。もちろんこれは小説なのだからこんなにスパッとクレームが片付くはずはないのだが、相手を小バカにしながら対応する姿というのは、う~ん、確かにそうだよな~。と納得するのである。こいつには明らかに勝てるとわかった相手には僕もそんな気持ちで挑んだものだ。相手の揚げ足を取りながら少しずつ追いつめてゆくというのはけっこう面白かったりするのだ。クレーム処理に行ってきますと外出して遊んでいたこともあった。もうすでに時効だから告白するが、法隆寺にも行ったことがある。さすがに拝観料を払うところまでは入らなかったが、無料で歩ける境内を散歩して帰ってきた。
だから主人公たちの気持ちや行動には共感できるものがあるのだ。
しかし、この本の神髄は主人公のこのセリフに表れているように思う。『会社はあんたの遊び場じゃない。社員はあんたのおもちゃじゃない。何の苦労もせずに(苦労をしたとしても。※これは僕が加筆したものです。)手に入れた肩書で、人に偉そうに指図するな。人の気持ちを操るな。他人の生活を脅かすな!』
これだ。

面白かった。久しぶりに、早く帰りの時間になってくれないかな~。電車に乗って続きを読みたいなと思った。

企業ものなら僕も面白おかしく物語を作れるのじゃないかと物語のプロットを考えてみた。これはあくまでもフィクションである。あくまでも・・。
まずは登場人物
契約社員A
舞台となる会社が新規事業を始めるのにあたって、他社で類似の事業を経験したことがあるという理由だけでこの部署に異動してきた人物。会社の組織図にも乗っていないが実質的な権力者。モリモトソウリが問題発言だと言われたようなことを現実化したような性格。
課長B
契約社員Aの完全な傀儡。傀儡だけならまだいいが、管理職でありながらこれは意図してやっているのかどうかわからないが、部下に対して何の命令もしないし、情報も伝達しない。
担当課長C
仕事ではしょっちゅう抜けを起こすがなぜか憎めない。旧知の人脈を活かし、この職場随一の情報通。
係長D
結構真面目で、休まない。実質的に現場を切り盛りしている。
係長E
別の部署から移動してきたが、我が道だけを行っている。
社員E
結構真面目の新婚さん。飄々としながら仕事をこなす。係長Dとペアで実質的な運営者。
社員F
50代の平社員。役職が付いていないのを引け目に思っているのか、性格も卑屈。名前を貼り付けたボードにはなぜか「美化係」というシールを貼っている。年下の社員Eに異常なほどライバル心を持っている。

(こんな感じ)
社員G
受託をしたこの事業が2年後契約更新されなければ次はどこに行かされるのだろうかといつも心配している。
社員H
初顔合わせでいきなり、「私、バツイチです。」と言う自意識過剰気味な性格。意識高い系で仕事もできると思い込んでいる。趣味も自慢したくて、誰も見たくないであろう墨で描いた読めない文字をタブレットで見せびらかしている。
担当課長I
この物語の語り部。あと2年と少しで定年退職を迎える去年まで系列のコンビニで店員をやっていた窓際族。歳の割にパソコン操作がうまく、便利屋的に使われている。向上心は今更持っても仕方がないと思っていて、趣味に生きることができればそれで本望であると思っている。

とまあ、こんな感じか。
あらすじはこうだ。
新規事業を受託したある会社。受託したもののまったくその業界で通用するノウハウは持っていない。唯一その仕事を経験したことがあるのが契約社員Aだった。会社としては正社員でもないのに彼女に実質的な運営を任せた。彼女は自分の居場所を確保するため暴走し始める。命令は思いつき、朝令暮改は当たり前で、途中でやっていた仕事を投げ出すこともある。自分以外の他者は無能であり、自分がいないとこの事業は回らないのだと社内で喧伝することで自分の重要性を担保したいと考えている。
そんな組織に事業拡大の命令が下った。補充要因として送り込まれたのが今回の登場人物たちだ。
親会社からの出向組だが、だいたいこんなところに出向してくるにはひとつもふたつも訳がある。仕事ができない、使いづらい、何かいけないことをやらかしてしまった。そんなところだ。
契約社員Aはさらにハッスルし、自分の地位を確固たるものにすべく登場人物たちを見下し、罵倒する。こいつらに仕事を覚えられたら自分が捨てられるとでも思っているのだ。彼らにしても今までとはまったく畑違いの仕事に戸惑い、常に正反対に変わってしまう命令に右往左往する。
そんな状況を本部の幹部たちは知っているのだが、当の幹部たちも自分たちが仕事の構造をわかっていないので何も口出しができない。
この組織の責任者は課長Bなのであるが、本来の優しさのゆえか、それとも無気力なのか、まったく命令も指示もしないので余計に契約社員Aが強く出る。もう、課長Bは完全に契約社員Aを恐れている。ヘビの前に佇むカエルみたいなものだ。矛盾だらけの命令は課長Bを飛び越えて直接発せられる。だから余計に混乱する。
なので、課長B以外のメンバーはすべて心の中に矛盾を抱えて日々を送っている。「これは社をあげて挑んだ新規事業に参加されている皆さんへのお願いです。(これは契約社員Aのセリフ)」と言われても、全員がそんなもの会社が勝手にやっているだけだし、自分たちは望んでここに異動してきたのではないと思っているので何の事件も起こらない。これでは物語としては全然面白くない。
本当は語り部である担当課長Iあたりが課長Bを鼓舞して、仲間を巻き込み契約社員Aを追い出すくらいの業績を上げましたというようなストーリーか、子飼いのアルバイトの退勤時刻をごまかして給料を水増ししてやっているという不正を暴くストーリーが出来上がれば面白いのだが、その担当課長Iも、時々面白がって契約社員Aを怒らせることを言って楽しんでいるくらいのストーリーしか描けないのだからやっぱり全然面白くない。
大体、彼は定時に帰れて休日をきちんと取れればあとはどうでもいいというくらいにしか思っていないのである。それどころか、この課長Bにこのままここでいてくれないとほかのバリバリの管理職がやってくると余計な仕事をやらされるのではないかと考えているのでこのままの状態が続いてほしいなどとも思っている。また、このカオスな職場の状況を傍観者のように楽しんでいたりするのであるから、小説の中のヒーローになどなれっこないのである。
まあ、どちらにしても、会社全体の不正でなくてアルバイトの給料を誤魔化すくらいだったら元々が小説にはならないだろうな。
それに、せっかく設定した係長Dから社員Hまではあまりにも我が道を行っているので物語にどう絡ませようかまったく構想が浮かばない。キャラクターとしては面白いが・・。

だから僕は、こうやってすでに出来上がった小説を読む方がいいのである。

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